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初恋がこじれにこじれて困ってます.04
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地区予選当日、沙耶はくるみと待ち合わせて一緒に市民体育館へ向かった。くるみはその手に大きなバッグを提げている。中身はおそらくアレに違いない。手ぶらで来てしまった沙耶は、早くも居たたまれない気持ちになる。
(うわー、応援に行くんだったらお弁当持ってくのなんて常識だよね。直の姿が見られるって思ったらそれだけで満足しちゃって、お弁当のこととかすっかり頭の中から消えてたよ…。それに比べて、くるみは手堅いな…。)
バスに乗ると沙耶はくるみの膝に鎮座している大きなバッグの中身について恐る恐る尋ねた。
「くるみ、それお弁当?」
「うん!ちょっと作り過ぎちゃった。みんなの口に合うといいんだけど。」
「え、えらいなー、くるみは。私、気が利かなくってダメなー。」
「そんなことないよー。私がお節介なだけだよ。従兄の応援に行くときいっつも持ってってたから、くせみたいなものかな。」
くるみはペロッと舌を出す。
(ヤバい。女子力が完全に負けてる。見た目も内面も。)
直の応援に行くという純粋な目的とはかけ離れた、よこしまな考えばかりが沙耶の頭の中を占領していた。
きっと当の直は純粋に自分の活躍を見てほしいだけなのに。沙耶はそんな気持ちのまま応援しては直に失礼だと、一旦自分の思いは横に置いておこうと思うのだった。
市民体育館前のバス停で降りると、体育館の中からは元気な掛け声が聞こえてくる。ちょっと前まで小学生だった沙耶からすれば、中学生の大会というのはちょっと緊張してしまう。なにしろ、男子はほとんどが声変わりをしていて、掛け声もすごみがある。3年生の選手のなかには身長も180?を越えている人もけっこういる。育館のなかに入り、直たちのチームを探す。
「あ、あそこじゃない?」
くるみが指をさした。
「あ、ほんとだ。KASHIWAGIってユニフォームに書いてある。」
二人は走って応援席へ向かった。コートでは各チームが交代でウォーミングアップを始めていた。
「なおー!」
沙耶は大きな声で叫ぶと、直に向かって手を振った。それに気づいた直がちょと恥ずかしそうに手をあげる。
先輩たちの前ではさすがにまずかったのかと、沙耶はちょっと反省する。でも、応援に来ていることを知らせたかったのだから仕方がない。
試合が始まった。直は椅子に座って一生懸命応援している。
「直、出してもらえるのかな?」
沙耶がくるみにたずねると、「う~ん、1年は冬の新人戦が初舞台だから、それまでは出られないと思うよ。」
などと当たり前の様に答えられてしまった。
「そ、そうなんだ。」
バスケットに詳しくない沙耶はそう答えるしかない。(うー、やっぱくるみ見た目と中身が別人だよ。)
試合は、一進一退で、ハーフタイムの時点では柏木が25点で相手チームが28点と接戦だ。
「沙耶とお友達、名前聞いてなかったな、来てくれたんだ。ありがとう。」
先輩たち用のスポーツドリンクを取りに直が観客席に顔を出した。
「あ、名前言ってなかったっけ。江崎くるみちゃんだよ。」
「へえ、くるみちゃんなんて可愛いなまえだね。」
「くるみって呼んでくれていいよ。」
「いや、呼び捨てはまずいよ。じゃあ、くるみちゃんで。」
「うん、まあ、それでもよろしい!」
(な、なんだ、このアイドルばりのぶりっ子口調は!く、くるみって、こういう子だったの?)
引きまくる沙耶を尻目に、くるみ節がさく裂する。
「くるみねー、いっぱいお弁当作ってきたから、楽しみにしててねー。」
「へえー、すげー!うれしー。」
直はでれっとした顔で喜んでいる。
(な、なによ、直ったら、私にあんな顔したことないよ。そりゃあ、くるみは私と違っていかにも女の子って感じで可愛いけど。私のほうがずっと前から直のこと知ってて、一番直のこと思ってるのに!)
「な、直たち勝てそう?」
「うーん、微妙かな。でも、先輩たちならやってくれると思う。」
直はそう言い残すと、スポーツドリンクとを抱えてコートに戻っていった。後半が始まり、試合は柏木が1点入れると、相手も1点入れるという一進一退を繰り返していた。沙耶は声を嗄らして必死に応援した。試合は拮抗していたけれど、ここまで相手チームのエースはファウルを繰り返していた。技術が優れている分、強引なプレーが目立っていた。そして、柏木がシュートを打とうとした時、またファウルがとられた。柏木には3ポイントエリアからのフリースローというチャンスが巡ってきた。
「これを決めたら、勝てるかもね。」
くるみは興奮した様子で沙耶に話しかけた。
「そ、そうだね。」
いちいちくるみの反応が気になる。直の応援に集中したいのに…。
試合の残り時間はあと5分。点差は、柏木が2点差で勝っている。この3ポイントが決まれば、一気に5点差になる。そして、みんなの願いどおり、3ポイントシュートは見事に決まった。それから、試合は動かなかった。5点差のまま、試合は終了し、柏木は初戦を勝利で飾ることができた。
「みんなかっこよかったね。」
「う、うん。そうだね。」
沙耶はそんな風に、ストレートに人のことを誉めるのには抵抗がある。素直に言えるくるみがうらやましい。
「じゃあ、お弁当持って行こうか。」
「あ、うん。」
沙耶が誘ったはずなのに、いつの間にか主導権はくるみに握られてしまっている。
(うわー、応援に行くんだったらお弁当持ってくのなんて常識だよね。直の姿が見られるって思ったらそれだけで満足しちゃって、お弁当のこととかすっかり頭の中から消えてたよ…。それに比べて、くるみは手堅いな…。)
バスに乗ると沙耶はくるみの膝に鎮座している大きなバッグの中身について恐る恐る尋ねた。
「くるみ、それお弁当?」
「うん!ちょっと作り過ぎちゃった。みんなの口に合うといいんだけど。」
「え、えらいなー、くるみは。私、気が利かなくってダメなー。」
「そんなことないよー。私がお節介なだけだよ。従兄の応援に行くときいっつも持ってってたから、くせみたいなものかな。」
くるみはペロッと舌を出す。
(ヤバい。女子力が完全に負けてる。見た目も内面も。)
直の応援に行くという純粋な目的とはかけ離れた、よこしまな考えばかりが沙耶の頭の中を占領していた。
きっと当の直は純粋に自分の活躍を見てほしいだけなのに。沙耶はそんな気持ちのまま応援しては直に失礼だと、一旦自分の思いは横に置いておこうと思うのだった。
市民体育館前のバス停で降りると、体育館の中からは元気な掛け声が聞こえてくる。ちょっと前まで小学生だった沙耶からすれば、中学生の大会というのはちょっと緊張してしまう。なにしろ、男子はほとんどが声変わりをしていて、掛け声もすごみがある。3年生の選手のなかには身長も180?を越えている人もけっこういる。育館のなかに入り、直たちのチームを探す。
「あ、あそこじゃない?」
くるみが指をさした。
「あ、ほんとだ。KASHIWAGIってユニフォームに書いてある。」
二人は走って応援席へ向かった。コートでは各チームが交代でウォーミングアップを始めていた。
「なおー!」
沙耶は大きな声で叫ぶと、直に向かって手を振った。それに気づいた直がちょと恥ずかしそうに手をあげる。
先輩たちの前ではさすがにまずかったのかと、沙耶はちょっと反省する。でも、応援に来ていることを知らせたかったのだから仕方がない。
試合が始まった。直は椅子に座って一生懸命応援している。
「直、出してもらえるのかな?」
沙耶がくるみにたずねると、「う~ん、1年は冬の新人戦が初舞台だから、それまでは出られないと思うよ。」
などと当たり前の様に答えられてしまった。
「そ、そうなんだ。」
バスケットに詳しくない沙耶はそう答えるしかない。(うー、やっぱくるみ見た目と中身が別人だよ。)
試合は、一進一退で、ハーフタイムの時点では柏木が25点で相手チームが28点と接戦だ。
「沙耶とお友達、名前聞いてなかったな、来てくれたんだ。ありがとう。」
先輩たち用のスポーツドリンクを取りに直が観客席に顔を出した。
「あ、名前言ってなかったっけ。江崎くるみちゃんだよ。」
「へえ、くるみちゃんなんて可愛いなまえだね。」
「くるみって呼んでくれていいよ。」
「いや、呼び捨てはまずいよ。じゃあ、くるみちゃんで。」
「うん、まあ、それでもよろしい!」
(な、なんだ、このアイドルばりのぶりっ子口調は!く、くるみって、こういう子だったの?)
引きまくる沙耶を尻目に、くるみ節がさく裂する。
「くるみねー、いっぱいお弁当作ってきたから、楽しみにしててねー。」
「へえー、すげー!うれしー。」
直はでれっとした顔で喜んでいる。
(な、なによ、直ったら、私にあんな顔したことないよ。そりゃあ、くるみは私と違っていかにも女の子って感じで可愛いけど。私のほうがずっと前から直のこと知ってて、一番直のこと思ってるのに!)
「な、直たち勝てそう?」
「うーん、微妙かな。でも、先輩たちならやってくれると思う。」
直はそう言い残すと、スポーツドリンクとを抱えてコートに戻っていった。後半が始まり、試合は柏木が1点入れると、相手も1点入れるという一進一退を繰り返していた。沙耶は声を嗄らして必死に応援した。試合は拮抗していたけれど、ここまで相手チームのエースはファウルを繰り返していた。技術が優れている分、強引なプレーが目立っていた。そして、柏木がシュートを打とうとした時、またファウルがとられた。柏木には3ポイントエリアからのフリースローというチャンスが巡ってきた。
「これを決めたら、勝てるかもね。」
くるみは興奮した様子で沙耶に話しかけた。
「そ、そうだね。」
いちいちくるみの反応が気になる。直の応援に集中したいのに…。
試合の残り時間はあと5分。点差は、柏木が2点差で勝っている。この3ポイントが決まれば、一気に5点差になる。そして、みんなの願いどおり、3ポイントシュートは見事に決まった。それから、試合は動かなかった。5点差のまま、試合は終了し、柏木は初戦を勝利で飾ることができた。
「みんなかっこよかったね。」
「う、うん。そうだね。」
沙耶はそんな風に、ストレートに人のことを誉めるのには抵抗がある。素直に言えるくるみがうらやましい。
「じゃあ、お弁当持って行こうか。」
「あ、うん。」
沙耶が誘ったはずなのに、いつの間にか主導権はくるみに握られてしまっている。
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