5 / 5
5
しおりを挟む「君は、顔の良い男性が好きだと……」
「そういう噂を聞いて鵜呑みにしたのですね、私みたいに真偽を調べもせずに」
「……本当にすまない」
「貴方に興味ないので愛の無い結婚でも別に良いけれど、後継作るつもりで結婚して妻冷遇するって子供に最悪な家庭環境過ぎません?」
「それは……重ね重ね軽率だったと……」
「あの、確認ですけれど私と子供作るつもりなんですよね? 男遊びしまくってると嫌ってた悪女相手によく作ろうと思いましたね? そういうのに興奮する異常性癖ですか……いった!」
顔を真っ赤にして泣きそうなジェラールに顔を近づけて追い打ちをかけていたら足首に激痛が走る。
耳を伏せて毛を逆立てた黒猫が私を噛んでいた。どうやら私がジェラールを虐めていると思い攻撃したらしい。健気で好き。
「あっ、ダイアナ……すまない。この子はあの一件から女性のことが苦手になって……」
「謝らないでください、今から男になれば良いだけですから」
「いやそれは困るよ!」
私が言うとジェラールは本気で焦った声を出した。
嫌ですね、冗談ですよ。そんな簡単に性転換できるわけないじゃないですか。
「気にしないでください。そのことは知っています。ただ今日は珍しく近づいて来てくれたので図々しく撫でようとした私が悪いのです」
「知っているって……来たばかりの君がどうして?」
「貴方には嫌われていてもこの屋敷の使用人に嫌われている訳では無いので、猫ちゃん様と仲良くしたいって相談したら色々を教えてくれました」
「えっ、俺は報告されてない……」
「だって貴方私に関しては家の害にならないなら放って置けとか不機嫌隠さず執事たちに言ってたらしいじゃないですか」
「うっ」
「報告しにくい環境作るのって正直当主としてどうかと思いますよ。まあ夫婦関係の改善をせず放置していたのは私も同じですが」
貴方には興味が本当に無いので。
私がそういうとジェラールは凄く複雑そうな顔をした。
しかし決心したように私の掌を取る。怪我をしていない方だ。
「とりあえず、君の傷の手当てをさせて欲しい……それと君を悪女だと誤解していて本当に済まなかった」
「別に構わないですよ、悪女なのは事実ですので」
「えっ」
「公爵夫人の立場って便利ですよね、私猫を気軽に殺そうとする人間ってどうしても消し、厳罰に処したくて……」
「まさか、君はソレイユを……」
「うふふ、大したことはしていませんよ、公爵夫人の立場を活用して高位貴族のお茶会に沢山出て五年前の真実を何度も語り尽くしただけなので」
貴族には程度の差はあるが猫好きが多い。多分貴族じゃなくても猫好きは多い。だって猫はとても素晴らしい存在だから。
そして現国王と王妃は大々的に公表はしていないが我が子のように猫を可愛がっている。
こっそりと愛でているのは、猫が好きでも無いのに追従の為に飼い出す輩を生み出さない為だ。でも高位貴族は殆どが知っている。
なのに自分に非があるのに飼い猫を殺せとかほざいた伯爵令嬢と娘のその要望を平然と伝えた伯爵家当主はかなりの馬鹿だ。
更にソレイユ伯爵令嬢は重ねて自分の汚点については隠匿し相手が全部悪いように喧伝した。
それが暴露された今貴族間での彼女の価値は暴落しているだろう。
何より小動物を平然と殺そうとする女ってだけで普通に拒絶されると思うし。
私なんて性格きつそうな外見しているだけで無責任に悪女呼ばわりされているのだ。
ソレイユ伯爵令嬢は一年後ぐらいには凶悪犯罪者扱いぐらいされてるかもしれない。
「……ソレイユ伯爵令嬢は独身を拗らせた貴方が折れて自分の要求を呑むまで待つつもりだったみたいですけれど」
その為に別の相手と婚約もせず、でも何年もジェラールの悪評は後輩を使ってでも流し続けたのだ。
とんだ女狐だと言いたいが、狐に失礼だろう。狐も可愛いので。
「彼女の要求なんて絶対に呑まない。ダイアナたちは誰にも傷つけさせない」
私に対しての先程までの怯えが嘘のようにジェラールは力強く宣言した。
「ふふ、私が結婚を決めたのってそこなのですよね」
「……君は俺が猫好きだと最初から知っていたのか?」
「そうですね、婚約破棄の真相を調べていたら知りました」
「なら、君も猫好きなのだろう?最初からそれを教えてくれていれば……!」
「貴方と出会ったばかりの私が猫好きだとお伝えしても、貴方はきっと自分に媚びる為の嘘だと思ったでしょうね」
笑顔を浮かべながら返すと彼は気まずそうな顔になった。本当に正直だ。
「私、猫ちゃん様と暮らすのがずっと夢だったのですよね、妹が病弱で動物の毛が苦手だったから……」
「そうだったのか……」
「だから私を愛していなくても、結婚は継続して頂きたいのです」
「それは当然だ」
そう言うとジェラールは力強く頷いた。
ダイアナちゃんが彼の足に自分の尻尾を巻き付けている。嫉妬深くて可愛い。
「寧ろこちらからお願いしたいぐらいだ、身勝手かもしれないが今の俺は君に惹かれている」
「気に入って頂けて良かった、もし断られたら貴方を物言わぬ傀儡にして居座るところでしたので」
「ひっ」
「なんて冗談ですよ、猫ちゃん様の下僕同士末永く仲良くしましょうね、ジェラール様」
私はにっこり微笑んだ。彼は少し怯えた表情でこくこくと頷いた。臆病なリスみたいで可愛いなと思った。
私は可愛いものが好きなのだ。その中でも猫ちゃん様が究極で完璧に可愛いだけなのだ。
だからこの元氷の公爵のこともきっと愛することが出来るだろう。
ジェラールと見つめ合う私の足をダイアナちゃんが再度強く噛んだが気にならない。愛とは痛みを伴うものなのだ。
484
お気に入りに追加
189
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(4件)
あなたにおすすめの小説
私達、政略結婚ですから。
黎
恋愛
オルヒデーエは、来月ザイデルバスト王子との結婚を控えていた。しかし2年前に王宮に来て以来、王子とはろくに会わず話もしない。一方で1年前現れたレディ・トゥルペは、王子に指輪を贈られ、二人きりで会ってもいる。王子に自分達の関係性を問いただすも「政略結婚だが」と知らん顔、レディ・トゥルペも、オルヒデーエに向かって「政略結婚ですから」としたり顔。半年前からは、レディ・トゥルペに数々の嫌がらせをしたという噂まで流れていた。
それが罪状として読み上げられる中、オルヒデーエは王子との数少ない思い出を振り返り、その処断を待つ。


婚約破棄から~2年後~からのおめでとう
夏千冬
恋愛
第一王子アルバートに婚約破棄をされてから二年経ったある日、自分には前世があったのだと思い出したマルフィルは、己のわがままボディに絶句する。
それも王命により屋敷に軟禁状態。肉塊のニート令嬢だなんて絶対にいかん!
改心を決めたマルフィルは、手始めにダイエットをして今年行われるアルバートの生誕祝賀パーティーに出席することを目標にする。

いつか国のお外にほっぽりだされる、というのなら…。
イチイ アキラ
恋愛
「ディアーナ! お前との婚約を破棄する!」
その日、アルテール公爵令嬢のディアーナは国外追放を命じられた。
王太子ヒューバードの愛しき人、ソレイユへの非道の罪により。
ソレイユは義母と義姉より虐げられる哀れな娘であった。
そんな娘をディアーナも、また。
嗚呼、なんて冷たい女だろう――と。
そしてディアーナは、国のお外にほっぽりだされた。

虐げられていた姉はひと月後には幸せになります~全てを奪ってきた妹やそんな妹を溺愛する両親や元婚約者には負けませんが何か?~
***あかしえ
恋愛
「どうしてお姉様はそんなひどいことを仰るの?!」
妹ベディは今日も、大きなまるい瞳に涙をためて私に喧嘩を売ってきます。
「そうだぞ、リュドミラ!君は、なぜそんな冷たいことをこんなかわいいベディに言えるんだ!」
元婚約者や家族がそうやって妹を甘やかしてきたからです。
両親は反省してくれたようですが、妹の更生には至っていません!
あとひと月でこの地をはなれ結婚する私には時間がありません。
他人に迷惑をかける前に、この妹をなんとかしなくては!
「結婚!?どういうことだ!」って・・・元婚約者がうるさいのですがなにが「どういうこと」なのですか?
あなたにはもう関係のない話ですが?
妹は公爵令嬢の婚約者にまで手を出している様子!ああもうっ本当に面倒ばかり!!
ですが公爵令嬢様、あなたの所業もちょぉっと問題ありそうですね?
私、いろいろ調べさせていただいたんですよ?
あと、人の婚約者に色目を使うのやめてもらっていいですか?
・・・××しますよ?

「最初から期待してないからいいんです」家族から見放された少女、後に家族から助けを求められるも戦勝国の王弟殿下へ嫁入りしているので拒否る。
下菊みこと
恋愛
悪役令嬢に仕立て上げられた少女が幸せなるお話。
主人公は聖女に嵌められた。結果、家族からも見捨てられた。独りぼっちになった彼女は、敵国の王弟に拾われて妻となった。
小説家になろう様でも投稿しています。

【完結】婚約破棄される未来見えてるので最初から婚約しないルートを選びます
21時完結
恋愛
レイリーナ・フォン・アーデルバルトは、美しく品格高い公爵令嬢。しかし、彼女はこの世界が乙女ゲームの世界であり、自分がその悪役令嬢であることを知っている。ある日、夢で見た記憶が現実となり、レイリーナとしての人生が始まる。彼女の使命は、悲惨な結末を避けて幸せを掴むこと。
エドウィン王子との婚約を避けるため、レイリーナは彼との接触を避けようとするが、彼の深い愛情に次第に心を開いていく。エドウィン王子から婚約を申し込まれるも、レイリーナは即答を避け、未来を築くために時間を求める。
悪役令嬢としての運命を変えるため、レイリーナはエドウィンとの関係を慎重に築きながら、新しい道を模索する。運命を超えて真実の愛を掴むため、彼女は一人の女性として成長し、幸せな未来を目指して歩み続ける。

安息を求めた婚約破棄
あみにあ
恋愛
とある同窓の晴れ舞台の場で、突然に王子から婚約破棄を言い渡された。
そして新たな婚約者は私の妹。
衝撃的な事実に周りがざわめく中、二人が寄り添う姿を眺めながらに、私は一人小さくほくそ笑んだのだった。
そう全ては計画通り。
これで全てから解放される。
……けれども事はそう上手くいかなくて。
そんな令嬢のとあるお話です。
※なろうでも投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
嗚呼、素晴らしきかな、下僕ライフ
ネコ様は至高🥰
ネコを崇めよ