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パートナー解除の危機!?
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***
ミンミンミンミンミンミン…
セミの鳴き声とカンカン照りの日差しが容赦なく顔を出しはじめた今日この頃。
「ねー! 夏休みどっか行こうよ!」
「いいねー!」
「私ずっと夏期講習だー、ダルー」
「マジかー」
もうすぐ夏休みが迫りつつあり、校内は浮き足立っていた。
そうか。もうすぐ夏休みか。
しばらく友達や空くんには会えなくなっちゃうってことだよね。勉強しなくてもいい点は嬉しいけどそれはちょっと寂しいな。
「おはよー、最近超暑いね~」
ひょこっと私の顔を覗き込んできたのは彩乃だ。下敷きでパタパタと仰ぎながら「あつーい」と悶えている。
涼しそう。私もやろっと!
私も同じように下敷きで顔に風を送る。
「あ、真似した」
「へへー」
「ねぇねぇ。彩乃たちってどんな感じなの?」
「どんな感じ?」
私はふと気になったことを聞いてみた。
教室内を見回して雨くんが居ないことを確認したあと、もう一度詳しく尋ねてみる。
「雨くんとはどう? 上手くいってる??」
最近では隣のクラスの子は本当に付き合い始めた、とかいう噂をよく耳にするようになった。
あくまでもパートナーは学校が決めたものであって、必ずしもその人と恋愛しなくちゃいけない、って訳ではない。
でもみんな一応は"カップルユーチューバー"という肩書きの中でパートナーと動画を撮っているわけだし、もう入学から時も経っている。
本当の恋仲になったって全然不思議じゃない。
それに雨くんが彩乃に気があることを私は知っているのだ。
恋愛に興味がなさそうな彩乃のことだから雨くんとの関係は"ビジネスパートナー"として割り切っていそうだけど、実際のところよく分からない。
最初の頃は"ケンカップル"って言われてたけど、最近は動画内でも仲良さそうだし、実際彩乃の気持ちはどうなんだろう。
「あ~、あのね、実は────」
「うんうん」
声を潜め、私の耳元に口を寄せた彩乃。どうやら周囲には聞かれたくなさそうだ。
「昨日付き合ったんだ」
「……」
1秒。2秒。3秒。
硬直したのち、思わず大きな声が出た。
「え!? 雨くんと……!?しかも昨日!?」
「ちょっ!! シー!」
「はっ、ごめんごめん」
声のボリュームを元に戻し、確認のため「ほんとに?」と尋ねる。
「うん、ほんと」
コクリ、と頷く彩乃はなんだか嬉しそうで。珍しく感情が顔に出ている気がした。
「え、それってさ、正式に『好き』って言い合ったってこと?」
「そっ、そりゃそうだよ」
指をいじりながらもごもごと口ごもるように答える彩乃。その姿はまるで恋する乙女だ。
「きゃー…っ、彩乃可愛い!」
「もう、やめてよ…っ」
どっちから告白したの? とか
どんなシチュエーションだったの? とか
聞きたいことは山ほどあったけどあんまり聞くのもなぁ、と思いつつセーブした。
そっかぁ……! 2人正式に付き合ったんだ。
なんだか自分のことのように嬉しかった。
雨くんからの恋愛相談に乗っていた身としては特に!
雨くん、紳士的で優しいもんね。
見た目はチャラそうだけど逆にそのギャップに惹かれる女の子もチラホラいるって噂。
「おめでと! 彩乃!」
私も空くんと正式に付き合いたいなぁ。
なんて思いに老けるように、1番前の席の空くんに視線を向けた。
「ねね。ところでりんごたちはどうなの?」
「えっ、私たち?」
目をぱちぱちさせて彩乃を見つめる。
すると彩乃が声を潜ませた。
「進展あった?」
「進展…」
実は今まで同年代の男の子を好きになったことはただの1度もない。
恋ってどんな感じなんだろう、いつか私が誰かを好きになった時、”これは恋だ”ってちゃんと気づけるのかな、って最近まで不安だった。
けど、この学園で空くんに出会って、空くんと過ごして行く中で。”これは恋だ…っ”って気付かされるタイミングは何度もあった。
胸がドキドキしたり。キュンキュンしたり。
空くんはいつも私に初めての気持ちをくれる。
そういえば私、初めてマスクの下を見た時、『好き…!!』ってつい言っちゃったっけ? なんでもないってすぐ誤魔化したけど…。
「でもなんか空くん…、やっぱり私のこと、ただの手のかかるパートナーだと思ってそうで…」
そんな悩みをポロリ、と零す。
最初は”ビジネスパートナー”としか思われてなさそうだったけど今となっては、さらに降格して”手のかかるパートナー”になっていそうだ。
なんとなく、そんな気がしていたのだ。
「そうかな?」
「え?」
不思議そうに首を傾げる彩乃に聞き返す。
「いや、りんごと話してる時の空くんはなんていうか……」
意味深に視線を泳がす彩乃。
「え、私と話してる時の空くんは────…の続きは!?」
そんな所で言葉を止められたら気になるよ!
少し悩んだ挙句、彩乃は口を開いた。
「んー…この前さ、体育の時りんご倒れちゃったでしょ? あの時とか空くん真っ先にりんごのとこ来て運んであげてたし……」
そこでまた言葉を止めた彩乃。
「もうっ! 肝心な所早く教えてよー!」
「いやぁ…、だからね…? その…なんていうか……、私が言いたいのは、空くんも、今はもうりんごのこと好きなんじゃない? ってこと」
「…」
空くんも…りんごのこと……好き?
「いやああああ…っ、それはないよーっ」
1泊置いて意味を理解した私は手をブンブンと振って全否定。
これは謙遜でもなんでもない。
「なんでー?」
「なんでって…、いつもちょっと意地悪だし、女の子として見られてない気がするんだよーぉ」
ましてや、相手はあの空くん。かつてSORAだった空くんだ。
私が空くんのことを知って、『好き』が増していく中で、私は空くんがどれだけすごい人なのかも理解していった。だからこそ、最近では1歩を踏み出すのが怖い、と感じてしまっていた。
もう…どうするべきか………
「あ! じゃあいいこと考えた!」
「?」
パチン! と手を叩き、なにかひらめいた様子の彩乃は言った。
「もうすぐ夏休みでしょ? だからさ、デートとかしてみたらどうかな?」
「でっ、デート…」
「いつも空くんと会う時って平日だから制服でしょ?」
「う、うん…」
「だけど休みの日に会う時は私服! 服装変わると印象も変わるし、女の子として見てもらえてないかも? っていうりんごの悩みも解決すると思うよ!」
「そ、そうかな??」
服装ってそんな大事…??
とも思ったけどファッション誌をよく読んでいる彩乃の言うことだ。一理あるかもしれない!
***
「私決めた! 夏休み中に空くんと距離縮める!」
「おぉー!」
放課後の教室。
黒板の前でそんな宣言をした私に彩乃がぱちぱちと手を叩いた。彩乃のアドバイスを受け、決心したんだ。
もちろん空くんはとっくに帰宅済み。夏休みを目前に控えた今、私は対策を練っていた。
「それにしてもなんで俺も?」
足を組んでそんな疑問を漏らしたのは雨くん。
あれから雨くんにも「彩乃ちゃんと付き合った! りんごちゃんのおかげ!」と正式な報告を受けた。
私なんか大したことしてないのにすごく感謝されちゃった。そして普段の恋愛相談の傍ら、お互い何かあったら協力する! という暗黙の同盟が私たちの間には芽生えているはず。
だから雨くんをここに呼んだんだ!
「こういう話は女の子同士とやった方がいいんじゃ……?」
「ううん! 雨くんに聞きたいことあるから!」
「聞きたいこと?」
そう。雨くんもここに呼んだのには理由は…
「空くんって、好きな場所とかある?」
これを聞くため!
「好きな場所?」
空くんと距離を縮める為。近々デートに誘おうとしている私だけど…、空くんって普段どこ行くのか、とか全然知らないし、やっぱりここは幼なじみの雨くんの力が必要だって思ったんだよね。
私も雨くんの恋、応援してあげたんだから今度はとことん応援してもらうんだから!
「うーん、あ。あのね。空、多分海好きだよ」
「「海?」」
彩乃と声がハモる。
「そう、海。SORA時代の動画内容に行き詰まった時によく行ってたって、この前言ってた気がする」
「あ~…、じゃあ3年前? とか…??」
「そうそう、多分そのくらいの時期。今行ってるかはよく分かんないけどね~」
気分転換、とかにちょうど良かったのかな?
「ねぇ、そういえば空くんが1回ユーチューバー引退しちゃった理由…、雨知ってる?」
横から質問する彩乃。それは私が空くんに直接聞いても教えてくれなかったことだ。でも…
「あ~、それ俺も知らないんだよね」
幼馴染である雨くんも知らないことみたい。
そんなことを考えるそばで、
彩乃、雨くんのこといつの間にか呼び捨てで呼ぶようになってるなぁ…
と気付き、口角が上がってしまった。
***
土日を挟んだ月曜日。
朝からお母さん特製のスクランブルエッグと小倉トーストをペロリ、と平らげ学校に向かう。
夏休みまでの登校日は今日を合わせて残すところあと2日。
「空くんー、夏休みどっか遊びに行こうよー」
「休みの日とか何してるのー?」
朝イチで空くんをデートに誘おうと思っていたけれど、今日も空くんの席の周りには女の子たちが群がっていて近づくことも出来なかった。まぁ今日は動画の投稿日だし、放課後恋蘭荘で2人っきりになれるからその時誘えばいいか! と考えていた。
「えー、最近は暑くなってきたので熱中に注意して、水分補給しっかり取ってくださいね」
朝のホームルーム。
1時間目の数学い嫌だなぁ、と思いつつ担任の先生の話に耳を傾ける。
大体いつもこんな感じで熱中症に気をつけろーっていう注意だけで終わるはずのホームルーム。でも今日は違った。
「あと、今日は大事な話がある」
暑さのせいかダラ、っとしていた教室内の雰囲気が一変した。
大事な話…??
なんだか張りつめたような緊張感が走る。
「突然だが今年度から”告白日”を設けることにした」
「「告白日?」」
クラスメイトの何人かの声がそろう。
初め聞くワードに一瞬にして「?」が広がった。
「夏休みの前日。つまり明日。そこを告白日とし、パートナー同士お互いに今の気持ちを伝え合ってもらう」
クラスメイトがざわめき出す。
それって告白ってこと……??
彩乃たちはもう告白して、正式に付き合ったけれど多分大半のペアはそこまで到達していない。
いや、そもそもたまたま学園側が決めたパートナーのことを好きになるケースの方が珍しいことなのかもしれない。
現にいつも空くんに群がってる女の子たちはきっと今のパートナーよりも空くんに夢中……ってことだもんね。
「カップルユーチューバーを目指す、と言っても、ビジネスカップル。本当のカップル。形は様々だ。告白日は、本当の気持ちを伝えるという意図もあるがこれからカップルユーチューバーを目指す上で、それぞれのペアの今後の方針を明確にする日、でもある。うちは原則としてパートナー以外への告白は禁止しているが、もちろんその日であればパートナー以外への告白も可能とする」
「……!」
パートナー以外への告白…。
心臓がドキッとした。
「もしそこでパートナーじゃない人同士で両思いだったらどうなるんですか」
クラスメイトの1人が質問する。私も脳内をよぎっていたことだった。
「その場合は現時点でのパートナーは解除。また別のパートナーと組んでもらう」
解除……
空くんと…パートナーじゃなくなる、ってこと…???
今までは1度なったパートナーは1年間固定だったのに…
2年生になるまでに、と正直余裕をぶっこいていただけに危機感が煽られる。
「ちなみにそうなった場合、夏休み中にも課題動画を出す予定でいるが、それも新たなパートナーと撮影してもらう」
自分の顔がどんどん青ざめていくのを感じた。
ミンミンミンミンミンミン…
セミの鳴き声とカンカン照りの日差しが容赦なく顔を出しはじめた今日この頃。
「ねー! 夏休みどっか行こうよ!」
「いいねー!」
「私ずっと夏期講習だー、ダルー」
「マジかー」
もうすぐ夏休みが迫りつつあり、校内は浮き足立っていた。
そうか。もうすぐ夏休みか。
しばらく友達や空くんには会えなくなっちゃうってことだよね。勉強しなくてもいい点は嬉しいけどそれはちょっと寂しいな。
「おはよー、最近超暑いね~」
ひょこっと私の顔を覗き込んできたのは彩乃だ。下敷きでパタパタと仰ぎながら「あつーい」と悶えている。
涼しそう。私もやろっと!
私も同じように下敷きで顔に風を送る。
「あ、真似した」
「へへー」
「ねぇねぇ。彩乃たちってどんな感じなの?」
「どんな感じ?」
私はふと気になったことを聞いてみた。
教室内を見回して雨くんが居ないことを確認したあと、もう一度詳しく尋ねてみる。
「雨くんとはどう? 上手くいってる??」
最近では隣のクラスの子は本当に付き合い始めた、とかいう噂をよく耳にするようになった。
あくまでもパートナーは学校が決めたものであって、必ずしもその人と恋愛しなくちゃいけない、って訳ではない。
でもみんな一応は"カップルユーチューバー"という肩書きの中でパートナーと動画を撮っているわけだし、もう入学から時も経っている。
本当の恋仲になったって全然不思議じゃない。
それに雨くんが彩乃に気があることを私は知っているのだ。
恋愛に興味がなさそうな彩乃のことだから雨くんとの関係は"ビジネスパートナー"として割り切っていそうだけど、実際のところよく分からない。
最初の頃は"ケンカップル"って言われてたけど、最近は動画内でも仲良さそうだし、実際彩乃の気持ちはどうなんだろう。
「あ~、あのね、実は────」
「うんうん」
声を潜め、私の耳元に口を寄せた彩乃。どうやら周囲には聞かれたくなさそうだ。
「昨日付き合ったんだ」
「……」
1秒。2秒。3秒。
硬直したのち、思わず大きな声が出た。
「え!? 雨くんと……!?しかも昨日!?」
「ちょっ!! シー!」
「はっ、ごめんごめん」
声のボリュームを元に戻し、確認のため「ほんとに?」と尋ねる。
「うん、ほんと」
コクリ、と頷く彩乃はなんだか嬉しそうで。珍しく感情が顔に出ている気がした。
「え、それってさ、正式に『好き』って言い合ったってこと?」
「そっ、そりゃそうだよ」
指をいじりながらもごもごと口ごもるように答える彩乃。その姿はまるで恋する乙女だ。
「きゃー…っ、彩乃可愛い!」
「もう、やめてよ…っ」
どっちから告白したの? とか
どんなシチュエーションだったの? とか
聞きたいことは山ほどあったけどあんまり聞くのもなぁ、と思いつつセーブした。
そっかぁ……! 2人正式に付き合ったんだ。
なんだか自分のことのように嬉しかった。
雨くんからの恋愛相談に乗っていた身としては特に!
雨くん、紳士的で優しいもんね。
見た目はチャラそうだけど逆にそのギャップに惹かれる女の子もチラホラいるって噂。
「おめでと! 彩乃!」
私も空くんと正式に付き合いたいなぁ。
なんて思いに老けるように、1番前の席の空くんに視線を向けた。
「ねね。ところでりんごたちはどうなの?」
「えっ、私たち?」
目をぱちぱちさせて彩乃を見つめる。
すると彩乃が声を潜ませた。
「進展あった?」
「進展…」
実は今まで同年代の男の子を好きになったことはただの1度もない。
恋ってどんな感じなんだろう、いつか私が誰かを好きになった時、”これは恋だ”ってちゃんと気づけるのかな、って最近まで不安だった。
けど、この学園で空くんに出会って、空くんと過ごして行く中で。”これは恋だ…っ”って気付かされるタイミングは何度もあった。
胸がドキドキしたり。キュンキュンしたり。
空くんはいつも私に初めての気持ちをくれる。
そういえば私、初めてマスクの下を見た時、『好き…!!』ってつい言っちゃったっけ? なんでもないってすぐ誤魔化したけど…。
「でもなんか空くん…、やっぱり私のこと、ただの手のかかるパートナーだと思ってそうで…」
そんな悩みをポロリ、と零す。
最初は”ビジネスパートナー”としか思われてなさそうだったけど今となっては、さらに降格して”手のかかるパートナー”になっていそうだ。
なんとなく、そんな気がしていたのだ。
「そうかな?」
「え?」
不思議そうに首を傾げる彩乃に聞き返す。
「いや、りんごと話してる時の空くんはなんていうか……」
意味深に視線を泳がす彩乃。
「え、私と話してる時の空くんは────…の続きは!?」
そんな所で言葉を止められたら気になるよ!
少し悩んだ挙句、彩乃は口を開いた。
「んー…この前さ、体育の時りんご倒れちゃったでしょ? あの時とか空くん真っ先にりんごのとこ来て運んであげてたし……」
そこでまた言葉を止めた彩乃。
「もうっ! 肝心な所早く教えてよー!」
「いやぁ…、だからね…? その…なんていうか……、私が言いたいのは、空くんも、今はもうりんごのこと好きなんじゃない? ってこと」
「…」
空くんも…りんごのこと……好き?
「いやああああ…っ、それはないよーっ」
1泊置いて意味を理解した私は手をブンブンと振って全否定。
これは謙遜でもなんでもない。
「なんでー?」
「なんでって…、いつもちょっと意地悪だし、女の子として見られてない気がするんだよーぉ」
ましてや、相手はあの空くん。かつてSORAだった空くんだ。
私が空くんのことを知って、『好き』が増していく中で、私は空くんがどれだけすごい人なのかも理解していった。だからこそ、最近では1歩を踏み出すのが怖い、と感じてしまっていた。
もう…どうするべきか………
「あ! じゃあいいこと考えた!」
「?」
パチン! と手を叩き、なにかひらめいた様子の彩乃は言った。
「もうすぐ夏休みでしょ? だからさ、デートとかしてみたらどうかな?」
「でっ、デート…」
「いつも空くんと会う時って平日だから制服でしょ?」
「う、うん…」
「だけど休みの日に会う時は私服! 服装変わると印象も変わるし、女の子として見てもらえてないかも? っていうりんごの悩みも解決すると思うよ!」
「そ、そうかな??」
服装ってそんな大事…??
とも思ったけどファッション誌をよく読んでいる彩乃の言うことだ。一理あるかもしれない!
***
「私決めた! 夏休み中に空くんと距離縮める!」
「おぉー!」
放課後の教室。
黒板の前でそんな宣言をした私に彩乃がぱちぱちと手を叩いた。彩乃のアドバイスを受け、決心したんだ。
もちろん空くんはとっくに帰宅済み。夏休みを目前に控えた今、私は対策を練っていた。
「それにしてもなんで俺も?」
足を組んでそんな疑問を漏らしたのは雨くん。
あれから雨くんにも「彩乃ちゃんと付き合った! りんごちゃんのおかげ!」と正式な報告を受けた。
私なんか大したことしてないのにすごく感謝されちゃった。そして普段の恋愛相談の傍ら、お互い何かあったら協力する! という暗黙の同盟が私たちの間には芽生えているはず。
だから雨くんをここに呼んだんだ!
「こういう話は女の子同士とやった方がいいんじゃ……?」
「ううん! 雨くんに聞きたいことあるから!」
「聞きたいこと?」
そう。雨くんもここに呼んだのには理由は…
「空くんって、好きな場所とかある?」
これを聞くため!
「好きな場所?」
空くんと距離を縮める為。近々デートに誘おうとしている私だけど…、空くんって普段どこ行くのか、とか全然知らないし、やっぱりここは幼なじみの雨くんの力が必要だって思ったんだよね。
私も雨くんの恋、応援してあげたんだから今度はとことん応援してもらうんだから!
「うーん、あ。あのね。空、多分海好きだよ」
「「海?」」
彩乃と声がハモる。
「そう、海。SORA時代の動画内容に行き詰まった時によく行ってたって、この前言ってた気がする」
「あ~…、じゃあ3年前? とか…??」
「そうそう、多分そのくらいの時期。今行ってるかはよく分かんないけどね~」
気分転換、とかにちょうど良かったのかな?
「ねぇ、そういえば空くんが1回ユーチューバー引退しちゃった理由…、雨知ってる?」
横から質問する彩乃。それは私が空くんに直接聞いても教えてくれなかったことだ。でも…
「あ~、それ俺も知らないんだよね」
幼馴染である雨くんも知らないことみたい。
そんなことを考えるそばで、
彩乃、雨くんのこといつの間にか呼び捨てで呼ぶようになってるなぁ…
と気付き、口角が上がってしまった。
***
土日を挟んだ月曜日。
朝からお母さん特製のスクランブルエッグと小倉トーストをペロリ、と平らげ学校に向かう。
夏休みまでの登校日は今日を合わせて残すところあと2日。
「空くんー、夏休みどっか遊びに行こうよー」
「休みの日とか何してるのー?」
朝イチで空くんをデートに誘おうと思っていたけれど、今日も空くんの席の周りには女の子たちが群がっていて近づくことも出来なかった。まぁ今日は動画の投稿日だし、放課後恋蘭荘で2人っきりになれるからその時誘えばいいか! と考えていた。
「えー、最近は暑くなってきたので熱中に注意して、水分補給しっかり取ってくださいね」
朝のホームルーム。
1時間目の数学い嫌だなぁ、と思いつつ担任の先生の話に耳を傾ける。
大体いつもこんな感じで熱中症に気をつけろーっていう注意だけで終わるはずのホームルーム。でも今日は違った。
「あと、今日は大事な話がある」
暑さのせいかダラ、っとしていた教室内の雰囲気が一変した。
大事な話…??
なんだか張りつめたような緊張感が走る。
「突然だが今年度から”告白日”を設けることにした」
「「告白日?」」
クラスメイトの何人かの声がそろう。
初め聞くワードに一瞬にして「?」が広がった。
「夏休みの前日。つまり明日。そこを告白日とし、パートナー同士お互いに今の気持ちを伝え合ってもらう」
クラスメイトがざわめき出す。
それって告白ってこと……??
彩乃たちはもう告白して、正式に付き合ったけれど多分大半のペアはそこまで到達していない。
いや、そもそもたまたま学園側が決めたパートナーのことを好きになるケースの方が珍しいことなのかもしれない。
現にいつも空くんに群がってる女の子たちはきっと今のパートナーよりも空くんに夢中……ってことだもんね。
「カップルユーチューバーを目指す、と言っても、ビジネスカップル。本当のカップル。形は様々だ。告白日は、本当の気持ちを伝えるという意図もあるがこれからカップルユーチューバーを目指す上で、それぞれのペアの今後の方針を明確にする日、でもある。うちは原則としてパートナー以外への告白は禁止しているが、もちろんその日であればパートナー以外への告白も可能とする」
「……!」
パートナー以外への告白…。
心臓がドキッとした。
「もしそこでパートナーじゃない人同士で両思いだったらどうなるんですか」
クラスメイトの1人が質問する。私も脳内をよぎっていたことだった。
「その場合は現時点でのパートナーは解除。また別のパートナーと組んでもらう」
解除……
空くんと…パートナーじゃなくなる、ってこと…???
今までは1度なったパートナーは1年間固定だったのに…
2年生になるまでに、と正直余裕をぶっこいていただけに危機感が煽られる。
「ちなみにそうなった場合、夏休み中にも課題動画を出す予定でいるが、それも新たなパートナーと撮影してもらう」
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学校の中で怪奇現象を目撃したら、ぜひとも「ミステリー倶楽部」に相談することをオススメする。
案外、つまらない勘違いが原因かもしれないから。
……本物の「お化け」や「妖怪」が出てくる前に、相談しに行こう。
※本作品は小学校高学年以上を想定しています。作中の漢字には、ふりがなが多く振ってあります。
※本作品はフィクションです。実在の人物・団体とは一切関係ありません。
※本作品は、三人の主人公を描いた連作短編です。誰を主軸にするかで、ジャンルが少し変化します。
※カクヨムさんにも投稿しています(初出:2020年8月1日)
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