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ホストと女医は診察室で.06

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 慶子は気がつくと随分お酒を飲んでいた。

 酔っているつもりはなかったが、慣れない場所で話が途切れると間が持たなくて、つい杯を重ねてしまった。



「慶子さん、随分飲んでるけど大丈夫?」

「私、実はお酒飲んで酔ったことがないの…」

「へえ、強いんですね」

「うん、でも周りが酔っぱらってるの見てるだけってつまらないものよ」

「でも羨ましいな。僕、この仕事始めて五年経つんですけど、最初は弱くて苦労したんですよ。今は随分強くなりましたけど」

 里見は今はもうベテランなのだろう。

 酒を注ぐ姿も、グラスを傾ける仕草もスマートでさまになっている。

 テレビで見るようなハイテンションのホストばかりじゃないんだな…。

 慶子はいつの間にかすっかりくつろいでいた。



「どう、楽しんでる?」

 一通り客の相手をしてきた聖夜が、慶子のところに戻ってきた。

「じゃあ、僕は行きますね。慶子さん、またぜひ」

 里見はそう言うと別の客の所へ行ってしまった。

「うん、楽しい…」

 慶子はそう答えたところまでは覚えていた。



 次に目を開けたとき、慶子は自分がどこにいるのか全く見当がつかなかった。

 ベッドの上?あれ、私、聖夜さんのホストクラブにいたはずなのに…。

「やっと目が覚めた?」

 聖夜の声だ。

「え、えっと、これはいったい…」



「やっぱり覚えてない~」

「私、お酒に酔ったの?」

「そうだよ。今日は帰らないって、俺に散々からんどいて全く覚えてないの?」

「わ、わたしが、そんなことを!」

 嘘でしょ?今まで酔った事もないし…。

 ましてや記憶を失くすなんて、あり得ない。



「里見に酔ったことがないって言ってたらしいけど、今日は気分よく飲んでたんじゃない?楽しい酒だったんだよ。先生はそういう経験したことなかっただけだよ」

「だけど、こんな迷惑かけちゃって。ごめんなさい。私、帰ります」

 慶子はベッドから起き上がろうとするが、体が全く言うことをきかない。

「かなり飲んだみたいだから。もう少し休みなよ」

 聖夜はスーツの上着を脱ぐと、ネクタイを外し、慶子の寝ているベッドの端に腰掛けた。



「じゃあ、私はこのままここに泊まりますから、聖夜さんは帰ってください。これ以上ご迷惑をかける訳にはいきません」

「え?迷惑?まさか。先生、なにか勘違いしてない」

「え?」

 慶子は聖夜の言っている意味が全く分からなかった。

「俺がここにいるのは先生のご希望なんだけど。どうしても一夜を共にしたいって言う先生の」

「ま、まさか、私がそんなこと言うはずは…」

 酔っぱらっていて何も覚えていない…。

 だけど、女性には全く困っているはずのない聖夜がそんな嘘をつく必要があるだろうか。



「そ、そうですか、私はそんなことを言ったんですね…。じゃあ、責任を取らないといけませんね…」

 慶子は有言実行が信条だ。

 たとえこんなことでも例外ではない。

「へえ、さすが先生。どんな時もちゃんとしてるんだね」

 聖夜はこんな状況でも余裕の表情だ。
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