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【6】悪霊令嬢、戸惑う
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驚きが強かったのか彼の表情には常に存在していた私への嫌悪は浮かんでいない。
そういえば神出鬼没なストーカー女の印象が強いリコリスだが、このようにルシウスに触れることはなかった。
良くも悪くも観察者タイプだったのだろう。前世の記憶が戻った今ならわかる。
悪役令嬢リコリスと婚約者であるルシウスの関係は迷惑ファンとアイドルそのものだったのだと。
決して自分が恋人になりたいわけではないのだ。
だけど彼に恋人が出来ることは許せない。彼のことは全部把握したい。だから親の権力を使って強引に婚約した。
しかしこんな愛情表現、向けられる側にとっては不気味で厄介な物でしかないだろう。
蜘蛛が自分の巣に気に入りの蝶を捕え続けるようなものだ。相手のプライベートや尊厳を無視している。
だからルシウスの私を見つめる瞳に常に嫌悪と怯えが浮かんでいたのも仕方がない。
今近くで見上げる彼の顔も美形なことは変わらないが目の下にうっすら隈ができていて顔色も悪い。
逃げたくても親の決めた婚約だから破棄できない。そして黒魔術の得意なリコリスに常に監視されている生活。
婚約をしたのは十歳の時で、それから長年リコリスに偏執的な感情を向けられ続けてきている。
彼の精神に限界が来ていても仕方がない。
だからこそヒロインとの関係を強く責める気にはなれないのだ。
「リコリス、お前……」
「……ごめんなさい、ルシウス君。私のせいでずっと大変だったよね」
「え……?」
驚いたような声に自らの失敗を悟る。
しまった。リコリスのことを客観視し過ぎてプレイヤー時代に完全に口調が戻ってしまっていた。
前世での彼は年下のゲームキャラだったこともあってゲーム仲間と語ったりする時はルシウス君と呼んでいたのだ。
しかしヒロインと女生徒たちに割って入った時はそれなりに上手く悪役令嬢として振舞えていたのに失敗してしまった。
彼との突然の遭遇と急接近で予想よりも混乱していたのかもしれない。
どう言い訳しようと戸惑う私の肩をルシウスは強く掴んだ。まるで電撃を受けたように体が硬直する。
私も、そしてリコリスの体も人との接触に慣れていないのだ。しかもこんな美形の異性から触れられるなんて。
前世で恋人どころか家族や会社関係、そして店員以外の異性とろくに話したことのない私には喜びより恐怖が勝った。
「ひえっ」
「リコリス……もしかして、昔の君に戻ったのか?!」
「……は?」
「俺のこと今ルシウス君って呼んだだろ、それに目つきだって違う……明るく花のような君に戻ったんだな!」
間抜けに口を開けた私を捕らえたまま、先程まで青白かった頬を紅潮させて婚約者が叫ぶ。
明るく花のような君? 何のことだ。前世もリコリスに転生した後も私はずっと陰属性だ。
寧ろ今の彼の顔面こそ明るく光り輝いている。私が本当に悪霊ならその笑顔が眩すぎて消滅してしまいそうだ。
それ程にルシウスは喜んでいる。しかしその理由がこちらには全く見えてこない。
私の戸惑いは減るどころか増えていくばかりだった。
そういえば神出鬼没なストーカー女の印象が強いリコリスだが、このようにルシウスに触れることはなかった。
良くも悪くも観察者タイプだったのだろう。前世の記憶が戻った今ならわかる。
悪役令嬢リコリスと婚約者であるルシウスの関係は迷惑ファンとアイドルそのものだったのだと。
決して自分が恋人になりたいわけではないのだ。
だけど彼に恋人が出来ることは許せない。彼のことは全部把握したい。だから親の権力を使って強引に婚約した。
しかしこんな愛情表現、向けられる側にとっては不気味で厄介な物でしかないだろう。
蜘蛛が自分の巣に気に入りの蝶を捕え続けるようなものだ。相手のプライベートや尊厳を無視している。
だからルシウスの私を見つめる瞳に常に嫌悪と怯えが浮かんでいたのも仕方がない。
今近くで見上げる彼の顔も美形なことは変わらないが目の下にうっすら隈ができていて顔色も悪い。
逃げたくても親の決めた婚約だから破棄できない。そして黒魔術の得意なリコリスに常に監視されている生活。
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彼の精神に限界が来ていても仕方がない。
だからこそヒロインとの関係を強く責める気にはなれないのだ。
「リコリス、お前……」
「……ごめんなさい、ルシウス君。私のせいでずっと大変だったよね」
「え……?」
驚いたような声に自らの失敗を悟る。
しまった。リコリスのことを客観視し過ぎてプレイヤー時代に完全に口調が戻ってしまっていた。
前世での彼は年下のゲームキャラだったこともあってゲーム仲間と語ったりする時はルシウス君と呼んでいたのだ。
しかしヒロインと女生徒たちに割って入った時はそれなりに上手く悪役令嬢として振舞えていたのに失敗してしまった。
彼との突然の遭遇と急接近で予想よりも混乱していたのかもしれない。
どう言い訳しようと戸惑う私の肩をルシウスは強く掴んだ。まるで電撃を受けたように体が硬直する。
私も、そしてリコリスの体も人との接触に慣れていないのだ。しかもこんな美形の異性から触れられるなんて。
前世で恋人どころか家族や会社関係、そして店員以外の異性とろくに話したことのない私には喜びより恐怖が勝った。
「ひえっ」
「リコリス……もしかして、昔の君に戻ったのか?!」
「……は?」
「俺のこと今ルシウス君って呼んだだろ、それに目つきだって違う……明るく花のような君に戻ったんだな!」
間抜けに口を開けた私を捕らえたまま、先程まで青白かった頬を紅潮させて婚約者が叫ぶ。
明るく花のような君? 何のことだ。前世もリコリスに転生した後も私はずっと陰属性だ。
寧ろ今の彼の顔面こそ明るく光り輝いている。私が本当に悪霊ならその笑顔が眩すぎて消滅してしまいそうだ。
それ程にルシウスは喜んでいる。しかしその理由がこちらには全く見えてこない。
私の戸惑いは減るどころか増えていくばかりだった。
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