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御曹司のやんごとなき恋愛事情.104

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「まあ、それでもニューヨークに出向したことは、それなりにいい勉強になったけど、出向の目的は仕事のためだけじゃなかったんだ」

「仕事のためじゃない・・・?」



 ああもう早く結論を言って欲しい。

 優子は俊介の手をギュっと強く握り返した。

 俊介の眼が、もう少し待ってと訴えている。



「俺が社長に就任したあと、副社長の椅子はしばらく空くはずだった。代理くらいなら置いてもよかったけど、やっぱりできれば自分の子供にその席を譲りたかったからね」

「・・・?」



 俊介の子供?まさかと思うけど・・・、いやそんなはずは・・・、百パーセントないとは言い切れない。

 青ざめた顔の優子を見て、俊介はそうじゃないと首を横に振った。

 だったら、何?どういうこと?

 優子はもう我慢の限界だ。



「優子が俺を選んでくれたから、こうして今日という日を迎えらえたんだ」

 栗本が静かに拍手を始めた。

 行成も満足げに微笑んでいる。



 いやいやいや、全く意味が分かりませんよ?

 優子はすがるような目で俊介のことを見つめた。

 すると俊介は優子の手を取り、おもむろに立ち上がった。

 つられて優子も立ち上がることになる。



「優子、俺の妻になってくれますか?」

「・・・えっ、今、何て・・・?」

「何度も言わせるなよ。俺と結婚してください」

 俊介は握手を求めるように手を伸ばすと、ぺこりと頭を下げた。

 シンと静まり返った社長室で、行成と栗本がそのようすを固唾を飲んで見守っている。



「そ、そんな・・・、私は・・・」

 結婚なんて出来るはずない。

 俊介にはもっと相応しい相手がいるはずだ。

 優子は真っすぐに伸ばされた俊介の手を取ることが出来ない。



「私に遠慮してるのなら、心配無用だよ」

 行成が口を開いた。



「えっ・・・」

「二人で力を合わせて桑原商事を盛り立てて行って欲しい。これは社長として、そして俊介の父としての私の気持ちだ」

「でも・・・」

 いくら行成本人にそう言われても、優子の中ではまだ納得できないし、一体何が起こっているのか理解が出来ない。



「佐竹さん・・・、社長もこう仰ってるんですし、素直に女の幸せ掴んじゃっていいんじゃないですか」

 栗本までがそんなことを言い出す始末だ。



「だ、だって・・・、私は・・・、ただの社員で・・・、そんな、坊ちゃんと結婚なんて大それたこと・・・、できるはずありません。もっといいお家柄のお嬢さんと結婚なさった方が坊ちゃんは幸せになれるんです・・・」

 優子は行成の前であることも忘れて、俊介のことを坊ちゃんと呼んでいた。



「この期に及んでまだこんなこと言うんだぜ、親父・・・。俺も苦労してるだろう?」

「ああ・・・、佐竹君の考え方は少しばかり古めかしいところがあるようだな」

 行成と俊介が目くばせをしあい、まるで優子が悪者のようになっている。



「桑原商事の将来、そして副社長の将来、そのどちらも最高のものにするために、全て私が提案させていただきました」

 ついに栗本がその全貌を語り始めた。
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