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夏休み編
夏の日に知る花【1】
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「リヒト、俺の命日って覚えているか?」
「……はあ?」
自室で鏡に向かって俺は尋ねた。
正確には鏡の中で胡坐をかいている人物に。
両目を厚い布で隠した白髪の青年は少しの沈黙の後唇を歪めた。
「命日って……生きてンじゃん、子豚ちゃん」
夏の暑さでボケちゃったの?
俺の胸の辺りを指差しながら盲目の賢者は言う。
揶揄うような口調だがどこか不機嫌そうな様子だ。
確かに俺は生きている。リヒトの指摘は尤もだ。
「そうだな、でも知りたいのはカインに殺された方の俺なんだが」
「……うわー」
「多分秋か冬のどちらかだと思うんだ。合ってるよな?」
「いや俺の反応で察してよ、当たり前のように会話を続けようとしないで」
そういうところマジで無理。
うんざりしたように言って青年は鏡の中から姿を消した。
「あっ、おいリヒト」
呼びかけても反応は無い。
どうやらリヒトはこの話題が余程嫌らしい。
確かに今俺が口にした白豚皇帝の時代は悲惨な出来事ばかりだった。
愚鈍な皇帝だった俺は過去に追放した異母弟のカインに誅された。
別にそのことでカインを恨んでいるということは全く無い。
完全に俺の自業自得だからだ。寧ろ汚れ仕事をさせてしまって申し訳ないと思っている。
皇帝としての責務を放棄し食べ物を貪り続け国を乱した白豚皇帝は殺されても仕方ない人間だった。
ただ、俺ぐらいは彼が死んだ日を覚えていてもいいんじゃないのかと思ったのだ。
切っ掛けは先日の『回帰祭』だ。
この国では死んだ人間は、生まれ変わった後も同じ立場になると言われている。
簡単に言えば皇帝は崩御し生まれ変わっても又皇帝の地位に就くということだ。
兵士は次も兵士で、花屋は次も花屋だ。
これはリヒトも知っていて「恵まれた人間の考えた選民妄想じゃん」と辛辣な意見だった。
まあ彼の言いたいことも今の俺はわかる。
一番最初の立場で以降の地位が固定されるというのは、良かれ悪しかれだ。
金持ちはずっと金持ちで、貧乏人はずっと貧乏人のままと同じことなのだから。
ただ、リヒトにそう言われてから教師に質問したり本で調べたりした。
結果、救済案があることを知った。
次は今生より上の立場になりたいと神に捧げ物をして祈るのだ。
皇帝が願ったらどうなるのだろうと思ったが、まだ誰にも確認はしてない。
しかし盲目の賢者はその答えにも満足しなかった。
「じゃあ貢物出来ない位貧しい人間は永遠に貧乏人じゃん」と言うのだ。
確かにその指摘も当然だ。だがこれも一応対応策がある。
年に一度、夏の間の一週間。国内で一番大きい公園に祭壇を作る。
そこに皇族や貴族、そして裕福な民たちが捧げ物を設置するのだ。
そして貧しいまま死んだ者たちの代わりに祈る。
彼らの次の生が恵まれたものになることを。
俺も第一皇子としてその儀式に立ち会った。
以前から体調が良い時は偶に参加していたのだ。
暑さに弱い俺にそんな時期は滅多に無く、そして式典の内容も余り理解していなかったが。
今年は第二皇子のカインも参加した。
まだ幼い子供なのに彼が真剣に祈る姿はどこか気高く神々しかった。
そして俺はそんな弟を横目で見ながら思ったのだ。
貧しい者の為に今自分たちは祈っている。
けれど、この祈りの中に罪人の救済は含まれていないのだ。
罪を抱え、そして裁かれて死んだ者は次も罪人になるのだろうか。
俺は夏の日にそんな疑問を抱いたのだった。
「……はあ?」
自室で鏡に向かって俺は尋ねた。
正確には鏡の中で胡坐をかいている人物に。
両目を厚い布で隠した白髪の青年は少しの沈黙の後唇を歪めた。
「命日って……生きてンじゃん、子豚ちゃん」
夏の暑さでボケちゃったの?
俺の胸の辺りを指差しながら盲目の賢者は言う。
揶揄うような口調だがどこか不機嫌そうな様子だ。
確かに俺は生きている。リヒトの指摘は尤もだ。
「そうだな、でも知りたいのはカインに殺された方の俺なんだが」
「……うわー」
「多分秋か冬のどちらかだと思うんだ。合ってるよな?」
「いや俺の反応で察してよ、当たり前のように会話を続けようとしないで」
そういうところマジで無理。
うんざりしたように言って青年は鏡の中から姿を消した。
「あっ、おいリヒト」
呼びかけても反応は無い。
どうやらリヒトはこの話題が余程嫌らしい。
確かに今俺が口にした白豚皇帝の時代は悲惨な出来事ばかりだった。
愚鈍な皇帝だった俺は過去に追放した異母弟のカインに誅された。
別にそのことでカインを恨んでいるということは全く無い。
完全に俺の自業自得だからだ。寧ろ汚れ仕事をさせてしまって申し訳ないと思っている。
皇帝としての責務を放棄し食べ物を貪り続け国を乱した白豚皇帝は殺されても仕方ない人間だった。
ただ、俺ぐらいは彼が死んだ日を覚えていてもいいんじゃないのかと思ったのだ。
切っ掛けは先日の『回帰祭』だ。
この国では死んだ人間は、生まれ変わった後も同じ立場になると言われている。
簡単に言えば皇帝は崩御し生まれ変わっても又皇帝の地位に就くということだ。
兵士は次も兵士で、花屋は次も花屋だ。
これはリヒトも知っていて「恵まれた人間の考えた選民妄想じゃん」と辛辣な意見だった。
まあ彼の言いたいことも今の俺はわかる。
一番最初の立場で以降の地位が固定されるというのは、良かれ悪しかれだ。
金持ちはずっと金持ちで、貧乏人はずっと貧乏人のままと同じことなのだから。
ただ、リヒトにそう言われてから教師に質問したり本で調べたりした。
結果、救済案があることを知った。
次は今生より上の立場になりたいと神に捧げ物をして祈るのだ。
皇帝が願ったらどうなるのだろうと思ったが、まだ誰にも確認はしてない。
しかし盲目の賢者はその答えにも満足しなかった。
「じゃあ貢物出来ない位貧しい人間は永遠に貧乏人じゃん」と言うのだ。
確かにその指摘も当然だ。だがこれも一応対応策がある。
年に一度、夏の間の一週間。国内で一番大きい公園に祭壇を作る。
そこに皇族や貴族、そして裕福な民たちが捧げ物を設置するのだ。
そして貧しいまま死んだ者たちの代わりに祈る。
彼らの次の生が恵まれたものになることを。
俺も第一皇子としてその儀式に立ち会った。
以前から体調が良い時は偶に参加していたのだ。
暑さに弱い俺にそんな時期は滅多に無く、そして式典の内容も余り理解していなかったが。
今年は第二皇子のカインも参加した。
まだ幼い子供なのに彼が真剣に祈る姿はどこか気高く神々しかった。
そして俺はそんな弟を横目で見ながら思ったのだ。
貧しい者の為に今自分たちは祈っている。
けれど、この祈りの中に罪人の救済は含まれていないのだ。
罪を抱え、そして裁かれて死んだ者は次も罪人になるのだろうか。
俺は夏の日にそんな疑問を抱いたのだった。
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