Secret

蒼月柚流

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プロローグ

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「あ、ン……、かいちょ、んっぅ……」
「っは、奏……、くっ!」
「ダメ! 出ちゃっ、会長…」
「奏、違うだろう? 名前」
「頼さ、ぁ……」
「いい子だ」

 誰にも知られてはいけない行為。生徒会長である東条 頼とうじょう よりと生徒会書記である白石 奏しらいし かなでは、行為に溺れていた。
 知られてはいけない背徳感からなのか、お互いに溺れているからなのかはわからない。一つだけ言えるのは、奏が東条に恋をしているということ。
 関係の始まりは何となく“そういう”雰囲気になったからというものだった。東条のフラストレーションが溜まっていたことも起因するだろう。
 生徒会長といえば、生徒の模範でなければならない。一般生徒だと後腐れのない関係というのも難しいし、恋人を作る余裕も時間もない。
 ましてや、全寮制の男子校に通う性欲旺盛な年頃である。

 夕暮れの生徒会室。仕事に追われている中で休憩を挟もうと手を止めると、東条と奏の視線がぶつかって静かな時が流れる。それは数秒だったかもしれないし、数分だったかもしれない。
 たまたま他のメンバーたちは、所用で席を外していて二人きりだった。
 視線が絡み合い、気まずい思いをする奏がコーヒーでも淹れようと席を立ち、東条の横を通り過ぎようとすると手首をつかまれていた。

「会長……?」

 無言で奏のことを見つめる視線は、強かで何を考えているのかわからなかった。
 東条に対して、憧れでは済まされない強い感情を抱いている奏は、東条の手の温もりと視線の強さから逃げられなかった。
 ふいに、ぐっと腕を引かれて奏が東条の胸に飛び込む形となり、衝撃に目を瞑ると頬に添えられた手に力が込められた。そのまま顎へ伝い、くっと顎を持ち上げられて再び二人の視線が絡んだ。
 そこからの事を奏はよく覚えていない。気が付くと、寮のベッドであろう場所に寝かされていた。
 しかし、寮であることはわかっても、奏の部屋でないことは確かであった。まず、家具の配置からして一人部屋であることが伺える。奏は二人部屋だ。一人部屋を使用していると言えば……。

「目が覚めたか」
「……かい、ちょう」
「悪い。部屋に連れていけなかったから、俺の部屋へ運んだ。体は大丈夫か?」
「は、ぃ……」

 シャワーを浴びたのか、部屋着のスウェット姿で東条がベッドの端に座っていた。いつも学校で見る生徒会長ではないオフの姿に、奏の動悸が早まる。
 この姿を、何人の生徒が知っているのか。詮無い事であるが、東条の温もりを知ってしまって考えずにはいられなくなってしまった。

―――恋人でもないのに、何を考えてるんだ

 身体の関係を持ってしまったが、これは何かの事故。そう言い聞かせ、奏はベッドから起き上がろうと体を動かそうとした。しかし、それは叶わなかった。

「いっ、たぁ……」

 横になっていただけでは気づかなかった腰の痛さだけでなく、全身のだるさ、東条を受け入れた所の違和感に再び横にならざるを得なかった。

「白石、無理はするな。もう少し横になっているといい」
「はい、すみません……」

 東条が奏の背に手を添えて支えると、ベッドに身体を起こさせて口元に水の入ったコップをあてた。
 こくりと飲み込むと東条の口元が上がり、目元が優しく緩んだ。
 その表情を見て、ドキドキと高鳴る心臓を抑えこむようにシーツを握りしめた奏は、自分に言い聞かせた。

(会長は別に僕のことなんて好きじゃない。これは事故みたいなもの。期待なんてしちゃだめだ)

「部屋まで送る」
「え、だ、大丈夫、です。動けるようになったら、自分で帰れます」
「……そうか」
「はい……」

 再び視線が絡み、沈黙が下りる。
 どちらともなく引き寄せられた唇は、触れ合うことなく離れていった。

(やっぱり、ただの事故。口づけたかったなんて思っちゃダメ)

「白石」
「あのっ、帰ります。その、今日のことは……」
「あぁ。わかっている」
「では、その……。また明日」
「ん、気を付けて帰れ」

 東条に見送られ、奏は痛む下半身を庇いながら部屋へ帰った。幸い、同室の山城はまだ帰宅していなかったようで、奏はほっと一息つく。
 自分の寝室のドアを開けベッドに倒れ込むと、睡魔に襲われて素直に目を閉じた。

 夢の中で、奏はまた東条に抱かれていた。
 しあわせで、気持ちが良くて、どうにかなってしまいそうだった。

 たった一度の逢瀬だと思っていたものの、秘密の逢瀬は続いていた。
 これっきり、これが最後だと自分に言い聞かせながら、東条に手を引かれると逆らえるはずがないことに奏は絶望した。
 流されるままに抱かれ、快楽を教えられ、もう戻れなくなる。わかっていても、奏は東条のことが好きだった。

(この想いは絶対に気づかれちゃいけない。隠さなきゃ)

 どうしようもなく東条に惹かれる想いを持て余していても、この気持ちは知られてはいけない。
 気持ちが伝わってしまうと、きっと関係が終わってしまう。
 それだけは、いやだった。せめて東条が飽きるまで、と奏は祈るばかり。

 そして“変化”は突然やってきた。


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