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御曹司のやんごとなき恋愛事情.43

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 土曜だというのに、行成から呼び出されて、俊介は本社ビルの社長室にいた。

「実は今度お前にシンガポールに行ってもらいたいと思っている」

「シンガポール?何しに」

「志津子がやっている慈善事業の世界大会がシンガポールで行われるんだ」

「お袋の道楽に何で俺がつき合わなきゃいけないんだよ」



 俊介はビジネスの話なら、行成の言うことはたいていきいてきたつもりだ。

 しかし、今回の指示は全く意味が分からない。



「道楽なんかじゃない。志津子のやっている慈善事業は我が社のイメージ戦略の一つだ」

「イメージ戦略?」

「ああ。どこの会社でもスタイルこそ違うが、社会貢献をしているということをアピールしてるだろう。うちの場合は志津子がやっている慈善事業がその一部なんだ」

 そんな話初めて聞いた。

 てっきりお袋が趣味でやってるものだとばかり思っていた。



「まあ、今回の訪問は三泊四日の予定だから、お前の会社の有給でどうにかなるだろうが、その後、調整がつき次第、シンガポールを皮切りに、世界中にある我が社の支社の視察に行ってもらいたい」

「えっ・・・、てことは、デザイン会社は・・・」

「そうだ。もう退職しなければならんだろう」

「い、いきなりだな・・・。そういうことは、もう少し早く言っておいてくれないと、デザイン会社にも迷惑になるじゃないか」



 普段は細かい事を言わない俊介も、今勤めているデザイン会社には散々世話になっているという自覚がある。

 もちろん、俊介は営業マンとして優れた成績を修めているから、会社としても損ではない。

 しかし、俊介が次期社長であること、そしてその間の繋ぎのような形で仕事をしていることを許してくれているのだ。



「いや、あちらにはもう話は通してある」

「えっ、俺より先にあっちに言っちゃったのかよ」

「すまない・・・。この間、私が過労で倒れただろう?自分はまだまだ大丈夫だと思っていたのだが、やはりそろそろお前に仕事を継いでもらう準備をしていかなければと思ったのだ」

「そうか・・・、そうだな・・・」



 いつかこの日が来ることは分かっていた。

 短い間だったが、デザイン関係の仕事に就けて俊介は幸せだった。

 行成が俊介に異業種の仕事をさせたのは、いきなり商社に入れてしまうより、視野が広がること、そして、好きな仕事をやることで、仕事というものを与えられてこなすのではなく、自分から能動的に動いて行う人物になって欲しかったからだ。



「慈善事業の世界大会には、佐竹君と一緒に行ってくれ。大会に出席するのは志津子だから、お前たちは、そのレポートと写真を頼む」

「わ、分かった」

 口ではそう答えが、優子が同行すると分かり、たった今まで全く乗り気じゃなかった俊介は俄然やる気が湧いてくる。

 しぶしぶ行くはずだった慈善事業の大会が楽しみでしかなくなる。

 この機会に優子の気持ちを変えさせてやる。

 そして、あのムカつく伊波の野郎と別れてもらう。

 俊介の頭の中はこういう時だけ異常なほどに働き者になるのだった。



 俊介の勤めていた小さなデザイン会社は馴染の店であるガムランで送別会を開いてくれた。

 同僚で俊介のお気に入りである岩崎和馬との別れが、俊介にとっては一番辛かった。

 従妹のさゆりとは顔を合わせることもあるだろうが、社長に就任してしまったら、自由な時間はほとんどなくなるだろう。

 今まで散々自由にさせてもらったのだから、これ以上贅沢は言えないが・・・。
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