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ホストと女医は診察室で.61

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 初めてきかされたその言葉に、和希は涙をこぼしながらもポカンとした表情で文則のことを見ていた。



「ほら、立って。お前がサボってた間の仕事が山ほど溜まってるんだ。帰るぞ」

 文則は和希の腕をつかむと立ち上がらせた。



「ご迷惑をおかけしました」

 文則は頭を下げると、引きずる様にして和希を連れて出ていった。



「な、何か…よく分からないけど、終わったみたい…」

 慶子は呆然としたまま呟いた。



「まったく、相変わらず甘やかされてるな~」

 聖夜は自分の家族の情けない部分を見られて、ひどく恥しかったが、慶子ならそれもいいかと不思議と思えた。



「邪魔が入ったけど、マジでそろそろ行かないと社員に半殺しの目に遭わされそう」

 昼過ぎに慶子のクリニックに来て、イチャイチャした時間を過ごし、さあ仕事へ出かけようとしたら、和希という邪魔が入って…。

 時刻は既に午後五時を回っている。

 だけど、口ではそう言いながらも、慶子と思いを通わせた今、離れがたい気持ちが強い。



「慶子さん…もっと一緒にいたい」

 聖夜にギュッと抱きしめられ、慶子も「私も…」などと甘い言葉をスルリと発していた。



「もう、今日は仕事休んじゃおうかな!」

 だけどそんな訳に行かないことは分かっていた。

 正直、毎日深夜まで仕事が詰まっているうえに、今は休みもまともにない。

 だから次はいつこうして慶子と甘い時間をすごせるのか分からない。

 だけど、聖夜の計画ではこんな日々がこの先一年以上は続くことになる。



「ねえ、慶子さん。サロンの設計なんだけどさ、今はまだ具体的に取り掛かってないでしょ」

「そ、そうね…それがどうかしたんですか?」

「う、うん…あの、もし嫌じゃなければなんだけど、その、サロンの建物三階建てにして、俺、その三階に住もうかなって…」

 最初は何のことか分からなかった慶子も、次第にその意味を理解すると、みるみるうちに顔が赤く染まっていく。



「ねえ、駄目?」

 ホスト時代に身につけた甘える様な声でねだられては(たとえそんな声ではなくても)慶子に断る理由など見つからなった。

 慶子は無言のまま必死で首を縦に振った。



「ホントに?いいの!やったね!!これで、俄然仕事やる気が出てきた」

 聖夜は慶子に優しくキスをすると「また来週」と言ってクリニックをあとにした。



 え、えっと…、サロンが三階建にになって、その三階には聖夜さんが住んで…。

 慶子は止めようとしても顔の筋肉が緩んでいってしまうのを止めることができなかった。



 こんなことって…。

 それも、今日一日でどれだけのことが変わってしまったのだろう…。

 慶子の頭の中はパンパンに膨れ上がった。

 和希との一幕はあったけれど、どれもこれもが嬉しいことばかりで…。

 困ることはないのだけれど…。

 幸せ過ぎて…嬉しすぎて…何だか怖いくらい。
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