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御曹司のやんごとなき恋愛事情.92

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『夜分遅くすみません。栗本です』

『いいえ、まだ九時だから、気にしないで』

『副社長の到着時刻ですが、やはり少しでも長くそちらにいたいということで、こちらを今夜発って、明日の十四時到着のものに変更になりましたので』

『分かったわ』



『できれば、お出迎えをお願いしたいのですが、よろしいですか?』

『私が、直接?』

『ええ・・・、その・・・一刻も早く佐竹さんに会いたいとおっしゃって・・・』



 それは本当に本人が言ったのだろうか・・・。

 だが、それを栗本に尋ねたところで、真実は分からないだろう。

 そう言われたら優子が断れないことを、俊介も栗本も知っているのだから。

 優子は栗本に聞えないようにため息をついた。



『分かりました。私が空港にお迎えに行くと副社長には伝えてください』

『お手数をおかけします』

 そう言って電話は切れた。

 相変わらず栗本にはやられっぱなしだ。

 もしかしてフライト時刻も最初からさっきのものじゃなかったのかと、思わず疑ってしまう。



 俊介に会える嬉しさと気恥しさが優子の心の中に混在している。

 引越しで疲れたからよかったものの、こんな気持ちではとても眠ることなど出来なかっただろう。



 俊介の到着時刻に間に合うようマンションを出た。

 到着ロビーで俊介が出てくるのを待つ。

 どうしようもないくらいの緊張に襲われる。

 たった一ヶ月会っていないだけなの・・・、どうしてこんなにドキドキしてるの?

 嫌だ・・・、こんな自分を見られるのは・・・。

 優子はやっぱりこのまま帰ってしまおうかと思うほど、軽いパニックに陥る。



「優子!ただいま!!」

 肩をポンと叩かれて振り向いた。

 目の前には抜ける様な笑顔の俊介が立っている。

「坊ちゃん・・・」

 だめだ、泣いちゃう・・・。

 優子は自分のほっぺを引っ叩いた。



「ど、どうした優子?なにしてんだ」

「な、何もしてません」

「何もって、お前今、自分のこと思いきりぶったろ」

「そんなことはいいですから、さあ、行きましょう」

「そうだな」

 俊介はカラカラと小さめのスーツケースをひきづりながら、優子の手を握った。



「ぼ、坊ちゃん!」

「いいじゃんこのぐらい。久しぶりに会ったんだぜ」

「・・・そうですけど」

 ああ、もう・・・、嬉しい・・・。



「今度は笑ってんの?」

「笑ってません!」

 優子は俊介の反対側を向いた。

「もっと、顔見せてくれよ」

 立ち止まってあごをグイッと引き寄せられる。



「ちょ、ちょっと・・・」

「大丈夫、ここではキスなんてしないから」

「そ、そんなこと言ってません」

 俊介はクスクスと笑って、もう一度手を繋いだ。
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