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初恋がこじれにこじれて困ってます.07
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次の日の休み時間、珍しく直が沙耶のクラスにやってきた。
「沙耶、一ノ瀬君が呼んでるよ。」
クラスメイトに呼ばれ、沙耶は本当ならほころんでしまいそうな顔を無理やり引き締めて、平静を装いながら直のところへ向かった。
「昨日はありがとな。」
「別にいいよ。そんなわざわざお礼なんて。」
「あ、それから、くるみちゃんにもお礼を…。」
そう言うと、直はくるみの姿を探して教室の中をきょろきょろと見渡した。
「くるみは今トイレ行ってる。もうすぐ帰ってくると思うけど…。」
言い終わらないうちに、直は廊下の向こうから歩いて来るくるみを見つけた。
「おーい、くるみちゃーん。」
その声を聞きつけたくるみの表情は遠くから見ていても分かるほど、ぱあっと明るく変化した。
「どうしたの?」
くるみは首をかしげて、またしても女の武器発動中なのだ。
「い、いやあ、昨日は本当に応援に来てくれてありがとう。そ、それからお弁当も、めっちゃうまかった。」
「やだあ、わざわざ言いに来てくれたの?くるみのほうこそお礼させてください。素敵な試合を見られたことと、きれいにお弁当を食べてくれたこと!」
「いやあ、そう言われると何て言っていいか。とにかく、次の試合も勝てるよう練習がんばるからさ、あ、もちろん俺たち一年はまだ出られないけど、そのときはまた沙耶と一緒に来てよ。」
気のせいだろうか、直の鼻の下が伸びているように見えるのは…。
「もっちろん!」
くるみは満面の笑みで答える。
「じゃあ、俺、教室戻るわ。」
「じゃあねー。」
沙耶は顔には出さないけれど、内心は動揺しまくっていた。
「バイバーイ。」
くるみの方はと言えば、心の底から嬉しそうに手を振っていた。
(なにこの流れ。直がわざわざ教室まで来るなんて今まで一度も無かったし。くるみのほうもまんざらでもない感じだし。)
「一ノ瀬君って礼儀正しいんだねー。」
「ま、まあね…、あいつ律儀だから。」
沙耶は何でわざわざフォローしてるんだと自分が嫌になる。
(直の分かりやすい態度のおかげで、くるみに興味があるのはまるわかりだ。でも、くるみのほうはどうなんだろう?)
くるみのああいうぶりっ子な態度が男子全般に対するものであれば、それは自由なのだけれど、もしも直だけに向けられているものならば、沙耶は何かしら行動を起こさなければならないだろう。友達と同じ子を好きになるなんてベタだけど、結構気まずいことになりやすい案件だ。
(あ~あ、直がかっこよくなるってことは分かってて、こういう時がやってくるっていうのは覚悟してたはずなのに…。さすがに、こんなにもすぐに、しかも相手は仲良くなったばかりのくるみだなんて…。)
沙耶はまだ二人が付き合っているわけでもないのに、何だか確信めいたものを感じて、早くも気持ちが沈んでいくのを止めることができなった。
その日の部活は、いつにも増して気持ちが入らず、厳しい部だったら相当叱られていたんだろうけれど、そこはゆるゆるのテニス部だ。こんなにダラダラしていても叱られないんだと、沙耶の方がびっくりしてしまうほどだったおかげで、なんとか最後までやることができた。
家に帰って少し休むと、もう瞬ちゃんの家庭教師の時間だ。こんなボロボロの気持ちのままでは、とても勉強に集中できるとは思えなかったけれど、とりあえずいつも通りチャイムを鳴らして、瞬ちゃんの部屋に入った。
「なんかあった?」
部屋に入るなりそう言われ、自分がもう少し器用だったらと悲しくなる。こんなことでは、何かあるたびに瞬ちゃんや周りの人に心配をかけてしまう。だけど、何でもかんでも打ち明けている瞬ちゃんに、今更隠したって仕方ない。
「うん。直が、直が…。」
くるみちゃんのことを好きなんじゃないか、と言いたかったのに、そこからは涙がとめどなく溢れてきて喋れなくなってしまった。そんな、沙耶の肩を瞬ちゃんはそっと抱きしめてくれる。そのままソファに腰かけ、瞬ちゃんはしばらく沙耶の背中をさすってくれた。
「少しは落ち着いた?」
「うん…。」
「話せる?」
「うん…。」
沙耶は今日の休み時間の出来事と、自分が感じている不安を素直に瞬ちゃんに伝えた。瞬ちゃんの口から一体どんな言葉が出てくるのか、沙耶は固唾を飲んで待った。
「直は単純だからいいとして、そのくるみちゃんって子は厄介かもね。」
「そ、そうなの?」
「まあ、俺も直接会わないと何とも言えないんだけど。もし狙ってやってるんだとしたらたちが悪いね。」
「うう~。」
「だけど、心配するな。沙耶には俺がついてるから。」
「うん…。」
自信満々に言われては、そう答えるしかなかった。
「沙耶、一ノ瀬君が呼んでるよ。」
クラスメイトに呼ばれ、沙耶は本当ならほころんでしまいそうな顔を無理やり引き締めて、平静を装いながら直のところへ向かった。
「昨日はありがとな。」
「別にいいよ。そんなわざわざお礼なんて。」
「あ、それから、くるみちゃんにもお礼を…。」
そう言うと、直はくるみの姿を探して教室の中をきょろきょろと見渡した。
「くるみは今トイレ行ってる。もうすぐ帰ってくると思うけど…。」
言い終わらないうちに、直は廊下の向こうから歩いて来るくるみを見つけた。
「おーい、くるみちゃーん。」
その声を聞きつけたくるみの表情は遠くから見ていても分かるほど、ぱあっと明るく変化した。
「どうしたの?」
くるみは首をかしげて、またしても女の武器発動中なのだ。
「い、いやあ、昨日は本当に応援に来てくれてありがとう。そ、それからお弁当も、めっちゃうまかった。」
「やだあ、わざわざ言いに来てくれたの?くるみのほうこそお礼させてください。素敵な試合を見られたことと、きれいにお弁当を食べてくれたこと!」
「いやあ、そう言われると何て言っていいか。とにかく、次の試合も勝てるよう練習がんばるからさ、あ、もちろん俺たち一年はまだ出られないけど、そのときはまた沙耶と一緒に来てよ。」
気のせいだろうか、直の鼻の下が伸びているように見えるのは…。
「もっちろん!」
くるみは満面の笑みで答える。
「じゃあ、俺、教室戻るわ。」
「じゃあねー。」
沙耶は顔には出さないけれど、内心は動揺しまくっていた。
「バイバーイ。」
くるみの方はと言えば、心の底から嬉しそうに手を振っていた。
(なにこの流れ。直がわざわざ教室まで来るなんて今まで一度も無かったし。くるみのほうもまんざらでもない感じだし。)
「一ノ瀬君って礼儀正しいんだねー。」
「ま、まあね…、あいつ律儀だから。」
沙耶は何でわざわざフォローしてるんだと自分が嫌になる。
(直の分かりやすい態度のおかげで、くるみに興味があるのはまるわかりだ。でも、くるみのほうはどうなんだろう?)
くるみのああいうぶりっ子な態度が男子全般に対するものであれば、それは自由なのだけれど、もしも直だけに向けられているものならば、沙耶は何かしら行動を起こさなければならないだろう。友達と同じ子を好きになるなんてベタだけど、結構気まずいことになりやすい案件だ。
(あ~あ、直がかっこよくなるってことは分かってて、こういう時がやってくるっていうのは覚悟してたはずなのに…。さすがに、こんなにもすぐに、しかも相手は仲良くなったばかりのくるみだなんて…。)
沙耶はまだ二人が付き合っているわけでもないのに、何だか確信めいたものを感じて、早くも気持ちが沈んでいくのを止めることができなった。
その日の部活は、いつにも増して気持ちが入らず、厳しい部だったら相当叱られていたんだろうけれど、そこはゆるゆるのテニス部だ。こんなにダラダラしていても叱られないんだと、沙耶の方がびっくりしてしまうほどだったおかげで、なんとか最後までやることができた。
家に帰って少し休むと、もう瞬ちゃんの家庭教師の時間だ。こんなボロボロの気持ちのままでは、とても勉強に集中できるとは思えなかったけれど、とりあえずいつも通りチャイムを鳴らして、瞬ちゃんの部屋に入った。
「なんかあった?」
部屋に入るなりそう言われ、自分がもう少し器用だったらと悲しくなる。こんなことでは、何かあるたびに瞬ちゃんや周りの人に心配をかけてしまう。だけど、何でもかんでも打ち明けている瞬ちゃんに、今更隠したって仕方ない。
「うん。直が、直が…。」
くるみちゃんのことを好きなんじゃないか、と言いたかったのに、そこからは涙がとめどなく溢れてきて喋れなくなってしまった。そんな、沙耶の肩を瞬ちゃんはそっと抱きしめてくれる。そのままソファに腰かけ、瞬ちゃんはしばらく沙耶の背中をさすってくれた。
「少しは落ち着いた?」
「うん…。」
「話せる?」
「うん…。」
沙耶は今日の休み時間の出来事と、自分が感じている不安を素直に瞬ちゃんに伝えた。瞬ちゃんの口から一体どんな言葉が出てくるのか、沙耶は固唾を飲んで待った。
「直は単純だからいいとして、そのくるみちゃんって子は厄介かもね。」
「そ、そうなの?」
「まあ、俺も直接会わないと何とも言えないんだけど。もし狙ってやってるんだとしたらたちが悪いね。」
「うう~。」
「だけど、心配するな。沙耶には俺がついてるから。」
「うん…。」
自信満々に言われては、そう答えるしかなかった。
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