脇役の脇役の物語

蒼月柚流

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脇役の脇役の物語

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 人生とは、何が起こるかわからないものだ。
 水元 晴太みずもと せいたはしみじみと思った。

「晴太、早く帰ろうよ」
「……宗一郎、生徒会はどうしたんだよ」
「今は行事もないし、忙しくないんだ。もう仕事は終わらせてきたよ」

 学年一のイケメン、王子様との呼び名も伊達ではないこの生徒は、白戸 宗一郎しらと そういちろう。日本有数の名家である白戸家の四男坊だ。
 ただでさえ甘いマスクをさらにとろけさせ、晴太を見つめる。
 ぐ……、と言葉を詰まらせる晴太であったが、図書委員としての仕事があることを思い、断腸の思いで目の前の甘い誘いを断る。

「今日は書架整理で遅くなるって、前から言ってただろ。無理」
「オレだって、こんなに早く帰れる日は少ないんだよ? 少しくらい融通利かせてくれたっていいじゃないか」
「そう言ってるけど、本音は?」
「早く帰ってエッチしよう」

 語尾にハートマークでもつきそうな程甘くとろける声で、白昼堂々欲望を丸出しにする。
 一般の生徒が聞いたら卒倒するだろう。
 サラサラの栗色の髪の毛に、鼻筋が通り、目は少しタレ気味だが、そこはご愛嬌。
 薄めの唇から飛び出す卑猥な言葉も、生徒会副会長様親衛隊にかかれば、ありがたいお言葉に変換されてしまいそうだ。
 童話の中からそのまま飛び出してきた王子然とした白戸は、なおも重ねる。

「最近やっと会長が健介と落ち着いて、長屋君も風紀の言うことを聞くようになって、仕事がやっと落ち着いたんだ。少しくらいいいだろう?」

 頬を膨らます様もイケメンは崩れず、親衛隊曰く“庇護欲を誘う顔”である。放っておいてはいけないようなオーラを発しているかのようだ。
 いつもならばここで絆されてしまうが、晴太にも譲れない理由がある。

「この間のこと、まだ許してないからな」
「……まだ怒ってる?」
「当たり前だろ! 俺が泣いて嫌がっても、あんな……!」
「うん。あの時の晴太、最高に可愛かったよ」

 数日前にも、学校も生徒会もオフという休日があった。その時にも「いっぱいエッチしようね」とハートをまき散らし、朝起きた瞬間……。いや、たたき起こす勢いで朝からセックス三昧だった。
 一ダース以上あったコンドームは無くなり、無くなってからもお構いなしに抱かれ続けた。
 ベッドの上だけでなく、バスルームやトイレ、簡易キッチン、ソファの上、玄関、挙句ベランダでと場所を変え、精も根も尽き果てた。それでも白戸はまだ足りないという風で、もう出るものもなく空イキを重ね、最後には粗相をしてしまったことも、記憶に新しい。
 その姿を見て目を輝かせ、挿入しようとしたところで晴太の本気の拒絶が入った。
 見た目に反して絶倫で、鬼畜なところがある。もはや変態の域に達している。詐欺に値するレベルであると、晴太は本気で思っている。

(親衛隊に本性をバラしてやろうか)

 幾度となく頭によぎる考えだが、それは悪手でしかないだろう。

(どうせ、お仕置きだよ、とか言ってセックスの口実を作るだけだ。クソッ)

 心の中で悪態を吐きながら作業していると、カウンターの前に陣取っている白戸がまたあのとろける様な声で、顔で、晴太の手を取り、強引に自らの方へ引き寄せた。そして、耳を疑うようなことを宣った。

「ねぇ晴太、おれ、勃っちゃった」

 引き寄せられた耳元で、セックスしている時のような吐息交じりの声に、晴太は全身をピタリと硬直させた。
 カウンターを挟んでいなければ、勃っているという白戸の剛直をこすりつけられ、強制的にその気にさせられていただろう。
 次いで、色気の駄々洩れているとろけた顔で覗き込まれると、晴太のプライドや理性も崩れてしまいそうになる。

「ね、晴太……。おれ、晴太が欲しくて、ガマンできないよ……」

 止めの王子様の懇願に、晴太も陥落した。

「も、すぐ終わるからっ。終わってからなら、好きに、していいから! だから、少しだけ…待ってて……っ」
「うん。いい子で待ってるよ。言ったからね? おれの好きにするよ?」

 言質は取ったとばかりにほくそ笑む白戸に気づくこともなく、慌てて白戸から距離を取って作業を再開する。
 頬を真っ赤に染め、あたふたと書架整理のための作業をしている晴太をうっとりと眺めながら、白戸はこれからのことを考えていた。



 それから程なく書架整理を終えた晴太は、少し離れたところで本を読んでいた白戸を見つけ、目を奪われた。
 窓際に座り、換気のために開けていた窓から入る風に靡く栗色の髪、一見すると王子様のような見た目で真剣な表情で文字を追っている表情、ページをめくる繊細な指先。
 変態的な趣味嗜好をしていることを除けば完璧である白戸が、平凡で取り柄の無い晴太を欲している。戸惑いや葛藤はあるけれど、全身で好きだと伝えてくれる白戸に何度惚れ直しただろうか。
 好きであることを再確認して胸がぎゅっと掴まれる心地になり、泣きそうだと思っていると、白戸が晴太に気づく。

「晴太! 終わった?」
「うん。もう、帰れる。早くかえろ?」

最後の方は掠れた声になってしまい、煽られた欲が顔をのぞかせる。
 その欲を感じた白戸は、晴太が気づかないほどに口角を上げた。そして読みかけの本をそのままに、晴太を引き寄せて唇を奪った。
 いきなりのことに、晴太が白戸の肩を押すがびくりともせず、反対にその手を取られて思い切り抱きしめられながら口づけが深くなる。

「んンっ、んく、ぁ……」

 互いの唾液が溢れ、飲み込み切れなくなって晴太の顎を伝う。それを追って白戸が首に優しくかじりつく。晴太を封じ込めていた手は柔らかな双丘を掴み、ぐっ、と揉みこまれる。
 性感を呼び起こす触れ合いに、晴太がかろうじて待ったをかける。

「宗一郎っ、ここ学校だから、やだっ」
「でも、晴太は言ったよね? “好きにしていい”って。おれ、寮まで我慢できない。それに、図書室では一回やってみたかったんだ」

 言葉に詰まり、反論できない晴太に、さらに白戸が言い募る。

「それに、晴太も我慢できないだろ? もう、ココが欲しがってる……」

 ココ、というところで、晴太の秘められた部分に指が食い込み、身体がびくりと震える。
 それだけで、晴太の瞳はとろけて期待の眼差しを白戸に向けてしまう。

「ほら、晴太も欲しいって思ってる」
「そんな、こと……」
「せいた。嘘はだめだよ」
「っ!」

 ねっとりと耳殻を舐られ、ビクビクと晴太の身体が跳ねる。
 湿った音が直接耳に響き、性感を呼び起こされていく。晴太の性感帯を熟知している白戸にとっては、楽しみにしていたプレゼントを紐解いていくような気分だった。
 図書室で不健全なことをしているという背徳感も、晴太や白戸の性感を高めている。
 舌を絡ませる口付けを交わしながら本棚の奥へと移動していく。
 膝が笑って足のもつれる晴太を抱き上げ、滅多に生徒のこない専門書の一角まで来ると、本棚に晴太を押し付けた。
 そのまま忙しなく自分のネクタイを緩める白戸を薄目で見ながら、晴太は両腕を白戸の首へ回す。必死に白戸にしがみつきながら舌を絡める晴太に、白戸も目を細める。
 次に白戸は晴太のスラックスに手をかけ、ベルトを雑なしぐさで外していく。普段は変態的ではありながらも、紳士然としている白戸の雄の部分を見て、晴太はたまらない気持ちになった。

「そう、はやく……」
「…これ以上、煽らないでくれる? まだ慣らしてもないんだけど」
「だから、はやくして」
「…後悔するよ」

 携帯用のローションをどこからともなく取り出し、白戸の熱にまぶす。低く囁かれた声と同時に、ぐっ、と後孔に押し付けられた熱に力が入る。正面から唇をそれこそ食いつかれるように押し付けられると、無意識に体の力が抜けていく。
 その隙を逃さずに、白戸の熱が晴太の後孔に押し入れられる。それだけで晴太の後孔はキュンキュンと収縮して白戸の熱を迎え入れ、包み込む。
「ね、すぐに入っちゃったね。もしかして期待して準備してた?」
「っ……、ローション持ち歩いてるほうがどうかしてる……」

 晴太が目をそらして黙り込むと、白戸は晴太の後孔から熱を抜いて晴太の身体をひっくり返して本棚に押し付けた。

「なにっ?」
「いやらしいなぁ、せいた。期待して朝からアナルをいじるなんて。晴太もおれが生徒会休みだから、すぐにしたかったんだね。昼からサボればよかったなぁ」
「ばか! 学校サボるなんてありえねぇからな。確かに、朝いじったけど……」

 尻すぼみになりながら答える晴太の背後で、白戸はたまらなくなって晴太の後孔に熱を突き入れた。

「ぅぐっ、ンんっ! あぁっ」
「…すごいね。すごくうねって、おれを歓迎してくれてるね。でも……」
「っ?」
「晴太のココをいじってもいいのは、おれだけだって、言ったよね……?」

 言うやいなや、晴太の最奥まで一気に熱を叩き付ける。
 晴太は声も出せずにビクビクと身体を震わせ、腰がしなり、中の熱を締め上げる。

「っ晴太、出さずにイっちゃった? ね? この間ので覚えちゃったんだね」
「ぅ、あっ! あ、あぁ……」

 身体の痙攣が収まらず、収縮する中にも構うことなく白戸は律動を開始した。

「ひっ! んンっ、あ、あぁ! やだっ」
「嫌じゃないでしょ? キモチイイ、よね? 晴太は、後ろだけでイっちゃったんだもんね?」

 ずちゅずちゅと音を立てながら白戸の熱が晴太のイイトコロをこすり上げていく。その度に晴太は声を上げ、本棚に縋る手の力が抜けていく。
 手の力が完全に抜けてしまうと、白戸が晴太の両手を取り、自分の方にぐいっと引き寄せた。
 引き寄せられて背中が反り、熱を支点にしてさらに晴太の奥の奥に熱が入り込んでしまった。

「あああぁぁっ‼ ぅそ…、そこ、ぁ! そう、こわぃ…、そうっ」
「ぅ…、入っちゃったね。晴太の奥、キモチイイよ。おれが大好きだって叫んでる」
「あっ、ああっ! ぁんっ! はぁ、う……、そう、そういち、ろ……」
「せいた、せいたっ」

 互いにここが学校であるということに懸念を抱きつつ、止まることが出来ない。
 晴太が精を吐き出すと、後を追って白戸が晴太の奥に放った。

 息が乱れ、晴太はぐったりと力が抜け、白戸が支える。身体を預けると、どちらともなく深い口づけを交わした。
 ゆっくりと晴太の中から白戸の熱が出ていくと、晴太から鼻にかかった声が漏れ出す。

「晴太、煽んないで……」

 ぐぐっ、と白戸の杭に熱が戻る気配を感じ、晴太は急いで白戸から離れる。その時、身体に力が入ってしまい、晴太の後孔から精液が漏れてしまった。

「ひっ」

 思わず口元を抑えるが、流れ出す精液は留まらない。その様にも、白戸は興奮した目を向ける。

「せいた……」
「無理っ! もうこれ以上は無理だ!」
「晴太なら無理じゃないよ。ね、おいで?」

 白戸が手を広げて晴太を招こうとすると、遠くの方で扉の開く音が聞こえた。
 晴太はびくりと飛び上がり、急いで衣服の乱れを直す。白戸も大きな息を吐きつつ、衣服を直していく。

「誰かいるのか? 下校時間だぞ」
「は、はい! すぐに出ます!」

 むっつりと唇を突き出した白戸の背をぐいぐいと押し、カウンターの方に向かう。
 教師は見回りに戻ったようで、姿はなかった。

 胆の冷えた晴太は白戸にカバンを持たせ、背中をぐいぐいと押していく。
 濡れた下着が気持ち悪く、歩き方がぎこちなくなってしまうが、仕方がない。原因の男を追い立て、学校の廊下を歩いていく。
 寮へと向かいながら考えるのは、これからのこと。きっと寮の部屋に着くなり、白戸に貪られることになるであろう晴太の憂鬱を知ってか知らずか、白戸が後ろにいた晴太の手をとり、隣に並ぶ。
 生徒会副会長様親衛隊に見つかれば大ごとだが、下校時間間際で行内に残る生徒も少ない。たまにはいいかと、白戸の好きにさせておくと、晴太の耳元で白戸が囁いた。

「部屋に帰ったら、覚悟して」

 オトコの声に、後孔から白戸の精液が溢れて奥がきゅんと切なくなるのを感じ、白戸を睨みあげながらも、晴太の目には期待の色が浮かぶ。
 抱きつぶすと心に決め、白戸は背がゾクリと興奮に震えるのを感じて口角を上げる。

「せいた、あいしてるよ」

 晴太の腰に手を添え、ぐっと引き寄せて甘く囁く。晴太も満更ではないようで、腰に添えられた白戸の手を握る。
 それは晴太の精一杯の誘いの合図だった。

 それからのことは、二人だけの秘密である。





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