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大ピンチ!!

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 お昼休み。

 私(中身チャルル)が穂乃果の弁当を興味津々の眼差しで覗き込んでいたかと思ったら…

「なぁ、穂乃果。その唐揚げ1個ちょーだい」

 突然そんなことを言い出した。

「え? いいけどふれあが、ねだってくるなんて珍しいね​。はい、どうぞ」

「やった! おおきに!」

 弁当のフタに置いてもらった穂乃果家の唐揚げをパクリ。

「んー。ジューシーやなぁ」

「そう? 普通に冷凍食品だよ?」

 はたから見たら、普通の昼食タイムだけどヒヤヒヤしながらチャルル(中身私)はカバンの中で息を潜ませていた。

 今は楽しくお昼食べてるけど、お願いだからもう余計なことしないでよー…。

 チャルル(中身私)は、もはや天に祈っていた。

「ねぇねぇ、それよりさっきの超笑ったんだけど」

「なんや?」

 ぷぷぷっ、と笑いを堪えながら穂乃果が続ける。

「社会の時間の話! ビーフジャーキー大陸って何よ、あははっ……ふれあがお笑い好きなのは知ってたけど、あれは盛大にボケたねぇ」

「え? ボケじゃありまへんで? 真面目に当てにいったんやけど…、そんなおかしかったか?」

「何言ってんのー、もうー」

 完全に私(中身チャルル)がすっとぼけてる、みたいな雰囲気になってるし……。

 恥ずかしさのあまりカバンの中で小さく身をちぢめていると……

「ねぇねぇ、桃瀬さん」

 クラスメイトの女の子2人組が私(中身チャルル)に話しかけてきた。

 上野さんと宮内さん。

 普段滅多に話さない子たちだ。

「なんや?」

 箸で掴んだご飯を口に放り込んだ後。私(中身チャルル)はくるり、と向きを変え、その子たちに向き直った。

 すると……

「土屋と付き合ってるの?」

「え?」

「だって……ねぇ?」

 ニヤニヤとした顔つきで目配せする2人。

「うん、今朝抱きついてたし!」

「最近よく喋ってるの見るなぁ、とは思ってたけどもしかして……?」

 2人からの熱い視線が注がれる。

 ちら、と教室の様子を伺うけど、今雨音くんは席を外していて教室にはいないようだった。

 きっとこの2人もその隙を見計らって話しかけてきたんだろう。

 チャルル……、お願いだから変なこと言わないでよ……ぉお。

 肉球同士を合わせて祈ることしか出来ない今の自分がもどかしい。

 でも確かに朝からあんな風に抱きつけば私でも勘違いする。

 当然の疑問だった。

 私(中身チャルル)が答える。

「いやぁ、はよ付き合いたいなぁ、とは常日頃思っとるんやけどこれがなかなかムズいんや」

「「!!」」

 私(中身チャルル)から放たれた決定的な一言に、2人は目を丸くする。

 ​────今まで私は、穂乃果とチャルルにしか雨音くんへの恋心を打ち明けたことはない。

 秘密をバラされたようで途端に全身がカー!と赤くなっていった。

「「ってことは! 桃瀬さん雨音くんのこと狙ってる、ってこと!?」」

 ピタリ、と声を合わせてそう尋ねる2人。

 なんの曇りもなく私(中身チャルル)は答えた。

「そりゃそうやで! ふれあの初恋やもん!」

 ……っ、

「きゃー! そうなんだ!?」

「え、マジ!?」

 一気に盛り上がる教室。

 チャルル……。

 何言ってんの…。

 いつの間にか、「えー、何の話ー?」 と、2人以外にも机の周りにクラスメイトがたくさん集まってきていた。

 今この教室にいるほぼ全員が私(中身チャルル)に注目している状態だ。

 そして……

「あ。土屋来たよ!」

 まるで噂をすれば、のようなタイミング。

 ガラッ、と教室の扉が開いて雨音くんがやってきた。

 私の席にみんなが集まってる、っていうこの状況に少しだけ不思議そうな顔をしつつも特に気に留めることはなさそうで、自分の席に着席する雨音くん。

 机の中から本を取り出していつものように読書の姿勢に。

「告っちゃえよ!」

 誰か1人が小声でそう言って……

「告っちゃえ!」

 また別の誰かが後に続いた。

 なにこれ……何この状況…………

 教室の異様な雰囲気にチャルル(中身私)の頭はどんどん真っ白になっていく。

 血の気が引いていく思いだった。

「そやな! ウチ、ちょっと告ってくる!」

「おー!」

 後には、引けない……お祭り、みたいなそんな空気。

「雨音くーん!」

 みんなの後押しの中。私(中身チャルル)が雨音くんに駆け寄っていく。

 ……めて………………。

 その瞬間、チャルル(中身私)は思わずカバンから飛び出した。

 ‪”‬ や め て ! ‪”‬

「わん!」

 後先考えず飛び出してしまった……。

 でも…もう時すでの遅し。

「……え? 犬?」

「野良犬?」

 口々に発せられる困惑の声。

 そしてチャルル(中身私)に容赦なく向けられるみんなの視線……。

 でも穂乃果だけはすぐに気付いてくれた。

「えっ? チャルル……?」

 それに続いて雨音くんもハッとしてチャルル(中身私)を見つめた。

「え? 桃瀬さんの飼い犬なの?」

「学校に連れてきたの?」

 ざわめきが広がっていくけど……構わずチャルル(中身私)は、吠えた。

 ‪”も う ! い い 加 減 に し て !‪ ”‬

「わう~~っ!!! わん!」

 今までチャルルが発したことのない怒りに満ちたような声が口から溢れ出る。

 ‪”‬ 大 人 し く し て 、 っ て 言 っ た じ ゃ ん !‪ ”‬

「わん……っ、わんわんわんっっつ!!!」

 私、今日ずっと恥かいてる…

 私の好きな人も勝手にバラすし! この恋は大切にしたい、って私言ったのに!! ひどい! なんで言っちゃうの!!

 もう嫌…

 もう……

 もう​───────…



 ‪‪”‬ も う チ ャ ル ル な ん て 大 嫌 い !‪ ”‬



「わんッッッッッッッッッッッッッッッッッッッツ!!!!!」

 人の合間を縫って教室を飛び出した。

 もうチャルルなんて嫌い! 大嫌い!

 お昼休みだから廊下にも人はチラホラいたけど、チャルル(中身私)は突っ走り、履き替える必要のない下駄箱も猛スピードで横切る。

 外には冷たい風が吹きすさんでいたけれど、構わず校舎外に出た。

 別に、毛皮があるからいいもん!

 と、言っても…

 たとえ毛皮があるとしても、12月はすぐそこ。

 さ、寒い……。

「くぅーん……」

 ブルル! と寒さに震えたその時。

 ーーブロロロロロロロッ……!!!!

 きゃっ……!

 ビクッ! と勝手に体が縮こまる。

 真横を大きなトラックが通過したのだ。

 いつもならなんとも思わないのに、今はチャルルの姿をしているからだろう。

 エンジン音がとても大きく、耳に入ってきた。

 こ、こわい…。

 車が通過する音でさえもいちいちビクついて、その度に頭が真っ白になる。

 体が小さい分。

 いつもは聴き逃してしまう小さな音でもキャッチしてしまって、外の音全てが悪者のように思えてしまう。

「くぅううーーん…っ」

 半分パニックになったチャルル(中身私)は、とりあえず急いで近くの空き家に駆け込んだ。
  
 この辺は交通量も多くないし、音も静かだ。

 ホッと、胸を撫で下ろす。

 これで一安心。

 と、思いきや更なるピンチが襲いかかる。

「ヴヴゥ~~~~~~~~っ!!!ワ‪”‬ゥ‪”‬…!」
 ひゃ……!

 背後から聞こえた威嚇の声に振り返れば1匹の大型犬が。

「くぅーん…」

「ワ‪”‬ヴッッッッ……!!!」

 どうやらここは大型犬さんの縄張りだったみたい。

 勝手に侵入したチャルル(中身私)にひどく怒っているみたいだ。

 どうしよう……っ。早く逃げなきゃ……

 そう思うけどジワジワと​壁まで歩み寄られ、後ずさりしか出来ない。

 ーートン…

 ついにお尻に壁が当たって完全に追い込まれてしまったんだ、と理解してその場にペタリ、と座り込んだ。

 どうしよう……。

 もう逃げられない……っ。

 なんとか踏ん張って立ち上がってみようとするけれどあまりの恐怖に足が尋常じゃないほど震えていて、立ち上がるなんてとてもできっこない…。

 アワアワ、とあごが震えて、助けを呼びたいけど…、わん!って叫びたいけど、声が上手く出ない…。

 今のチャルル(中身私)には、かろうじて「くぅーん」が限界だった。

「ワ‪”‬ゥ‪”‬…! ワ‪”‬ゥ‪”‬…!」

 怒り狂い、不気味にギラリ、と光る犬歯にまたも恐怖心が駆り立てられる。

 うぅー、怖いよぉ……ぅ。

 私まだ犬初心者なんだよ……??

「ワ‪”‬ゥ‪”‬…! ワ‪”‬ゥ‪”‬…!!!」

「くぅーーーーん…」

「……っ」

『ウチ、ふれあのこと大好きや! だからふれあの恋、めっちゃ応援しとる! 早く雨音くんとラブラブになりぃーや!』

 まるで走馬灯かのように、ふいに頭の中でそんな言葉がよぎる。

「…」

 チャルルはいつだって私の味方でいてくれてたのに……。

 私……大嫌い、なんて、ひどいこと言っちゃった……。

 やっぱりバチ、当たっちゃったのかな……。

 きっと、チャルルも悪気はなかったはず。

 私が犬初心者であるようにチャルルもヒト初心者なのに……。

 初心者なりに、きっと頑張ってくれてたのに…。

 飼い主失格だよね……。私…

 為す術なくギュッ、と目を閉じてチャルル(中身私)はその場にうずくまった。

 *

 *

 *

「……とりあえず、手分けして探そう! 家に帰ってるかもしれないし、ひとまず桃瀬は家に……っ」

 気が付くと、私は別の場所にいた。

「あと、チャルルが行きそうなとこに心当たりは……!?」

「…っ、あまね……くん…」

 蚊の鳴くような声が自分の口から発せられる。

 目の前には肩で息をした雨音くんがいた。

 状況を把握しようと辺りを見回してみる。

 すぐそばにはたまに穂乃果と訪れる喫茶店が見えた。

 チャルルとの散歩コースでよく通る場所だ。

 はっ……

 遅れて自分の目線の位置がさっきまでと違って高いことに気づく。

 ヒトに戻ってる……!

 ってことは……

 チャルルの姿だった私が最後に見た景色を必死に思い出す。

 確か私……空き家に入って…、大型犬に襲われそうに……

「どうしよう…っ、チャルルが危ない……!!」

 私がヒトに戻ったってことは、チャルルは犬に戻ったってことだ。

 あのままじゃ……

 いても立ってもいられず雨音くんにつかみかかる。

 きっと私が飛び出したから雨の中、雨音くんと私(中身チャルル)は追いかけて来てくれたんだろう。

 こうしちゃいられない…!

 早くチャルルのとこに向かわないと……!

 私はくるり、と身をひるがえして、勢いよく駆け出した。

「桃瀬……!?」

 犬だった私が駆け込んだ空き家の場所は分かっている。

 チャルル……、他のわんちゃん嫌いだからきっと怖がってるはず。

 ましてや大型犬なんてもっと……

 額からはポタポタ、と冷や汗が滝のように流れ出てくる。

 心配で心配で仕方なかった。

 お願いチャルル……無事でいて…!

 全速力で地面を蹴りながら私は頬に涙を流した。

 ごめんね……。チャルル…。

 私ね。恋愛も初心者なんだ。

 ‪”‬この恋は大切にしたいから‪”‬ってずっとそれを言い訳にして、気持ちを伝えることから逃げてた。

『そやな! ウチ、ちょっと告ってくる!』

 だからあの時……

 振られちゃったらどうしよう。

 もう雨音くんと喋れなくなっちゃったらどうしよう。

 そんな不安が一気に押し寄せてきて。

 頭がわー! ってなっちゃって……。

 つい……カーとなって言い過ぎちゃったの……。

 大嫌いなんかじゃないよ。

 本当は大好きだよ。

 ……謝りたい。

 もう……、自分の気持ちから1ミリも逃げたくない!
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