上 下
52 / 131
第三章

52話 違和感と外来種

しおりを挟む
「スライム、予想よりはずっと少なかったね~」

 大部分が巨大スライムに合体したからかな。
 そうのんびりと言いながらノアはスライムをどんどん倒していった。
 剣で軽く突いてるだけにしか見えないのに魔物ごとに破裂したり凍りついたり死に様が異なる。

「纏わせる魔術を微妙に変えてるのさ、凍らせた奴は持って帰ろうと思って~」
「持って帰る?」
「そう、このスライム他よりも色が濃いでしょ。猛毒持ちなんだよ~」

 巨大スライムのメンバーにこの子たちがいなくてよかったね。
 おっとりと微笑まれるが、言われた側の俺はぞっとした。
 スライムというのは水袋みたいなものだ。
 巨大スライムが毒入りの水で構成されていたらマルコの命は助からなかったかもしれない。

「まあ、基本的に彼らは同じ種で合体するけどね~」
「毒持ちのスライムが少数で良かった……」
「というか居るはずがないんだよね、ポイズンスライムは毒の沼地とかに生息するものだから」

 ここの水は普通に魚が住んでるし、そう言いながらノアは沼を指さした。
 水は透き通っているとは言い難いが、確かに有害そうな色ではない。水面が時折揺れるのは魚の仕業だろう。 

「そもそもあのレベルの巨大スライムになれる数が暮らせる規模とも思えないな~」

 数百匹は必要だろう、そう万能の英雄は指折り数えながら言う。
 
「自警団に仕事を丸投げされたのはある意味ラッキーだったかもね~」

 彼らだけじゃ異常に気付かないだろうし、最悪ポイズンスライムに殺されてたかも。
 そう剣先で氷漬けのスライムを突きながらノアは考え込んでいるようだった。
 俺も彼と同じように考察する。毒持ちのスライムはつまり外来種ということだ。
 本来ここにはいない筈の魔物が唐突に現れたということは、誰かが移住させたということではないか。
 俺が考えを口にするとノアも頷いて同意した。

「でも、そんなことする理由がわからないんだよね~」
「理由……飼っていたのを捨てた、とか?」
「となるとテイマーとか?でも魔物を飼育する際はギルドとかに届け出なきゃいけないんだよね~」

 魔物の生体を人の住む場所に遺棄したらかなり重いペナルティを課せられる筈だけど。
 念の為この街のギルドに確認してみようか。ノアの言葉に反論する理由はなかった。

「その時は君にお願いするよ。私はあまりそういう場所に顔を出したくないから~」

 自警団からの依頼は酒場で貰ったものだし。そう言われて俺は了承した。

「色々報告する必要があるしポイズンスライムだけ全部倒して、今日はもう切り上げた方がいいかな~」

 でもクロノちゃんをもう少し追い込んでおきたいんだけどね。
 涼しい顔で鬼のようなことを言いながらノアはスライムと戦い続けている少女を眺めた。

「ほら、微弱だけど自己強化は出来るようになったみたい。全身に薄く魔力を纏ってる。この場合は効率が悪いんだけどね~」

 スライムは素早いわけでも攻撃力が強いわけでもない。
 だから強化するなら力に関わる部分だけでいい。そう剣士は淡々と告げた。

「まあスライムはどんな馬鹿力で殴ってもダメージなんて与えられないけどね~」
「じゃあ何でスライムと戦わせて……」

 あははと笑う相手に、ついそんなぼやきが口から出かける。
 性別不明の美形は本心のわからない笑みで俺に答えた。

「実はね、彼女がスライムを倒すこと自体は別に目的じゃないんだよ」 

 倒すだけなら私と君で瞬殺だしね。
 そう言いながら彼は泣きそうな顔で剣を振り続けるクロノを見つめた。

「苦戦の経験を積ませているんだ。不毛で辛くて長い程いい。無力感が煮詰まって爆発しちゃう程に」

 戦いを終わらせる為なら何だってやってやる。そう思った瞬間に冒険者は化けるよ。
 歴戦の英雄の表情で言われ俺は己と巨大スライムとの戦いを思い出した。
 確かにあの一戦で急激に成長できた気がする。

「クロノちゃんは今の段階で強化と攻撃を同時に出来るようになっている。実戦での学習能力は凄まじいね~」

 これなら半年ぐらいで金級冒険者にはなれるんじゃないの。
 ノアの言葉にクロノの才能に対する嫉妬を感じる。しかしそれは間違いだと自分に言い聞かせた。
 生まれ持った素質だけでは無い。今もクロノは数時間以上不毛な戦闘を継続している。
 彼女の意志の強さと努力の結果が強さに反映されているだけだ。

「そうだ、私は彼女を見守っておくから、君はこのスライム持ってギルドに行ってくれる~?」

 異変の伝達は早い方がいいしね。
 持参した布で凍り付いた毒スライムを包むとノアは俺にそれを差し出してきた。
 先程は頷いたが実際に行動しなければいけないとなると僅かに緊張する。
 アルヴァは街での評判が良くない。ギルドの人間がまともに話を聞いてくれるだろうか。
 最悪ポイズンスライムを持ち込んだのはお前だろうと冤罪をかけられるかもしれない。
 不安が表情に出ていたのか、ノアがぽんぽんと慰めるように肩を叩いてきた。

「大丈夫、クロノちゃんが気絶したら責任もって家まで運んであげるから~」
「いや、そうじゃなくて」
「用事済ませたらそのまま帰って良いよ、今日の彼女に料理の支度とか出来ると思わないし~」
「……わかった、クロノを宜しく頼む」

 そうして俺は万能の英雄に見送られながら森の奥から街へと単身戻ったのだった。

しおりを挟む
感想 29

あなたにおすすめの小説

異世界転生!俺はここで生きていく

おとなのふりかけ紅鮭
ファンタジー
俺の名前は長瀬達也。特に特徴のない、その辺の高校生男子だ。 同じクラスの女の子に恋をしているが、告白も出来ずにいるチキン野郎である。 今日も部活の朝練に向かう為朝も早くに家を出た。 だけど、俺は朝練に向かう途中で事故にあってしまう。 意識を失った後、目覚めたらそこは俺の知らない世界だった! 魔法あり、剣あり、ドラゴンあり!のまさに小説で読んだファンタジーの世界。 俺はそんな世界で冒険者として生きて行く事になる、はずだったのだが、何やら色々と問題が起きそうな世界だったようだ。 それでも俺は楽しくこの新しい生を歩んで行くのだ! 小説家になろうでも投稿しています。 メインはあちらですが、こちらも同じように投稿していきます。 宜しくお願いします。

休憩スキルで異世界無双!チートを得た俺は異世界で無双し、王女と魔女を嫁にする。

ゆう
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生したクリス・レガード。 剣聖を輩出したことのあるレガード家において剣術スキルは必要不可欠だが12歳の儀式で手に入れたスキルは【休憩】だった。 しかしこのスキル、想像していた以上にチートだ。 休憩を使う事でスキルを強化、更に新スキルを獲得できてしまう… そして強敵と相対する中、クリスは伝説のスキルである覇王を取得する。 ルミナス初代国王が有したスキルである覇王。 その覇王発現は王国の長い歴史の中で悲願だった… それ以降、クリスを取り巻く環境は目まぐるしく変化していく… ※小説家になろう、カクヨムでも掲載しております。

賢者の幼馴染との中を引き裂かれた無職の少年、真の力をひた隠し、スローライフ? を楽しみます!

織侍紗(@'ω'@)ん?
ファンタジー
 ルーチェ村に住む少年アインス。幼い頃両親を亡くしたアインスは幼馴染の少女プラムやその家族たちと仲良く過ごしていた。そして今年で十二歳になるアインスはプラムと共に近くの町にある学園へと通うことになる。  そこではまず初めにこの世界に生きる全ての存在が持つ職位というものを調べるのだが、そこでアインスはこの世界に存在するはずのない無職であるということがわかる。またプラムは賢者だということがわかったため、王都の学園へと離れ離れになってしまう。  その夜、アインスは自身に前世があることを思い出す。アインスは前世で嫌な上司に手柄を奪われ、リストラされたあげく無職となって死んだところを、女神のノリと嫌がらせで無職にさせられた転生者だった。  そして妖精と呼ばれる存在より、自身のことを聞かされる。それは、無職と言うのはこの世界に存在しない職位の為、この世界がアインスに気づくことが出来ない。だから、転生者に対しての調整機構が働かない、という状況だった。  アインスは聞き流す程度でしか話を聞いていなかったが、その力は軽く天災級の魔法を繰り出し、時の流れが遅くなってしまうくらいの亜光速で動き回り、貴重な魔導具を呼吸をするように簡単に創り出すことが出来るほどであった。ただ、争いやその力の希少性が公になることを極端に嫌ったアインスは、そのチート過ぎる能力を全力にバレない方向に使うのである。  これはそんな彼が前世の知識と無職の圧倒的な力を使いながら、仲間たちとスローライフを楽しむ物語である。  以前、掲載していた作品をリメイクしての再掲載です。ちょっと書きたくなったのでちまちま書いていきます。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

異世界あるある 転生物語  たった一つのスキルで無双する!え?【土魔法】じゃなくって【土】スキル?

よっしぃ
ファンタジー
農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する! 土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。 自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。 『あ、やべ!』 そして・・・・ 【あれ?ここは何処だ?】 気が付けば真っ白な世界。 気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ? ・・・・ ・・・ ・・ ・ 【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】 こうして剛史は新た生を異世界で受けた。 そして何も思い出す事なく10歳に。 そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。 スキルによって一生が決まるからだ。 最低1、最高でも10。平均すると概ね5。 そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。 しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。 そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。 追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。 だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。 『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』 不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。 そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。 その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。 前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。 但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。 転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。 これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな? 何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが? 俺は農家の4男だぞ?

元外科医の俺が異世界で何が出来るだろうか?~現代医療の技術で異世界チート無双~

冒険者ギルド酒場 チューイ
ファンタジー
魔法は奇跡の力。そんな魔法と現在医療の知識と技術を持った俺が異世界でチートする。神奈川県の大和市にある冒険者ギルド酒場の冒険者タカミの話を小説にしてみました。  俺の名前は、加山タカミ。48歳独身。現在、救命救急の医師として現役バリバリ最前線で馬車馬のごとく働いている。俺の両親は、俺が幼いころバスの転落事故で俺をかばって亡くなった。その時の無念を糧に猛勉強して医師になった。俺を育ててくれた、ばーちゃんとじーちゃんも既に亡くなってしまっている。つまり、俺は天涯孤独なわけだ。職場でも患者第一主義で同僚との付き合いは仕事以外にほとんどなかった。しかし、医師としての技量は他の医師と比較しても評価は高い。別に自分以外の人が嫌いというわけでもない。つまり、ボッチ時間が長かったのである意味コミ障気味になっている。今日も相変わらず忙しい日常を過ごしている。 そんなある日、俺は一人の少女を庇って事故にあう。そして、気が付いてみれば・・・ 「俺、死んでるじゃん・・・」 目の前に現れたのは結構”チャラ”そうな自称 創造神。彼とのやり取りで俺は異世界に転生する事になった。 新たな家族と仲間と出会い、翻弄しながら異世界での生活を始める。しかし、医療水準の低い異世界。俺の新たな運命が始まった。  元外科医の加山タカミが持つ医療知識と技術で本来持つ宿命を異世界で発揮する。自分の宿命とは何か翻弄しながら異世界でチート無双する様子の物語。冒険者ギルド酒場 大和支部の冒険者の英雄譚。

追放もの悪役勇者に転生したんだけど、パーティの荷物持ちが雑魚すぎるから追放したい。ざまぁフラグは勘違いした主人公補正で無自覚回避します

月ノ@最強付与術師の成長革命/発売中
ファンタジー
ざまぁフラグなんて知りません!勘違いした勇者の無双冒険譚  ごく一般的なサラリーマンである主人公は、ある日、異世界に転生してしまう。  しかし、転生したのは「パーティー追放もの」の小説の世界。  なんと、追放して【ざまぁされる予定】の、【悪役勇者】に転生してしまったのだった!  このままだと、ざまぁされてしまうが――とはならず。  なんと主人公は、最近のWeb小説をあまり読んでおらず……。  自分のことを、「勇者なんだから、当然主人公だろ?」と、勝手に主人公だと勘違いしてしまったのだった!  本来の主人公である【荷物持ち】を追放してしまう勇者。  しかし、自分のことを主人公だと信じて疑わない彼は、無自覚に、主人公ムーブで【ざまぁフラグを回避】していくのであった。  本来の主人公が出会うはずだったヒロインと、先に出会ってしまい……。  本来は主人公が覚醒するはずだった【真の勇者の力】にも目覚めてしまい……。  思い込みの力で、主人公補正を自分のものにしていく勇者!  ざまぁフラグなんて知りません!  これは、自分のことを主人公だと信じて疑わない、勘違いした勇者の無双冒険譚。 ・本来の主人公は荷物持ち ・主人公は追放する側の勇者に転生 ・ざまぁフラグを無自覚回避して無双するお話です ・パーティー追放ものの逆側の話 ※カクヨム、ハーメルンにて掲載

【完結】悪役に転生したのにメインヒロインにガチ恋されている件

エース皇命
ファンタジー
 前世で大好きだったファンタジー大作『ロード・オブ・ザ・ヒーロー』の悪役、レッド・モルドロスに転生してしまった桐生英介。もっと努力して意義のある人生を送っておけばよかった、という後悔から、学院で他を圧倒する努力を積み重ねる。  しかし、その一生懸命な姿に、メインヒロインであるシャロットは惚れ、卒業式の日に告白してきて……。  悪役というより、むしろ真っ当に生きようと、ファンタジーの世界で生き抜いていく。  ヒロインとの恋、仲間との友情──あれ? 全然悪役じゃないんだけど! 気づけば主人公になっていた、悪役レッドの物語! ※小説家になろう、エブリスタにも投稿しています。

処理中です...