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御曹司のやんごとなき恋愛事情.38

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 優子は俊介と違って、つまみ食いなどしない。

 だから、この十年というもの、身体の関係があったのは俊介とだけだ。

 だが、それも覚悟の上で同居と結婚を決めたのだ。

 感情などなくてもセックスをすることくらいできる。



「お風呂、先にどうぞ」

 優子は見たいドラマが始まったので、深く考えることなくそう言った。

「あ、ああ・・・」

 伊波の顔が幾分こわばっているように見えるのは気のせいだろうか。

 彼も一度は結婚と離婚を経験している。

 そして、その後もずっとフリーだったわけではないだろう。

 だから、こんなことで緊張するとは思えないのだが・・・。



 しかし、そんな優子の予想とは裏腹に、伊波はめちゃくちゃ緊張していた。

 何しろ待ちに待った優子とのセックスだ。 

 浴室に入ったものの、これから優子と裸で抱き合うのかと思ったら、もう自分のアレが勃ち上がってしまい伊波は焦った。



 元同僚、そして元彼女、そして十年越しの片思いの相手でもある。

 この期に及んで、いったいどんな顔をして優子のことを抱けばいいのか分からなくなる。

 若いころは何も知らなくて、がむしゃらだった。

 だけど、下手に年をとってしまうと、おかしなプライドが邪魔をする。



 優子は自分がすっかりセックスにも手馴れた大人の男になっていると期待しているだろうか?

 だが、そういうことは他人と比較することができないから、自分がどのくらいのレベルなのかも分からない。

 優子ぐらいの女性であれば、付き合ってきた男も一流で、そっちの経験も豊富に違いない。

 そういう男たちと比較されるのかと思うと、今勃ち上がったものが、急速に萎えていく。

 この日を待ち望んでいたはずなのに、優子のことを好きすぎるせいで、自分にもの凄いプレッシャーをかけてしまうのだ。



 何でこんなことで悩まなきゃいけないんだ・・・。

 俺は童貞か・・・。

 しかし男性の方がセックスの美味い下手を気にするのは当然で、下手だと言われたりしたら、しばらくの間、役に立たなくなる場合もあるくらいだ。

 そのくらいデリケートな問題なのだ。

 しかし、いつまでも入っているわけにもいかず、伊波は普段より入念に身体を洗い、風呂を出た。



「ずいぶん長風呂なのね」

「そうかな?優子はもっと早いのか」

「うん、私は烏の行水」

「へえ、昔からそうだっけ?」

「ううん、多分今の仕事に就いてからかな。だって、とにかく忙しいんだもん」

 つい最近過労で倒れたばかりだから、説得力がある。



「まだ、入らないの?」

「うん、このドラマ終わってから入る」

 優子は至って普段と変わらない様子で生活を送っている。

 これからのことを想像して、落ち着かないのは自分だけのようだ。

 パジャマに着替え、読みかけの本を手にしても、一向に頭に入って来ない。

 同じ行を何度も読み返してしまい、全くページが進まない。
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