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それでも俺が好きだと言ってみろ.42

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 その日の夜は不思議なくらい穏やかな気持ちで過ごした。

 ひとりで食べる夕食もおいしくて、久しぶりにゆっくりと見るテレビも面白かった。

 そして、何より好きな時間にベッドに潜り込んで眠れることが幸せで仕方なかった。



 そんな休日を過ごし、和香は真には申し訳ないと思いながらも、清々しい月曜の朝を迎えていた。

 桜庭に『お前はいつもどうやって起きるんだ』と言われたが、普通に目覚ましの音で目覚めた。

 桜庭があんなことをしなければ、ちゃんとした生活を送れるのだ。



 そんなことを思いながら朝ごはんをほおばっていると、テーブルの上のスマホにメッセージが届いた。

 真からだった。



『一度ちゃんと話がしたい。僕は何があっても和香ちゃんと別れるつもりはないから』

 そう記してあった。

 正直、真からそんな言葉が飛び出すとは夢にも思っていなかった。

 てっきりスッパリと別れを告げられて終わりだろうと思っていたから。

 

 出来ることなら、こんなややこしいことを説明せずに、浮気現場を目撃した真から別れを宣告して欲しかった。

『こんなこと言える立場じゃないけど、今週も毎晩深夜まで仕事があります。今度の日曜でもいいですか?』

 と返したが、なんだか他人行儀な敬語になってしまった。

『わかった』

 すぐに返事が返ってきた。



 気が重い・・・。

 今日は朝から雨が降っている。

 さっきまでそんなことなど気にならなかったの、急にそんなことまでが気持ちを暗くさせる。

 それでも仕事は待ってくれない。

 和香は身支度を整えると、家を出た。



「おはよう、どう?ゆっくり休めた?」

 猪俣が声を掛けてきた。

「うん、たっぷり寝たから、頭もスッキリ。猪俣君は?」

「僕は、お弁当が気になっちゃって、作り置きのおかずを沢山作ってたら一日が終わっちゃった」

「うわぁ、猪俣君らしい」



「どうしてもコンビニ弁当は嫌だったんだ。あ、ごめん、竹内さんいつもコンビニ弁当なのに・・・」

「ううん、いいの気にしないで。人には能力の限界があるから。今の私は仕事で精一杯」

 そうやって笑ってみせたものの、本当はさらに桜庭という大問題を抱えていることを、言えるものなら訴えたかった。

 猪俣とそんな話をしていると、入口の方から話し声が聞こえてきた。



「ほらほら、ママはお仕事だからね。バイバイして。もう車に戻らないと」

 どうやら雨が降ったため、伊沢の夫がわざわざ車で送ってきたらしい。

「おはようございます」

 朝から幸せオーラを振りまきながら伊沢がオフィスに入ってきた。



 伊沢の相手をするのはあいかわらず早乙女と植松だけで、桜庭は自席でシカトを決め込んでいる。

 その後姿はリラックスとは程遠く、硬くこわばっているように見えるのは気のせいだろうか。
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