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またこの夢!?

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 ーーぷーぷー

 子犬の時からお気に入りのぷーぷー音が鳴るボールのおもちゃを鳴らすとチャルルが大喜びでこっちまで走ってきた。

「わん!」

 チャルルにとっては久しぶりのおうち。

 きっとテンションが上がっているんだろう。

「えいっ」

 ボールを投げると獲物でも見つけたかのようにター! と元気よく走っていった。

「ボール持ってきて! チャルル!」

 しばらくするとボールを口にくわえながらこちらへ歩いてきたチャルル。

 自分でもぷーぷーと音を鳴らしていて、楽しそうだ。

 テクテク、と歩いてきて私が差し出した手のひらにぽん、とボールが置かれた。

「きゃー、いい子!」

「わん!」

 ひとりぼっちで入院なんてきっと心細かっただろうし、今日はたくさんチャルルと遊ぶ、って決めてるんだ。

「よーし! じゃあもう1回! えいっ!」

「わん!」

 ***

「チャルルー、あの人が私がいつもお話してる雨音くんだよ。チャルルの命の恩人なんだよー」

「わん!」

 ボール遊びをひとしきり満喫した後、膝の上に乗ったチャルルによーく言い聞かせていた。

「かっこいいでしょー」

「わん!」

「あっ、そうだ。あのね、チャルル。実は私この2日で雨音くんと学校でもたくさんお話出来たんだ」

「わん!」

「雨音くんってね。聞き上手っていうか、話し上手っていうか…。私今までずっと雨音くんに話しかけるまではどうしても緊張して心臓バクバクになっちゃって…、で。結局話しかけられずに1日が終わっちゃうんだけど、話しかけちゃえば…、その緊張…、全部どこかに飛んでっちゃう気がするんだ……」

 話してると落ち着くっていうか……。

 他の人とは違う、っていうか…。

 ほんと……不思議だ。

 魔法にでも掛けられてるみたい。

 やっぱり好きな人だからかな…??

 まだ分からないことだらけだけど…

 雨音くんだけに寄せてしまう特別な感情。

 これはやっぱり『恋』なんだって、改めて思った。

「わん!」

「えへへっ、チャルルも雨音くんのこと好きになっちゃったでしょ?」

「わん!」

 チャルルもあの懐きようだと雨音くんのこと好きみたいだし、やっぱり犬は飼い主に似るっていうのは本当みたいだ。

「でしょー。あっ、でも私の方が先に好きになったんだからね!」

 謎のマウントを取るとペロ、と鼻の頭をひと舐めされた。

 だから私もチャルルをギューと抱きしめる。

「ほんとに…っ、元気になって良かった……っ、たくさん心配したんだからね!」

 本当に…、無事で良かった。

 生きててくれて良かった。

「くぅーんっ」

 まるで‪”‬ごめんね‪”‬とでも言いたげな切ない声をあげたチャルル。

 今にも涙がこぼれ落ちちゃいそうなうるうるのおめめで見つめられてモギュッ!と心臓が締め付けられる。

 うっ…、かわいい! 大好きすぎる!

「この先何があっても絶対私がチャルルのこと守ってあげるからね!」

「わん!」

 その晩はいつもより寄り添いながら眠りについた。


 ***

 ーーペロペロペロ…

「んーっ…チャルル~…くすぐったいってばー…」

 ーーペロペロペロ…

「もー…やめなさぁーいぃー」

 翌朝。

 私はチャルルのペロペロ攻撃で目を覚ました。

 布団からはみ出た私の顔を徹底的に舐めまわしてくる。

 これぞチャルルの必殺技・ペロペロ攻撃だ。

 ーーペロペロペロ…

 あまりにしつこいから布団の中に顔を潜らせる私。

「まだ寝るー…」

 しかし…

 今度は足元の方がモゾモゾと動き、何かが侵入してきた。

 そして。

 ーーペロペロペロ…

「ぷはぁ…っ、チャルルってばー。しつこいー」

 ちゃっかり布団の中にまで侵入してきて飼い主の顔を舐め回してきたので流石に私も起きざるを得なかった。

「チャルルー。ゆっくり食べるんだよー」

「わん!」

 リビングに降り、さっそくチャルルに朝ごはんをあげる。

 お薬入りのドックフードをチャルルはペロリ、と完食してしまった。

 すごいなぁ。

 私も昔風邪ひいた時、薬をチョコアイスに混ぜて飲んだけど薬の味めっちゃして、うまく食べれなかったもん。

「お腹いっぱい?」

「わん!」

「そっかそっか」

 朝は寝ぼけていつもみたくしつこいーとか言っちゃったけど、やっぱり朝起きたらチャルルがいるって、嬉しいな。

「じゃあね。チャルル。いい子でお留守番してるんだよ?」

「わん!」

 玄関先で見送ってくれるチャルルに手を振って学校に向かう。

 学校までは徒歩10分くらいの距離。

 でもその途中には雨音くんのお家である動物病院があることをここ最近、私は知ってしまった。

  土屋動物病院がある路地を通り掛かる時はどうしても視線がそちらを向いてしまう。

 たまたま雨音くんと鉢合わせたりしないかなぁ、なんて思っていたその時だ。

 あれ…?

 ふと前を歩く男子生徒に目が釘付けになる。

 あっ! 雨音くんだ…!!

 鉢合わせとまではならなかったけど、少し走れば追いつく!

 よしっ!

 話しかけるぞ…!!

 私は勇気を出して雨音くんの元へ走った。

「あ、雨音くんっ、おはよう…っ」

「あっ、桃瀬。おはよ。チャルル、体調どう? 元気?」

「あっ、うん! 元気元気! 今朝も、ご飯一瞬で完食してた」

「そうか、なら良かった」

 チャルルのことを気にかけてくれる優しさに、また胸がキュンと高鳴った。


 ***

 へへっ、結局あれから雨音くんと一緒に登校しちゃった…。

 並んで学校まで向かって。

 下駄箱で靴履き替えて。

 また並んで教室まで向かう。

 今日は通学途中にたまたま会ったかにそれが出来たけど、もし…もし付き合ったら……、こんな毎日が当たり前にやって来るのだろうか。

 きゃー! なにそれ! やばい!

「ここの問題分かる人ー」

 ……おっと。

 今は数学の時間だった。

 浮かれるのも程々にしないと。

 と、言っても…

 うぅーー。難しいってばー。

 中学の数学は難しい、って前々から聞いてたけどそれにしても難しすぎるよー。

 板書をせっせとノートに写すだけで精一杯の私。

「ふぁーあ」

 とうとう睡魔がやってきて、先生に気づかれないように下を向いて大あくびをぶちかます。

 今日は朝からチャルルに起こされたし(必殺ペロペロ攻撃)。

 お弁当もさっきお腹いっぱい食べて満腹だし。

 眠気がいよいよピークだ。

 よし。寝よう。

 机の前に教科書を立てて、先生からの死角を確保!

 少しだけ…と唱えながらペタン、と机に突っ伏して夢の中に飛び込んだ。

 *

 *

 *

「……」

 あれ……? 

 お母さんの声に目を開ければ私はリビングのソファに座っていた。どうやら夢を見ているみたい。

 冷蔵庫の中を物色しているお母さんの背中が視界に入る。

 ん?

 なんだか違和感を感じて部屋の中をキョロキョロと見回してみる。

 はっ……!

 なんか、私小さくなってる!?

 何気なく自分の手に視線を落とす。

 モフモフしてる!

 てかこれチャルルの手じゃん!

 この前もチャルルと入れ替わる夢見たけど、またこの夢!?

「お母さんちょっと買い物行ってくるから、いい子で待っててね」

 よしよし、と頭を撫でられる。

「……」

「あれ? お返事は? いつもならするのに…。もしかしてまだ体調悪い?」

 心配そうに眉を下げるお母さん。

 あわわわわ! そうだ! 返事返事!

 ‪”‬元 気 だ よ ! ‪”‬

 そう言ったつもりだったけど……

「わん!」

 またも犬語に勝手に変換されてしまった。

「あっ、よかった。元気そうね。じゃあ行ってくるわね」

「わん!」

 ガチャ、と玄関が閉まる音がする。

 1人っきりになったリビングはシーン、としていて、なんだか物寂しい。

 テーブルも冷蔵庫もテレビも見上げるほど大きいし。

 チャルルっていつもこんな景色の中生きてるんだなぁ。

 もののサイズが違うだけで見慣れているはずの景色が全部新鮮に感じる。


 *

 *

 *

「…瀬さん……? 桃瀬さん? 分かるんですか?」

「……」

「桃瀬さん?」

「へっ!?」

 気が付けば私は1人立っていて。

 クラスメイトが不思議そうな顔をして私に注目していた。

「分からないんですか? ここの問題ですよ」

 手の甲でコンコン、と黒板を叩く先生からの圧がすごい……。

「えーと……」

 え、待って。なになに、何この状況……

 確か今は数学の時間のはず……

 てかなんで私だけ立ってんの!?

「すみません。分かりま……せん」

「ちゃんと分かった時に手を挙げましょう」

「はい……」

「……」

 はい?

 ゆっくりと席に座りながら首を傾げる。

 ちゃんと……分かった時に手を挙ましょう…?

 まるで私が手を挙げたみたいな言い方だ…。

 さっきまで寝てたはずだし、挙げるはずないのに…。

 もしかして寝ぼけて挙げちゃったってこと?

 全く記憶になくて頭がちんぷんかんぷんだった。

「えぇっ! 覚えてないの? 先生がこの問題分かる人ー、って言ったら真っ先にはい!って手挙げてたのに」

「うっそ、私そんなことした!?」

「してたしてた」

 授業が終わって真っ先に穂乃果に確認。

 どうやら私は謎の行動をしてしまっていたらしい。

「じゃあ自分から手挙げておいて、結局答え分かりません、って変な人みたいじゃん! 私!」

「うん、変な人だったよ?」

 ガーン!

 当然のごとく頷く穂乃果。

 さっきの時間、私は一体何がどうなった、というのだろうか。

「ねね、そういえば昨日はデートの約束取り付けれたの?」

「あっ、忘れてた……」

 そういえば穂乃果にそんなようなこと言われてたんだった……。

「ちょっともー!」

「いやぁ、忙しそうだったからそもそもちょっとしか話せなくってさ……っ」

 ***

 結局真相は分からないまま帰宅。
 心のモヤモヤは未だ消えないままだ。

「チャルルー! おかえり!」

「わん! わん!」

「あれ? お母さん?」

「あー、おかえり、ふれあ」

 この時間、いつもなら仕事で家にいないはずのお母さんがリビングにいた。

「お仕事は?」

「今日は有給なの」

「そうなんだ!」

「あ、冷蔵庫にプリンあるから食べていいわよ」

「プリン!? やったー!」

「さっき買い物行ってきたんだけどね、ちょうど半額セールしてたのよ」

「買い物……」

 そういえば、今日見た夢の中…

 お母さん買い物行く、ってチャルル(中身私)に話し掛けてたよね……?

 あれ……?

「ねぇ、お母さん。買い物行ったのって14時ぐらい?」

 確か5限は13時45分スタートだ。

 そのくらいの時間に買い物に行っているとすれば……

「あぁ、そうね。そのくらいの時間かしら? それがどうしたの?」

「うっ、ううん! なんでもない!」

「そう?」

 お母さんが仕事休みっていうのも買い物に行った、っていうのも夢の中で知った情報だ。

 なのに……、現実と同じ…。

 こんな偶然ありえる?

 5限の時に見た夢は夢じゃなくて現実で。

 あの一瞬の間だけ本当にチャルルと入れ替わってた、なんてことは…

 いやいや、普通に考えたらそんなことありえない、けど……

 そうじゃなきゃ説明がつかない。

「わん!」

 考えふけっているとチャルルに靴下を引っ張られた。

 ‪早く散歩に行きたい時にやる行動だ。

「ごめんごめん、すぐ準備するね!」

「わん!」
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