上 下
106 / 106

御曹司のやんごとなき恋愛事情.106

しおりを挟む
 そうと決まれば、話はとんとん拍子に進んでいった。

 こういう時の栗本と俊介の行動力には本当に圧倒される。



 優子は結婚と、副社長の就任発表の順序をどうするべきかと早速心配を始めたのだが、社長室で話した翌日には、俊介は社員全員に向けて優子と結婚するという喜びメールを配信してしまった。

 顔を合わせる社員たちに、次々と祝福の言葉を述べられ、その日はまともに仕事が出来なかった。



「もう、どうして相談してくれないんですか」

 副社長室で優子は俊介に文句を言った。
 
 嬉しいことは確かだが、やはり一言いってからにしてほしい。

「いいじゃないか、めでたい報告は早い方が」

 などと言って俊介は取り合ってくれない。

 それだけでなく、社内で二人きりになれたチャンスとばかりに、優子の手を取ると自分の体に引き寄せた。



「優子・・・、好きだよ」

「副社長・・・、ここは会社ですよ・・・」

「だからいいんだよ・・・。優子のスーツ姿そそる・・・」

 俊介は、体のラインがはっきりと分かる優子のスーツの上から、むっちりとしたお尻を揉みしだく。

「だ、ダメですってば・・・、ああっ、ああんっ」



 コホン、という咳払いとともにいつの間にか栗本が隣の控室から入ってきていた。

「別に続けてもらってもかまいませんが、副社長、こちらの資料あとで目を通しておいてください」

 そう言うと、サッサと部屋を出て行ってしまった。



「ほら、栗本さんに軽蔑されてしまいましたよ」

「別に軽蔑なんてしてやしないよ。栗本君はいつも僕たちの味方だ」

「それはそうですが・・・」

 こんなにも俊介の信頼を勝ち得ている栗本に少しだけ嫉妬してしまう。

 その前に、俊介がおかしなことをするから、そもそも何のためにここに来たのかを忘れそうになる。



「最初の話に戻しますが、できればでいいですから、二人のことを発表するときはひとこと言って欲しいです」

「わかったよ。優子に頼まれたら聞かないわけにいかないな」

 俊介にとっては、社長就任などより優子と結婚するということが比べ物にならないくらい重要だったから、優子も同じ気持ちだと思っていた。



 だが、思いは同じでも、それをどう表現するかは人それぞれだ。

 いや、やはり優子よりも自分の方が浮かれているのかもしれないなと、俊介は素直に反省した。

 ニューヨークから日本に戻り、すでに一緒のマンションで暮らしているのだから、ひとこと言ってくれればそれでいいのに、という優子の言い分はもっともだ。



「じゃあ仕事に戻ります」と言って部屋を出ていく優子の後姿を俊介は愛おしい気持ちで眺めていた。

 行成が会長に、俊介が社長に、そして優子が副社長に就任し、桑原商事はいよいよ新しい一歩を踏み出した。



 俊介と優子の新婚旅行は優子のたっての希望で、世界中の支社を回りながらの世界一周という、ほぼ仕事と呼んでもおかしくないものに決まった。

 支社の訪問レポートと称して、栗本のところには毎回俊介から報告書と一緒に写真が送られてくる。

 栗本はその画像を開きながら深いため息をついた。



 ビジネスの方に比重を置いている優子と違い、俊介は明らかに優子とのハネムーン気分で浮かれている。

 そのせいで、恐らく優子には無断で撮ったと思われる、二人の淫らな姿を映した写真が毎回混ぜられているのだ。



 俊介が嬉しいのはよく分かる。

 だが毎回そんな写真を見せられる栗本の気持ちも少しは考えてほしい。



「この調子なら、お世継ぎの心配はしなくてもよさそうですね」

 栗本はため息をつきながらも、笑顔でそれらの画像をゴミ箱に移動させた。

 そこに写っていたのは、ことが終わったあと完全に疲れ果てて眠っている優子の横で満面の笑みでピースをしている俊介の画像だった。
しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

Princess story 〜御曹司とは付き合いません〜

鳴宮鶉子
恋愛
Princess story 〜御曹司とは付き合いません〜

社長室の蜜月

ゆる
恋愛
内容紹介: 若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。 一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。 仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

処理中です...