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2話 冷え切った夫婦
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結婚してから二年が経った。薄々わかっていたが夫の女癖は一向に改善されなかった。
婚約破棄ごっこが出来なくなった代わりに、今度は離婚ごっこだ。
流石に付き合いきれないから寸劇への参加は断っている。
代わりに夫は閨で私を嫉妬深く恐ろしい女だと愛人に吹き込んでいるらしい。
離婚して君と夫婦になりたいけれど簡単に別れることが出来ないのだと甘い声で大嘘を囁いているのだろう。
そんな出鱈目を口にするのは今に始まったことではない。結婚前からそうだった。
名ばかり男爵家の根暗で不愛想な令嬢が一方的に名門伯爵家の輝かしい嫡男に執着しているのだと。
レイモンドは婚約者の陰湿さと嫉妬深さに内心疲れ癒しを求めているのだと。
そんな風に取り巻きや使用人の口を借りて言いふらしていたことだって今なら知っている。
私の前では遊び相手の女たちを悪く言って、そして彼女たちの前では逆に私の事を悪く言う。そんな狡くて卑怯な男が私の夫だった。
別にレイモンドが誰を愛そうが構わないのだけれど。ただ私「たち」に迷惑をかけないで欲しい。
私は膨らんだお腹を優しくさする。性別はまだわからない。元気だから男の子かもしれない。
レイモンドと違って私は浮気などしないから当然夫の子供だ。男児なら次期伯爵である。
決して父親のような男にならないように育てよう。まだ性別も分からない内からそんなことを決意する自分に笑ってしまう。
確か今夫が真実の愛とやらを育んでいるのは二か月前から住み込みで働き始めたメイドだったか。没落した男爵家の令嬢だという。
確か今年十八歳になるカリーナという娘だった。目鼻立ちのはっきりとした美人だった。
当初、私も実家が貧乏男爵家なこともあって彼女に少し同情する気持ちもあった。
だが彼女が私を見る目に敵対心しか浮かんでいないのを見て良好な関係になることを諦めた。
もしかしたら最初からレイモンドの「お手付き」だったのかもしれない。
私やお腹の子に危害を加えられたら困るので執事に命じて彼女には私に関わらない仕事をさせるように頼んだ。
結果彼女はレイモンドの世話をばかりするようになったようだ。そして二人の真実の愛とやらは随分と燃え上がっているようだった。
私はそれを夫婦の寝室で聞かされている。胎教に悪いどころではない。何とかしなければ。
「そんなにお好きなら正式な愛人にしてしまえばいいのに」
「彼女に伯爵の愛人として恥ずかしくない振る舞いか出来るならね」
絶対無理だな。レイモンドは寝台の上で快活に笑った。
私は同じ寝台に彼とは間を開けて寝ている。本当は自室で寝たいのに彼に半ば攫われるようにして連れてこられた。
「カリーナは自分も子供が欲しい。絶対に男の子を生んで見せるって言うんだ。全く、頼んでもいないのに!」
彼に珍しく舌打ちをしそうな声だった。
「本当に産んだならどうなるのですか?」
「絶対認知しないしカリーナは首だよ」
「可哀想ですよ」
別れるのはいいけれどもう少し彼女の生活を考えてあげないと。
私がそう告げるとレイモンドが面倒くさそうに「なら君が考えてよ」と言いながら立ち上がった。
そして無言で部屋を出ていく。
「私が考えて宜しいのですか?」
彼の背に声を投げかける。好きにすればいいと不機嫌そうに言われた。
このような男にはならないように育てよう。私は自らの腹を優しく撫でながら改めて誓った。
婚約破棄ごっこが出来なくなった代わりに、今度は離婚ごっこだ。
流石に付き合いきれないから寸劇への参加は断っている。
代わりに夫は閨で私を嫉妬深く恐ろしい女だと愛人に吹き込んでいるらしい。
離婚して君と夫婦になりたいけれど簡単に別れることが出来ないのだと甘い声で大嘘を囁いているのだろう。
そんな出鱈目を口にするのは今に始まったことではない。結婚前からそうだった。
名ばかり男爵家の根暗で不愛想な令嬢が一方的に名門伯爵家の輝かしい嫡男に執着しているのだと。
レイモンドは婚約者の陰湿さと嫉妬深さに内心疲れ癒しを求めているのだと。
そんな風に取り巻きや使用人の口を借りて言いふらしていたことだって今なら知っている。
私の前では遊び相手の女たちを悪く言って、そして彼女たちの前では逆に私の事を悪く言う。そんな狡くて卑怯な男が私の夫だった。
別にレイモンドが誰を愛そうが構わないのだけれど。ただ私「たち」に迷惑をかけないで欲しい。
私は膨らんだお腹を優しくさする。性別はまだわからない。元気だから男の子かもしれない。
レイモンドと違って私は浮気などしないから当然夫の子供だ。男児なら次期伯爵である。
決して父親のような男にならないように育てよう。まだ性別も分からない内からそんなことを決意する自分に笑ってしまう。
確か今夫が真実の愛とやらを育んでいるのは二か月前から住み込みで働き始めたメイドだったか。没落した男爵家の令嬢だという。
確か今年十八歳になるカリーナという娘だった。目鼻立ちのはっきりとした美人だった。
当初、私も実家が貧乏男爵家なこともあって彼女に少し同情する気持ちもあった。
だが彼女が私を見る目に敵対心しか浮かんでいないのを見て良好な関係になることを諦めた。
もしかしたら最初からレイモンドの「お手付き」だったのかもしれない。
私やお腹の子に危害を加えられたら困るので執事に命じて彼女には私に関わらない仕事をさせるように頼んだ。
結果彼女はレイモンドの世話をばかりするようになったようだ。そして二人の真実の愛とやらは随分と燃え上がっているようだった。
私はそれを夫婦の寝室で聞かされている。胎教に悪いどころではない。何とかしなければ。
「そんなにお好きなら正式な愛人にしてしまえばいいのに」
「彼女に伯爵の愛人として恥ずかしくない振る舞いか出来るならね」
絶対無理だな。レイモンドは寝台の上で快活に笑った。
私は同じ寝台に彼とは間を開けて寝ている。本当は自室で寝たいのに彼に半ば攫われるようにして連れてこられた。
「カリーナは自分も子供が欲しい。絶対に男の子を生んで見せるって言うんだ。全く、頼んでもいないのに!」
彼に珍しく舌打ちをしそうな声だった。
「本当に産んだならどうなるのですか?」
「絶対認知しないしカリーナは首だよ」
「可哀想ですよ」
別れるのはいいけれどもう少し彼女の生活を考えてあげないと。
私がそう告げるとレイモンドが面倒くさそうに「なら君が考えてよ」と言いながら立ち上がった。
そして無言で部屋を出ていく。
「私が考えて宜しいのですか?」
彼の背に声を投げかける。好きにすればいいと不機嫌そうに言われた。
このような男にはならないように育てよう。私は自らの腹を優しく撫でながら改めて誓った。
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