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レノアの章

秘密の能力

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 私がこの国の聖女に選ばれたのは光の魔力に優れ数々の異能が使えるからだ。

 例を挙げるなら毒物への強い耐性や予知夢。

 そしてこれは親以外知らないが私は特定の条件下に置いて人の記憶を操作することもできる。

 私が正式に聖女になった時、掟で両親とは血縁でなくなった。

 それでも彼らの「その力だけは決して人に知られるな」という忠告は今でも心得ている。

 記憶を操作する力を利用する為に攫われ拷問を受ける可能性もあるし、何より私がこの力を悪用するのを恐れて迫害される可能性もある。

 確かにこの国で聖女は崇められているが、それがいつまで続くかわからない。

 私がそのような目に遭わない為にという親心だった。

 そして私は二人の言いつけを守り抜いたから教会の幹部たちも王族たちもこの力を知らない。

 私には友人もいないから口を滑らせることもなかった。

 聖女は女神の代理であり時には依り代扱いもされる。人でありながら人ではなく、孤高であることが求められる。その為の縁切りだ。

 それなのに貴族や王族がいる学園で生徒として数年を過ごすのは、つまらない理由だ。

 聖女と同じ学園に通った、聖女と同じクラスだった。そんなものを貴族たちが求めた結果だった。

 だが今回の件に関してはとても都合がいい。私はできるだけ後輩らしくジルク王子へ振舞った。

 彼は相手が下手に出ればその分だけ図に乗る男だ。アイリ様の代わりに私を捜すようになるのは遅くなかった。

 ジルク王子はやたら二人きりの茶会に私を誘いたがった。私はそれにつきあい適当に薬が効いた振りをした。

 いや厳密にいえば効きそうで効かない振りだ。ケラケラと普段しないような笑い方をするだけで王子は薬が効いていると思い込んだ

 もし私の記憶操作の能力が優れていればジルク王子を操りアイリ様との婚約を解消させ、学園から自首退学させたい。

 けれど私の力は万能ではない。忘れたいと泣いているアイリ様から忌まわしい記憶を消すことはできてもジルク王子を傀儡のように操るのは無理だ。

 だから本人の都合のいい思い込みをさせることにした。私を正式に妻に迎えるなら身も心も捧げると。それまではお預けだと。

 そして私と結婚するならアイリ様との婚約関係は邪魔になる。私がそういうと馬鹿王子は寧ろ清々しい顔で「ならあの女は捨てよう」と笑った。

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