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ホストと女医は診察室で.48

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「忙しいので手短にお願いします」

 慶子はあくまでも業務的に対応しようと頑張ってみた。



「はいはい、手短にね。俺が今色んな店舗をオープンしてるのは知ってるよね?」

「…い、一応」

 昨日サロンのスタッフに聞いたばかりだ。



「でね、今度は女性用のエステサロンをやろうと思ってるんだ」

「そうらしいですね…」

「この店みたいな美しさを追求するタイプのも、もちろんやるんだけど、メディカルエステっていうのにも興味があるんだ。先生知ってる?」

 知ってるも何も、つい最近自分がやりたいと思っていたことだ。



「し、知ってます…」

「でね、先生のクリニックの横にメディカルエステサロンを併設させてもらえないかなって、ビジネスのお話」

「えっ…」

 ちょっと、タイミングが良すぎない??

 慶子は自分の記憶の糸を手繰り寄せた。



 そう言えば、この間エステに行った時、自分がやるんならメディカルエステサロンをやってみたい、なんていうことをスタッフに話したかもしれない。

 その話を聞きつけた聖夜は、健康志向の今、これは流行りそうだと目をつけたのだろう。



 確かにどんな業界でも同じことを続けていては、客は離れていってしまう。

 慶子の場合はクリニックだけど、医療機関だって、患者はやはり最新のものを求めてやってくるのだ。

 そして、聖夜の提案は自分一人では出来ないけれどやれることならやってみたいという慶子の願いとぴったり一致してしまう。



「す、少し考えさせてください…」

 あ~、こんなはずじゃなかったのに…。

 本当に、弱いところを突いてくるんだから。



「じゃあ前向きに検討してもらえるってことでいいんだね?」

「…はい」

「では、よいお返事お待ちしてます。あ、俺の携帯の番号教えとくね。それと、出来たら今週中に返事欲しいな、じゃあまた」

 終始、聖夜のペースで話は進み、電話は切れた。



「はぁ~」

「珍しいですね、先生がため息なんて。何か問題でもあったんですか?」

 極上に深いため息を漏らすと、そばにいた看護師が驚いた表情で言った。



「ううん、ちょっと気難しい人だったから…」

 そんな訳の分からない言い訳をしてしまった。

 それ程に動揺している証拠だ…。

 昼食を摂り少しの休憩を挟んで、午後の診察が始まり、その日もあっという間に一日が終わった。



 仕事を終え二階に上がると、急に昼間の聖夜の話していたメディカルエステのことが頭の中でグルグルしはじめる。

「もう、今日の夕食は簡単なものにしよう」

 慶子は昨日の残りのおかずと卵焼きだけの質素のおかずで夕食をすませた。

 しかし、そうやって時間を作ってしまうと余計に考える時間が増えるだけだ。

 だからといってテレビを見ていてもそのことが頭から離れない。



「あ~あ、結局向き合わないとスッキリしないんだよね。もう、この几帳面な性格、本当に面倒くさい」

 このところ、慶子は自分の悪い部分に振り回されてばかりだ。

 しかし慶子の気持ちは本当はもう決まっていた。
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