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レノアの章

奪われた婚約

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 全部、全部上手くいった。

 そのことで教会側の人間は青くなったし王家は大勢の前で恥をかいた。

 何故勝手なことをしたと責めてくる大人もいたけれど、教会で騒ぎを起こしたのは私ではない。

 愚かなジルク王子が勝手に勘違いして暴走しただけだ。私は観衆に誤解されないように振舞っただけ。

 聖女としての立場を自覚しイメージを崩さないように動いただけだ。

 それに予知夢のことはずっと前に大人たちに話している。

 アイリ様に避妊だけさせて「何事もなかった」で済ませようとしたのは私の判断ではない。

 私が避妊薬を飲ませる為に公爵令嬢に近づいて、結果ジルク王子に目をつけられた。

 当然聖女である私は誘いなど乗らない。けれど彼は勝手に私が自分に靡いていると思い込んだ。

 飲ませるだけで心と体を思い通りに出来るセイレーンの涙を持っていたから慢心した。

 ちなみにジルク王子が持っていたセイレーンの涙の本来の持ち主を探り当てたのは彼の兄だ。

 次期国王候補でありながら、義理の母親に疎まれ王家の中で影が薄かったグラン様。

 彼は年下のアイリスフィア様を秘かに愛していた。

 そして本来なら公爵令嬢である彼女は彼の妃に迎えられる筈だった。

 それに横槍を入れたのはジルク王子とその母親であるサンドラだ。

 妻に操られていた国王は長男の味方をしなかった。彼の苦悩は余程のことだっただろう。

 聖女とはいえ当時は今よりも小娘だった私に懺悔という形で弟へ、家族への憎しみを吐き出す程に。

 アイリ様が婚約者に弄ばれ自害する夢を見るよりも何年も前の話だ。一度きりのことだった。

 言わないでくれと頼まれたので私はそれを誰にも言わなかったけれど、ただずっと覚えていた。

 相手が第一王子だろうと第二王子だろうとアイリ様にとっては政略結婚でしかない。

 それでももしかしたら、最初から彼が婚約者だったなら彼女は順当に幸せな夫婦生活を営めたのだろうか。

 それは聖女である私にだってわからない。

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