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御曹司のやんごとなき恋愛事情.70

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 俊介と栗本はイスラエルと中国、そして優子と須藤はエジプトと韓国の視察を無事終え、アメリカの事業所で二週間ぶりに合流した。

 久々に優子に出会えたのはよかったが、当然全員が同じホテルに宿泊することになり、優子と二人で夜を過ごすことは叶わなかった。

 結局、約一ヶ月強の海外視察の間、優子との甘い時間は、あの一晩限りだった。

 十分に濃厚な時間ではあったけれど、あの時間が甘ければ甘いほど、また欲しくなる。



 俊介の方はそうやって素直に自分の気持ちと葛藤していればよかったが、優子の方はそれよりもさらに難しい現実が待っていた。

「優子・・・、お帰り。疲れただろう」

 伊波は愛しい優子の帰りを心待ちにしていた。

 久しぶりに見る優子は相変わらず美しくて・・・。



 女性らしいボディラインをいやらしくない程度に主張したスーツは優子によく似合っている。

 しかし、そんな窮屈なものはとっとと取り去ってしまいたい。

 そしてその中のもっと美しい姿が見たい。

 今すぐ抱きしめて、キスをして、そして・・・ベッドで愛し合いたい・・・。



「そうでもないわ・・・。久しぶりに世界中を回って、刺激的で充実した時間だった」

 優子の頭の中はまだビジネスモードのままの様だ。

 優子がいない間、自分が優子のことを考えた時間の何パーセントくらい、優子は自分のことを考えてくれただろうか。

 伊波はそんな女々しいことを考えてしまう。



 帰国してから一週間たつが、まだ一度も伊波と夜の生活をすることができないでいた。

 伊波としては週に一度、いや本当は三度、本音を言えば限りなく毎日でも優子のことを抱きたかった。

 何しろ十年越しの想いがかなっての同棲生活なのだ。

 我慢をしろというほうが無茶というものだ。



 普段から、お互い出張ですれ違いも多い。

 しかも今回は優子の海外視察で一ヶ月以上おあずけをくらっているのだ。

 疲れている優子の体を思って、さすがに初日は遠慮しておいた。

 しかし、それから毎日一緒のベッドで寝ているのに、「疲れているから・・・」と断られ続けているのだ。



 優子もさすがにマズいと思い始めているのだが、例のフランスでの熱い一夜のせいで、伊波に対する罪悪感が思いのほかひどく、どうしても行為に及べないでいた・・・。

 いくら優子の意志が固く、行動力があっても、そういった内面的な部分までも自分の意思とは関係なくどうにでもできるほど、人間というものは簡単には出来ていない。

 伊波には申し訳ないが、もう少し時間が経てば、あの日の記憶も薄れて行くだろう・・・。

 今の優子はそれを願うしかなかった。
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