上 下
45 / 67

ホストと女医は診察室で.45

しおりを挟む
 そんないい子でやってきた自分がこの歳になって初めて恥をさらさなければならない。

 それも何かを必死で頑張ったうえでの失敗とかではなく、聖夜への想いがこじれたせいで酒を飲みすぎて最悪の事態を招いてしまったのだ。

 こういう話に免疫のない母にそんなことを伝えるのは至難の業に思える。

 グダグダと考え込んでいるうちに一時間ほどが過ぎていた。



 着信の音にビクッとする…。

 まさかとは思うけれど…。

 画面に表示されているのは澄江の名前だった。



「嘘っ!和希さんもう連絡しちゃったの!?」

 母に何て伝えようなどと悩む必要はなくなった。

 しかし、なぜ早く言わなかったのだと血管がブチ切れそうになっている母の顔が思い浮かぶ。

 慶子はフルフルと震える腕を伸ばし、スマホの通話を押した。



「慶子…、今、三上和希さんから電話があったわ。何だか様子がおかしかったから…」

 想像とは違い母の口調はいたって冷静だった。

 よかった…逆上した母の声など聞きたくなかったから。

 それでもやはりどこらから話せばいいのか…。

 慶子の頭の中はパニックに陥る。



「詳しい話はいいわ。あと、今回のお見合いはハッキリお断りしましょう」

「えっ…」

 慶子はまだ一言も話していないのに…。



「あんな風に自分のことでいっぱいいっぱいの人に慶子を支えることなんて出来そうにありませんからね。お付き合いしても時間の無駄です」

「お母さん…」

「自分の身を呈してでも女性を守ってくれるような人じゃなきゃ、大切な娘の人生を託すわけにはいきませんからね」

「…うん、ありがとう」



「もちろんお相手のご両親には詳しい話はしません。ただご縁が無かったと伝えてそれで終わりにしましょ」

「お母さん…、本当にありがとう」

「いいのよ。あなたにもお父さんみたいに頼もしい人がきっと見つかるわ」



 ちゃっかりノロケられてしまったけれど、理解のある母であることをこの時ほど有難いと思ったことはない。

 ただでさえ落ち込んでいるところに、更なる追い打ちをかけられたらとても立ち直れない。

 自分に100%非がなかったとしても後味が悪い終わり方だ。

 しかも確実に自分にも非があるわけで…。



 母はああ言ってくれたけど、和希とはこんな風に出会いたくなかったと思ってしまう。

 だが、それもこれも今日で無事決着がついた。



 聖夜が最初に慶子のクリニックを訪れてから約半年が経とうとしていた。

 和希に会わなければ聖夜のことを思い出すこともなくなるだろう。

 慶子はやっと肩の荷が下りた気がしていた。

 聖夜に出会う前の日常が戻ってきた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

後宮の棘

香月みまり
キャラ文芸
蔑ろにされ婚期をのがした25歳皇女がついに輿入り!相手は敵国の禁軍将軍。冷めた姫vs堅物男のチグハグな夫婦は帝国内の騒乱に巻き込まれていく。 ☆完結しました☆ スピンオフ「孤児が皇后陛下と呼ばれるまで」の進捗と合わせて番外編を不定期に公開していきます。 第13回ファンタジー大賞特別賞受賞! ありがとうございました!!

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

私は何人とヤれば解放されるんですか?

ヘロディア
恋愛
初恋の人を探して貴族に仕えることを選んだ主人公。しかし、彼女に与えられた仕事とは、貴族たちの夜中の相手だった…

処理中です...