1 / 12
カップルユーチューバー!?
しおりを挟む” カ ッ プ ル で 素 敵 な 学 園 生 活 を ! !”
さくら舞い散る春なかば。
私、森島りんごは恋焦がれたい思春期真っ只中のごくごく普通の女の子。
胸元の赤いリボンが揺らめく真新しい制服に身を包む私は私立恋蘭学園を見上げ、ニッコリと笑みを浮かべた。
「カップルで…素敵な学園生活……っ」
なんて素晴らしい校訓なの!
校舎の垂れ幕に書かれた言葉に私は胸をときめかせていた。
────ここは私立恋蘭学園といって、入学してすぐ学校側が決めたパートナーと恋をする学園。
きっとこの学園に入学する子の大半は、私みたいに”恋愛がしたい!”と思っているはず。
ちなみに私のお母さんとお父さんもこの学園でパートナーになって、結婚。そして私が生まれたらしい。
うわー、なんか緊張するなぁ。将来結婚するかもしれない人がここにいるかもなんだもんね。
もしパートナーになった人に
”わぁ!かわいい女の子!ぜひ僕と一生を添い遂げてくれ!”
なんて言われちゃったらどうしよう~~。
「へへへ、へへへへ……」
「なーに、ニヤついてんの!」
「わぁ!? 彩乃!?」
これからのことを想像してニヤけが止まらなくなっている私に後ろから声をかけたのは親友の彩乃。
お団子頭がトレードマークで、保育園からの友達だ。私が1番心を許せる親友。いや、大親友といっても過言では無い。
「ねぇー、この学園ほんとに大丈夫なの? 恋愛って決められた相手と、じゃなくて好きになった相手としたくない?」
「だーかーらー! パートナーになった人のことのことは自然と好きになるものらしいんだって! 」
「そうは言ってもパートナーって学園側がランダムに決められるらしいしさー」
首を傾げて不満そうな顔をしている彩乃。
心配性で疑い深い性格の彩乃はまだこの学園の仕組みに納得がいっていない様子。この学園に入学を決めたのだって多分私についてきてくれたからであって、彩乃は恋愛とか一切興味ない。
「つまりそれって運命ってやつじゃん! 運命の赤い糸!」
「えー…、でもすごい変な男がパートナーだったらどうすんのよ」
「その時はその時! いいから行こう! 入学式始まっちゃう!」
そんなこと言って、パートナーがすごくかっこいい男の子だったから彩乃もその不満げな顔はすぐさまデロデロになっちゃうんだろうな。
私は彩乃の手を取って、走り出した。
────新学期。
ワクワクとドキドキで胸がいっぱいです。
***
「本日はご入学おめでとうございます」
体育館には在校生、そして新入生合わせて300人程度が集められていた。
私のパートナー誰かなぁ!
校長先生の話そっちのけで周りの生徒をチラチラと眺める私。でもすぐに先生の視線を感じて大人しく前を向かざるを得なくなった。
「えー…、皆様ももうご存知だとは思いますが、我が校は創立当時から、” カ ッ プ ル で 素 敵 な 学 園 生 活 を ! !” が校訓でありましたが今年度から────” カ ッ プ ル で 素 敵 な ユ ー チ ュ ー バ ー に ! !” に変わりまして、カップルユーチューバー育成校にリニューアル致しました」
へぇー。
カップルユーチューバー育成校かぁー。
なんだか聞きなれないこと言ってるなぁ。
「……」
え・ ・ ・ ・ ・ ? ? ?
今、なんて言った……??
かっ、カップルユーチューバー育成校……??
遅れて脳内に入ってきた情報に私は口をぽかんと開く。
はぁ!?
なんじゃそりゃーーーー!!!
***
「え!? りんご知らなかったの!?」
「え!? 逆に彩乃知ってたの!?」
「知ってたよ……? 一時ニュースでも話題になってたし」
「うそ……っ」
「ホントだって。ていうか、りんごはてっきり分かってるものだと思ってた」
「知らない知らない!知らなすぎる! 私生まれてこのかたニュース見たことないし!」
「あはは、確かにりんご見ないよね」
あはは、じゃないよ! 結構衝撃なんですけど!?
「まぁでもちょっと方針が変わっただけであって、パートナー制度はそのままあるっぽいし、大丈夫じゃない? 今までと違うのは”そのパートナーとカップルユーチューバーを目指す”ってとこだけだよ」
「いやいやいや!目指したくないんですけど!?」
私はただ普通の恋愛がしたかったのに!
「今若者のテレビ離れが進んでるからか、将来なりたい職業ランキング10年連続1位”ユーチューバー”なんだってー。需要があるんだよ、きっと。すごいよねぇ。圧倒的人気」
彩乃が言うには、2位の”教師”とはかなりの差があるらしい。
「へぇー…、じゃあここにいる人の大半は、その…ユーチューバー? になりたくてここ入学したってこと?」
「多分ね。 それもカップルユーチューバー。最近はカップルで活動してる方が再生数稼げるからね~」
全然知らなかった知識だ……
「彩乃、なんかやけに詳しいね……??」
「こんなの誰でも知ってるって。りんごが知らなすぎるだけ」
「マジか…」
「でも彩乃はカップルユーチューバー目指すつもりでここ入学したってことだよね?」
学校の方針が変わったことを知っていたならそういうことだよね?
「あ~、まぁ暇つぶしにいいかなって思ったんだよ。ほら。私特に趣味とかないしさ?」
「なるほど……」
「それに、照明とか機材全部集めるとなると普通結構なお金かかるけどでもこの学園ならそこら辺の設備が整ってるらしいからちょうどいいかなーって」
「そ、そうだったんだ」
そんなとこまで考えてるなんて……さすが彩乃……。
「なんか彩乃はめっちゃ私のことが好きで、私から片時も離れたくないから私の真似して同じ学園に入学したのかと……」
頭をかきながらそう言った私に彩乃は「何よそれ」と呆れたように笑った。
***
それから教室に向かった私たち。
えー、と…私の席は……
黒板には席順が書かれていて、その中から私の名前を探す。
あった! 1番後ろの席だ!
同じ小学校出身なのは彩乃だけだし、やっぱり彩乃が居てくれるのはとても心強かった。
黒板通りに自分の席に向かうと、もう私の隣の席の人は着席していた。
頬ずえをついて窓の外を眺めている男の人。耳にはイヤホン。口元にはマスクを付けていた。
風邪でも引いてるのかな? それともシャイな人?
唯一見える目はキリッ、としていて、パッと見クールって感じだった。
***
「森島りんごです! 好きな食べ物は…」
クラスメイト全員が着席して担任の先生がやって来ると、前の人から順番に名前と好きな食べ物を言っていくというシンプルな自己紹介タイムが始まった。
「甘いもの全部好きです! 特にふわふわのパンケーキが大好きです!ご飯だとオムライスとカツ丼が好きです! よろしくお願いします!」
ちょっと緊張したけど、元気良く自己紹介できたと思う! 第一印象は大事だもんね。
そして次は隣の席の男の人の番。
「北条 空。好きな食べ物は特にありません」
それだけサッ、と言い終え着席する空くん。
あまりに短くて淡々とした自己紹介に、みんな目をぱちくりさせていた。
────今年度からこの学園の隣に建設された恋蘭荘は、撮影用に造られた大型マンションで、1パートナーにつき1部屋用意されている。撮影に使う機材などももちろん完備。自由に出入り出来る部屋だ。
自己紹介が終わって、担任の先生からこの学園の説明を受けている中。きっとどのクラスメイトもソワソワしていた。
日程によると、【学園説明】の後に【パートナー発表】と書かれている。きっとみんな気が気じゃない。パートナーとは自動的に同じクラスにされているらしいから私のパートナーもこのクラスにいるはずだけど……
教室内を一通りグルッ、と見回したその時。
「じゃあ今からパートナーを発表する」
担任の先生の一声で教室内がドッ、と騒がしくなった。
キタ! パートナー発表!
途端に心臓がバクバクと音を立て始めていく。
けれど発表はあまりにもあっさりしたものだった。
「今隣に座ってる子がパートナーになります。挨拶してください」
え……!?
サラッとそう告げた先生にさっきまで騒がしかった教室が沈黙の渦に包み込まれる。クラスメイト全員がそれぞれ隣に座る異性をチラ、と見てパートナーを確認している。私の視線もみんなと同じように隣の席に……
「……っ!」
ぱち、と目が合って、肩が跳ね上がる。
わっ、私のパートナー……
空くんってこと!?!?!?!?
「よ、よろしくねぇーー…」
目が合ったのに逸らす訳にはいかず、とりあえず挨拶してみるけど……
「ん。よろしく」
すぐにぷい、と視線を外されてしまった。
何この人、そっけな……!
ピクリともしない表情に圧倒されてしまう。
なんかないわけ!?
『わぁー! こんな可愛い子が俺のパートナーだなんて! 嬉しいぜ!』とかさ!?
あまりに激薄の反応に開いた口が塞がらないでいた。
「うちはカップルユーチューバー育成校、といっても、みんなはまだ中学生。動画投稿は週に1回。月曜日にしてもらいます。動画内容はなんでもよし。でも再生数は成績に影響するので、頑張って下さい」
さっ、再生数が成績に影響……っ
驚いている間にも先生は容赦なく指示を出していく。
「じゃあさっそく課題を出します。これからパートナーと恋蘭荘に行って、2人のチャンネルを立ち上げてもらいます。そしたら軽く動画を投稿してください」
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
イケメン男子とドキドキ同居!? ~ぽっちゃりさんの学園リデビュー計画~
友野紅子
児童書・童話
ぽっちゃりヒロインがイケメン男子と同居しながらダイエットして綺麗になって、学園リデビューと恋、さらには将来の夢までゲットする成長の物語。
全編通し、基本的にドタバタのラブコメディ。時々、シリアス。
へいこう日誌
神山小夜
児童書・童話
超ド田舎にある姫乃森中学校。
たった三人の同級生、夏希と千秋、冬美は、中学三年生の春を迎えた。
始業式の日、担任から告げられたのは、まさかの閉校!?
ドタバタ三人組の、最後の一年間が始まる。
月神山の不気味な洋館
ひろみ透夏
児童書・童話
初めての夜は不気味な洋館で?!
満月の夜、級友サトミの家の裏庭上空でおこる怪現象を見せられたケンヂは、正体を確かめようと登った木の上で奇妙な物体と遭遇。足を踏み外し落下してしまう……。
話は昼間にさかのぼる。
両親が泊まりがけの旅行へ出かけた日、ケンヂは友人から『旅行中の両親が深夜に帰ってきて、あの世に連れて行く』という怪談を聞かされる。
その日の放課後、ふだん男子と会話などしない、おとなしい性格の級友サトミから、とつぜん話があると呼び出されたケンヂ。その話とは『今夜、私のうちに泊りにきて』という、とんでもない要求だった。
笑いの授業
ひろみ透夏
児童書・童話
大好きだった先先が別人のように変わってしまった。
文化祭前夜に突如始まった『笑いの授業』――。
それは身の毛もよだつほどに怖ろしく凄惨な課外授業だった。
伏線となる【神楽坂の章】から急展開する【高城の章】。
追い詰められた《神楽坂先生》が起こした教師としてありえない行動と、その真意とは……。
悪魔さまの言うとおり~わたし、執事になります⁉︎~
橘花やよい
児童書・童話
女子中学生・リリイが、入学することになったのは、お嬢さま学校。でもそこは「悪魔」の学校で、「執事として入学してちょうだい」……って、どういうことなの⁉待ち構えるのは、きれいでいじわるな悪魔たち!
友情と魔法と、胸キュンもありの学園ファンタジー。
第2回きずな児童書大賞参加作です。
輪廻と土竜 人間界管理人 六道メグル
ひろみ透夏
児童書・童話
★現代社会を舞台にしたミステリーファンタジー★
巧みに姿を隠しつつ『越界者』を操り人間界の秩序を乱す『魔鬼』とは一体誰なのか?
死後、天界逝きに浮かれていたメグルは煉獄長にそそのかされ小学生として再び人間界に堕とされる。人間界管理人という『魔鬼』により別世界から送り込まれる『越界者』を捕らえる仕事をまかされたのだ。
終わりのない仕事に辟易したメグルは元から絶つべくモグラと協力してある小学校へ潜入するが、そこで出会ったのは美しい少女、前世の息子、そして変わり果てた妻の姿……。
壮絶な魔鬼との対決のあと、メグルは絶望と希望の狭間で訪れた『地獄界』で奇跡を見る。
相棒モグラとの出会い、死を越えた家族愛、輪廻転生を繰り返すも断ち切れぬ『業』に苦しむ少女ーー。
軽快なリズムでテンポよく進みつつ、シリアスな現代社会の闇に切り込んでゆく。
こわがりちゃんとサイキョーくん!
またり鈴春
児童書・童話
【第2回きずな児童書大賞にて奨励賞受賞しました❁】
怖がりの花りんは昔から妖怪が見える
ある日「こっち向け」とエラソーな声が聞こえたから「絶対に妖怪だ!!」と思ったら、
学校で王子様と呼ばれる千景くんだった!?
「妖怪も人間も、怖いです!」
なんでもかんでも怖がり花りん
×
「妖怪は敵だ。すべて祓う」
みんなの前では王子様、
花りんの前では魔王様!!
何やら秘密を抱える千景
これは2人の人間と妖怪たちの、
ちょっと不思議なお話――✩.*˚
友梨奈さまの言う通り
西羽咲 花月
児童書・童話
「友梨奈さまの言う通り」
この学校にはどんな病でも治してしまう神様のような生徒がいるらしい
だけど力はそれだけじゃなかった
その生徒は治した病気を再び本人に戻す力も持っていた……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる