上 下
103 / 106

御曹司のやんごとなき恋愛事情.103

しおりを挟む
「佐竹君も今年は三十六歳になるのかな?」

「え、ええ、そうです」

 行成はいつもどちらかと言えば、単刀直入に本題に入るのに、今日はえらくまどろっこしい。



「そうか、それではやはり急がねばならんな・・・」

「そうだな」

 突然俊介が会話に入ってきた。

「何をですか?」

 優子はついに痺れを切らした。



「俊介は今月いっぱいで日本に戻ってもらう。そして社長に就任してもらう予定だ」

「ええっ!副社長の出向期間は三年とお聞きしていましたが」

「まあ、そういうことにしておいただけだ」



 いったいどういうことなのか、優子にはさっぱり分からない。

 せっかく俊介もニューヨークの生活に慣れてきたというのに・・・。

 個人的な事を言えば、もちろん帰ってくることは嬉しい。

 しかし、俊介のためを思うなら、海外でキャリアを積むことは重要なことだ。



 優子は俊介のことを見つめたが、ニコニコ笑っているだけで動揺した様子はない。

 ということは俊介はこのことを知っていたということだ。

 そして栗本も・・・。



「何か問題があったんですか?」

「いや、全く」

「じゃあ、どうして・・・」

「そして、佐竹君には副社長に就任してもらう」

 優子の質問を遮って、行成は言葉を続けた。



「わ、私がですか!」

 行成が優子をヘッドハンティングしたとき、当時勤めていた商社で将来就ける最高の地位より必ず上のポジションを約束すると言った。

 これがそれなのだろうか・・・。

 しかし、桑原商事は同族経営だから、副社長はマズいのではないだろうか・・・。



「あの・・・、訳が分かる様に話していただけないでしょうか」

 優子はさっきから驚かされてばかりで、座るのさえ忘れていた。

 何も知らないのは優子だけというのにも、いい加減疲れた。

 優子はソファに腰をおろすと行成のことをじっと見つめた。



「俺が話すよ」

 俊介が優子の所にやって来て、すぐ隣に座った。

 危うく「坊ちゃん!」、と言いかけて、慌てて「副社長」と言い直した。



「俺の出向の予定、本当は最初から一年て決まってたんだ。優子や俺に近しい人間には三年って嘘の情報を流した」

「嘘の情報・・・」

「まあ、質問はあとで受け付けるから、とりあえず最後まで聞いて」

 俊介はそっと優子の手を握った。

 こんなところでとは思ったが、行成からは見えないし、どうせ栗本は全部知っているのだからと、そのまま受け入れた。



「本当のこと言うと、出向することもどっちでもよかったんだ」

「ええっ!!」

 今すぐ問い詰めたいことが山ほどあったが、グッと飲み込んだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

私の心の薬箱~痛む胸を治してくれたのは、鬼畜上司のわかりづらい溺愛でした~

景華
恋愛
顔いっぱいの眼鏡をかけ、地味で自身のない水無瀬海月(みなせみつき)は、部署内でも浮いた存在だった。 そんな中初めてできた彼氏──村上優悟(むらかみゆうご)に、海月は束の間の幸せを感じるも、それは罰ゲームで告白したという残酷なもの。 真実を知り絶望する海月を叱咤激励し支えたのは、部署の鬼主任、和泉雪兎(いずみゆきと)だった。 彼に支えられながら、海月は自分の人生を大切に、自分を変えていこうと決意する。 自己肯定感が低いけれど芯の強い海月と、わかりづらい溺愛で彼女をずっと支えてきた雪兎。 じれながらも二人の恋が動き出す──。

車の中で会社の後輩を喘がせている

ヘロディア
恋愛
会社の後輩と”そういう”関係にある主人公。 彼らはどこでも交わっていく…

年下の彼氏には同い年の女性の方がお似合いなので、別れ話をしようと思います!

ほったげな
恋愛
私には年下の彼氏がいる。その彼氏が同い年くらいの女性と街を歩いていた。同じくらいの年の女性の方が彼には似合う。だから、私は彼に別れ話をしようと思う。

溺愛ダーリンと逆シークレットベビー

葉月とに
恋愛
同棲している婚約者のモラハラに悩む優月は、ある日、通院している病院で大学時代の同級生の頼久と再会する。 立派な社会人となっていた彼に見惚れる優月だったが、彼は一児の父になっていた。しかも優月との子どもを一人で育てるシングルファザー。 優月はモラハラから抜け出すことができるのか、そして子どもっていったいどういうことなのか!?

ご褒美

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
彼にいじわるして。 いつも口から出る言葉を待つ。 「お仕置きだね」 毎回、されるお仕置きにわくわくして。 悪戯をするのだけれど、今日は……。

『えっ! 私が貴方の番?! そんなの無理ですっ! 私、動物アレルギーなんですっ!』

伊織愁
恋愛
 人族であるリジィーは、幼い頃、狼獣人の国であるシェラン国へ両親に連れられて来た。 家が没落したため、リジィーを育てられなくなった両親は、泣いてすがるリジィーを修道院へ預ける事にしたのだ。  実は動物アレルギーのあるリジィ―には、シェラン国で暮らす事が日に日に辛くなって来ていた。 子供だった頃とは違い、成人すれば自由に国を出ていける。 15になり成人を迎える年、リジィーはシェラン国から出ていく事を決心する。 しかし、シェラン国から出ていく矢先に事件に巻き込まれ、シェラン国の近衛騎士に助けられる。  二人が出会った瞬間、頭上から光の粒が降り注ぎ、番の刻印が刻まれた。 狼獣人の近衛騎士に『私の番っ』と熱い眼差しを受け、リジィ―は内心で叫んだ。 『私、動物アレルギーなんですけどっ! そんなのありーっ?!』

処理中です...