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9話

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 この国の主要貴族は家系ごとに得意とする魔法を持つ。

 寧ろ魔法が得意だからこそ貴族になれたともいう。

 国創りにあたり、剣や槍、武器の扱いに長け優れた肉体を持ったものは騎士となった。

 炎や雷、風や水のエレメントを巧みに操り豊富な魔力を持つものは貴族となった。

 けれど百数十年、国の内にも外にも大局的な平和が続いた。

 故に騎士は兎も角として貴族が戦いに赴くことなど滅多になくなった。

 女であるならば猶更のことである。

 初代からの血を繋いだ結果魔法が使える。使えるが使う機会もない。

 だからこそ、貴族の女は子を、特に男子を生すことに意味があると考えられている。

 平民でありながら貴族学校に特待生として入り込み、中心人物となったマリア。

 彼女は子産みのみを重視するという姿勢を馬鹿らしいと怒った。

 人間が生きる価値はそれだけではないと。男女が求めあう理由はそれだけではないと。

 けれど今王妃となった彼女は二人の息子を持っている。

 貴族の女として生まれた私には何もない。

 子も産まれず、そして夫も失われた。年齢は重ね過ぎた。

 ならば残されたものを使って、愛する者を守るだけだ。

 残されたものは私自身、私の魔力。

 そして愛する者は。


『ディアナおばさま!』


 愛らしい幻聴が聞こえる。

 自分がまだ若さというものを完全に失っておらず、夫の愛も得られていた頃。

 姿を見せれば子犬のように駆け寄ってきて抱きしめれば甘いミルクの匂いがして。

 いつか私にも、このようにかわいらしい存在を我が子として抱ける日が訪れて欲しいと願った。

 けれど我が子の身代わりとしてアレス王子を可愛がったつもりはない。ルーク王子のこともだ。

 この国に仕える貴族の一人として、何よりもマリアの親友として、彼女の宝を守る。


「ディアナ様!!」


 すっかりと幼さの抜けた声が聞こえる。

 けれど愛らしい声であることには変わらない。

 それが貴男の望む愛でなくても。

 アレス、私は貴男を守るでしょう。

 女が振りかざしたナイフが私の頬を掠め耳を掻いた。

 態勢を崩した体を抱きしめる。愚かなお嬢さんね、そう囁いてあげた。

 その頬に手を添えてにやりと笑う。

 血まみれの掌で触れられてさぞ気持ちが悪いだろう。

 けれど濡れた手というのは『雷』には都合がいい。

 先程穴を開けるのに結構な魔力を使ってしまった。

 だから効率よく電撃を流せるのはいい。

 女の頬と剥き出しの手首にそれぞれの手を触れさせる。

 拘束が完全に解かれる前に、ナイフが私の背中に振り下ろされる前に。


 「雷女神ユピテルの…細剣レイピア!!」


 私は彼女を雷撃で刺し貫いた。

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