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6話 裏切りのネクロマンサー

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 俺の母、ロベリアは元公爵令嬢だった。

 その兄のノーマンは現在家名を継ぎグランシー公爵家の当主となっている。

 俺にとって伯父に当たる彼は多少強引で感情的な部分はあるが悪い人ではなかった。

 その息子のディスト・グランシーとも親戚を超えて友人のような関係だった。


「……ディスト?」   


 俺の説明に鏡の向こうでリヒトが口の端を引き攣らせる。


「そいつってもしかして髪が青っぽい銀色で目は紫色で顔が人形みたいに綺麗でいつもへらへら笑っていて滅茶苦茶気色悪い奴じゃなかった?」


 早口で一息に告げられ、最初何を言われたのかわからなかった。

 いつもどこか斜に構えた態度でいるリヒトらしくない。

 いや、まだそう言い切れる程の付き合いでもないか。俺は怪訝に思いながらも答えた。


「外見の特徴とよく笑うところは合っているな」  

「うわまじかよ、絶対歪みのネクロマンサーじゃん……!」


 俺の返事を聞くと頭を抱えて蹲りそうな声をリヒトは上げた。


「ネクロマン……何?」 
 
「そいつがあんたの死体盗んでいったせいでカインがどれだけ怒り狂ったか……!うわ、最低。思い出したくない」

「え、カイン……いや俺の死体を、え?」


 白豚皇帝として殺された後の話だとは思うが、ディストが俺の死体を盗むとは一体どういうことだ。

 しかもそれでカインが怒り狂ったらしい。意味不明過ぎる。

 俺が戸惑っていることに気づいたのか、リヒトは深々と溜息を吐いてから話し始めた。


「ディストは最初反皇帝派の振りをして俺たちに近づいたんだよ。潤沢な資金で革命軍を支援していた」

「え……」

「金だけでなく情報も相当貰ったよ、革命成功の立役者の一人と言ってもいい」


 それは結構ショックだ。晩年までそれなりに仲良くしていたつもりだったのに。

 俺が酒浸りになってからはろくな話はしてこなかったが、険悪な関係になった覚えは全くなかった。

 そうか、俺はディストに売られたのか。俺は彼を友人だと思っていたが向うはそう思っていなかったのだろう。


「でも、奴はあんたの死体目当てに俺たちを利用していただけだった」

「そうか……死体ぃ?」

「いやさっき言ったでしょ、ディストがあんたの死体盗んでいったって。凄い迷惑だった」

「確かに聞いたけれども!なんであいつが俺の死体を?」


 そんなもの盗んでディストはどうしたんだ。恐怖と興味が入り交ざった気持ちで俺はリヒトに質問した。

 そして俺にそのような質問をされたリヒトは、何故か非常に途方に暮れたような顔をした。

 五分程無言のまま時間が過ぎて、ようやく鏡の中の賢者が口を開く。


「外見だけとはいえ子供には言えないし言いたくない。思い出したくもないし忘れたい」


 でも可能ならあいつ今のうちに殺しておいた方がいいよ。それがお前たち兄弟の為だよ。

 やたら力強く言われて今度は俺の方が戸惑う。


「いや、それは無理だろう」


 ディストは公爵家の嫡男だ。そして現段階では、いや成長後も俺が知る限りは品行方正な人間だった。処刑する理由が全くない。

 しかし困ったな。先にカインとディストを仲良くさせて息子である彼に伯父を取りなして貰おうと考えていたのだが。
 
 そのことを話すとリヒトは首を横に振った。


「止めとけ。お前を二人で奪い合って殺し合うだけだぞ」

「いや、この世界ならそうはならないだろう……多分」


 そもそも俺の死体を取り合うのがおかしい。

 一定期間見せしめで晒した後は普通に土に埋めて置いて欲しい。いやそれを盗んだのがディストなのか。

 カインは俺の亡骸を奪い返して再度埋葬してくれる気だったのかもしれない。

 しかし白豚皇帝だった俺は死んだ後でも結構大変な目に遭っていたようだ。

 次ディストに会う時、俺は彼に対し今までと同じ笑顔を浮かべられるのか不安になってきた。

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