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レノアの章

信仰対象と報復対象

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 初めてアイリスフィア様にお会いした時、私たちは互いに幼い少女だった。

 けれど私はその時、彼女の中に女神を見た。

 その時に初めてなにかを心から崇めることをしった。
 
 聖女として仕える相手は女神アイテルだが、私個人として祈りを捧げ続けたのはアイリスフィア様にだ。

 決して誰にも伝える気はないけれど。

 けれど私はアイリ様に女神になって欲しいわけではなかった。

 ただ美しい姿と心のまま人間としてお幸せになっていただきたかったのだ。

 けれど婚約者に飲まされた毒薬にその清らかな心と体は蝕まれた。

 私の肩を強く掴み憎しみに燃えた瞳で呪詛を吐くその姿など誰が想像したただろうか。

 あの玲瓏で清廉な公爵令嬢がそのような有様になるなど。私は彼女がそのような状態になったらなるべく人目に付かない場所に連れて行った。

 ジルク王子と距離を取れば取るほど彼女の状態は落ち着く。なのでジルク王子は国外追放しようと思った。

 恐らく彼に薬を渡したのは海国出身の彼の母サンドラだろう。彼女もその罪を責められることになるだろう。

 王家の人間には今回の件の情報は殆ど知らせなかった。教会の大人たちにもだ。

 今回の計画は私の独断と暴走でしかない。なぜなら大人たちが関わったら中途半端にされると思ったからだ。

 反省も謝罪も責任も望まない。私はジルク王子にこの国にいて欲しくない。アイリ様の婚約者でいて欲しくない。

 だから騒ぎを起こすことを嫌がる王や教会が、息子を甘やかす王妃が、弟に押し切られる兄がジルクを王子を庇えない規模の事件を起こす。

 そして王子という立場を奪われ、国を追われた人間になった彼からは。


「ふふ」


 思わず口から笑みがこぼれる。女神の式典用の白い衣装に身を包んだ自分はいつもより清楚に見えた。

 けれどその中身は復讐と策謀でどろどろに煮え滾っている。遠くでジルク王子が無邪気に手を振っているのを無視した。



 
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