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それでも俺が好きだと言ってみろ.43

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 桜庭がどんな気持ちでいるかなんて、和香が考えるだけ余計なお世話なのに、考えずにはいられないなんて、お人好しにも程がある。



 朝のミーティングが始まり、三村によれば今日の昼から更に三人の助っ人が入ってくれるそうだ。

 先週は伊沢ともう二人、そして今日はさらに三人が加わり、総勢六名の増員となった。

 これならかなりの数をこなせる。



 そして、これ以上の増員は作業場がいっぱいになってしまうということで、関連会社でも分析作業を行ってもらえることになった。

 そのため、今日からは遅くて十時、スムーズにいけばほぼ残業なしで帰れるとのことだ。



 和香はホッとする反面、桜庭のこと、そして真のことが頭をよぎる。

 真には仕事が深夜になるから、日曜しか時間がないと伝えてしまった。

 しかし、いちいち訂正するのも、もう億劫だ。



 それは、帰る時間が早くなれば、桜庭からの誘いがどうなるのか分からないからでもある。

 残業がなければ植松と夜を過ごすのかもしれない。

 しかし、植松にも予定があるだろう。

 その場合は和香にその役目が回ってくるのだ。



 そして恐ろしいことに、そうやって桜庭に求められることに少なからず喜びを感じているのに和香は気付いてしまった。

 とんでもないことなのに・・・。

 生まれてしまった感情は消えてはくれないのだ。

 だからこそ、真と今さら何を話せばいいのか和香は頭を悩ませる。



「じゃあ、今週もみなさん、頑張って」

 三村の話などほとんど聞いていなかった。

 何か重要な話をしていたら大変なことになるというのに。



 ここには仕事をしに来ているのだと自分自身に言い聞かせる。

 桜庭とのことに気持ちを奪われ過ぎだ。

 仕事でミスしたら何のために桜庭との厄介ごとを引き受けたのかも分からなくなる。

 和香はデスクに残っていたブラックコーヒーを飲み干すと、気持ちを引き締めた。



 午前中の仕事が終わり事務室に戻ると、朝まで山の様に積まれていた段ボール箱が半分くらいになっていた。

 どうやらさっそく関連会社の人がやって来て、持って行ったらしい。

 目に見えて仕事量が減るとストレスも随分軽くなる。
 
 皆同じように感じたようで、珍しく事務室が和やかな雰囲気に包まれた。



「今日は手作り弁当なんだ」

 猪俣は本当に嬉しそうにお弁当を広げた。

「私は相変わらずコンビニ弁当」

「竹内さんもお弁当作ってみない?簡単なレシピ教えようか?」

「ありがとう、でも今はまだいいよ・・・」

「そっか、ごめんね、余計なお世話だよね」

「そんなことないけど・・・」

 今は本当にそんな気分じゃない。



「さあ、食べよう。今日は早く帰れそうだし。睡眠もバッチリだ」

 若いのに異常に健康志向な猪俣に、和香は思わず笑ってしまった。

「僕ってやっぱり変なのかな~」

「いいんじゃない。体にいいことしてるんだから」

「ああ~、それ答えになってない」

「ホントにそう思ってるよ。さあ、早く食べよう。お昼休み終わっちゃうよ」

「・・・うん」
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