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第一章
第20話 ヒロイン対決?
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台所の入り口には男物のシャツを羽織った美少女が立っていた。
漆黒の髪はしっとりと濡れ、宝石のような赤い瞳がこちらを見つめている。
手足に存在する怪我の数々痛々しいが、それが尚更クロノをか弱く保護すべき存在に思わせた。
実際は並みの冒険者なんて足下に及ばない最強魔法剣士なのだが。
けれど今はまだ誰もそのことを知らない。クロノ本人さえ。
作者である俺だけが知っている。他は女神たちぐらいか。
彼女を雑用係としか思っていないミアンが不快げに口を開いた。
「クロノ、あんたって……戦闘センスも皆無なら空気も読めないのね」
だから図々しくパーティーのお荷物でいられるのかしら?
先程までの男に甘える表情を消し去り魔女は少女を嘲笑う。
それに対しクロノはひたすら申し訳なさそうな顔をしていた。
「ごめんなさい、だけどボク……」
「言い訳するぐらいなら謝らないで、余計腹が立つから」
そんな事をミアンは言い捨てるが、謝罪がなければそれはそれで怒るだろう。
さて、どうやってこの胃が痛くなる空気を破壊するか。
子供を虐めるのはやめろ、仲間同士で喧嘩するな。
どちらの台詞もアルヴァらしくない。ミアンに焼かれてしまいそうだ。
「……おいミアン、さっさとお前の部屋に行くぞ」
そんな奴放っておけ、そう言いながら彼女の肩を抱く。自分はヤンチャ系イケメンホストだと言い聞かせながらのアクションだ。
クロノの登場で機嫌を損ねたミアンに再度引っ叩かれないかと不安だったが、予想外に彼女は従順だった。
「もう、仕方ないわね……馬鹿犬」
そう自分の肩にある俺の手を握り返しながら色っぽく言う。これで部屋に行って何もしなかったらどうなるのだろう。
灰村タクミとしての人生、恋人どころか家族以外の女性と個室で二人っきりになる機会すらなかった。つまり経験がない。
ミアンの部屋に行った途端、アルヴァモードに体が勝手に切り替わってくれないものか。最中だけ俺の意識もカットしてくれていいから。
そうならなかった場合、あれやこれやが下手くそ過ぎて別人認定され俺はこんがりと焼死するだろう。
もういっそ魔物が襲撃してきてくれないだろうか。もしくはそのレベルで空気を壊してくれる存在が。
そんなことをミアンのご機嫌伺いをしながら願う。そして俺の祈りは天に届いたようだった。
「あの、アルヴァさん。さっきは……こんなボクに優しくしてくれてありがとうございました!お礼言うの忘れててごめんなさい!」
アルヴァさんの声が聞こえたからどうしてもすぐに言いたくて。 お話の邪魔をして申し訳ありませんでした!
そうガバリと頭を下げる少女は体育会系の元気な後輩キャラを思わせる。そして、今俺が肩を抱いているミアンは。
「……さっきは、優しく?ああそう、だからあの娘あんたのシャツ着てるってワケ」
「ち、ちが、誤解だ」
「一週間振りに戻ってきて、私より先にあんな小娘と……やっぱりあんた、成り代わりね。脳吸い決定。退治してあげるから焼け死になさい」
違ってたら墓ぐらい立ててあげるから。
もうこれ、暴力ヒロインどころか、焼殺ヒロインだ。
全く有り難くない言葉と共に炎の魔女は再び魔力を掌に集中させ始めた。
漆黒の髪はしっとりと濡れ、宝石のような赤い瞳がこちらを見つめている。
手足に存在する怪我の数々痛々しいが、それが尚更クロノをか弱く保護すべき存在に思わせた。
実際は並みの冒険者なんて足下に及ばない最強魔法剣士なのだが。
けれど今はまだ誰もそのことを知らない。クロノ本人さえ。
作者である俺だけが知っている。他は女神たちぐらいか。
彼女を雑用係としか思っていないミアンが不快げに口を開いた。
「クロノ、あんたって……戦闘センスも皆無なら空気も読めないのね」
だから図々しくパーティーのお荷物でいられるのかしら?
先程までの男に甘える表情を消し去り魔女は少女を嘲笑う。
それに対しクロノはひたすら申し訳なさそうな顔をしていた。
「ごめんなさい、だけどボク……」
「言い訳するぐらいなら謝らないで、余計腹が立つから」
そんな事をミアンは言い捨てるが、謝罪がなければそれはそれで怒るだろう。
さて、どうやってこの胃が痛くなる空気を破壊するか。
子供を虐めるのはやめろ、仲間同士で喧嘩するな。
どちらの台詞もアルヴァらしくない。ミアンに焼かれてしまいそうだ。
「……おいミアン、さっさとお前の部屋に行くぞ」
そんな奴放っておけ、そう言いながら彼女の肩を抱く。自分はヤンチャ系イケメンホストだと言い聞かせながらのアクションだ。
クロノの登場で機嫌を損ねたミアンに再度引っ叩かれないかと不安だったが、予想外に彼女は従順だった。
「もう、仕方ないわね……馬鹿犬」
そう自分の肩にある俺の手を握り返しながら色っぽく言う。これで部屋に行って何もしなかったらどうなるのだろう。
灰村タクミとしての人生、恋人どころか家族以外の女性と個室で二人っきりになる機会すらなかった。つまり経験がない。
ミアンの部屋に行った途端、アルヴァモードに体が勝手に切り替わってくれないものか。最中だけ俺の意識もカットしてくれていいから。
そうならなかった場合、あれやこれやが下手くそ過ぎて別人認定され俺はこんがりと焼死するだろう。
もういっそ魔物が襲撃してきてくれないだろうか。もしくはそのレベルで空気を壊してくれる存在が。
そんなことをミアンのご機嫌伺いをしながら願う。そして俺の祈りは天に届いたようだった。
「あの、アルヴァさん。さっきは……こんなボクに優しくしてくれてありがとうございました!お礼言うの忘れててごめんなさい!」
アルヴァさんの声が聞こえたからどうしてもすぐに言いたくて。 お話の邪魔をして申し訳ありませんでした!
そうガバリと頭を下げる少女は体育会系の元気な後輩キャラを思わせる。そして、今俺が肩を抱いているミアンは。
「……さっきは、優しく?ああそう、だからあの娘あんたのシャツ着てるってワケ」
「ち、ちが、誤解だ」
「一週間振りに戻ってきて、私より先にあんな小娘と……やっぱりあんた、成り代わりね。脳吸い決定。退治してあげるから焼け死になさい」
違ってたら墓ぐらい立ててあげるから。
もうこれ、暴力ヒロインどころか、焼殺ヒロインだ。
全く有り難くない言葉と共に炎の魔女は再び魔力を掌に集中させ始めた。
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