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御曹司のやんごとなき恋愛事情.09
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伊波は長い海外での生活で一度だけ現地で社内恋愛の末結婚したが、長続きせず離婚した。
だから、今の伊波は完全に優子を恋愛の対象として見ている。
「優子はあまり飲まなくなったんだな」
「私、そんなに飲んでたっけ?」
「飲んでたよ。でも、多分あの頃の優子は男に負けたくなかったんだよ。仕事でもプライベートでも」
「そうだったのかな~」
当時のことは余り覚えていない。
とにかくがむしゃらに働いた記憶しかない。
「だけど、今日は何で誘ってくれたの?」
「いいでしょ、同期が長い海外生活から解放されて、やっと日本に帰ってきたんだもん。お祝いくらいさせてよ」
「ええ?本当にそれだけ」
昔の優子からは考えられない言葉に、伊波はつい疑り深くなってしまう。
何しろこの十年というもの、優子からはなしのつぶてだったのだから。
「なによ、そういう理由で誘っちゃだめなの?」
「いや、俺はめちゃくちゃ嬉しいけど」
そうストレートに言われると、今度は優子のほうが答えに困る。
「ねえ、あのさ・・・、もし今フリーだったらさ・・・、私たちもう一回つき合わない?」
「え、それマジで言ってんの」
ずっと密かに優子のことを思い続けていた伊波にとって、そんな降って湧いたような幸せ過ぎる申し出が嬉しくないはずがない。
しかし、優子からそんなことを言われること自体、にわかに信じがたい。
「もう、私もいい歳だしさ、そろそろ身を固めないとって思ってるんだけど・・・。重いんだったら断って」
「おいおい、まだ俺は何も言ってないぞ」
優子の意図が分からない・・・。
何だか訳アリの匂いがしないわけじゃない。
しかし、それが自分の有利な方向に転ばないとも限らない。
これは恐らく普通の恋愛ではなく、何かの取引なのだと伊波は理解した。
しかし、それでも余りあるほど、伊波の心はまだ優子に傾きっぱなしだ。
「よし、つきあおう。もう一回!空白の十年間を取り戻すぞ!!」
「でも、私は相変わらずだから、その辺は余り期待しないでね」
さっそく牽制されるが、望むところだ。
「いや、スタートが優子からってだけでも、俺の人生には新しい歴史が刻まれた」
「大げさね」
「じゃあこの後はさっそくホテルに」
「やだ、ガツガツしすぎ」
「ええっ~、付き合い始めたばっかなのに、いきなり冷たすぎない?」
「何言ってんの、十年の空白があっただけで、昔の続きだと思いなさい」
「マジか~」
しかし贅沢は言わない。
もうこんな機会は一生訪れないと思って生きてきたのだ。
たとえ1%の可能性だって賭けてみよう。
伊波は急に若返ったような気持ちになった。
何だか世界が輝いて見えるのは気のせいだろうか。
しかし、浮かれる伊波を尻目に、優子は少しだけ良心の呵責を感じていた。
だから、今の伊波は完全に優子を恋愛の対象として見ている。
「優子はあまり飲まなくなったんだな」
「私、そんなに飲んでたっけ?」
「飲んでたよ。でも、多分あの頃の優子は男に負けたくなかったんだよ。仕事でもプライベートでも」
「そうだったのかな~」
当時のことは余り覚えていない。
とにかくがむしゃらに働いた記憶しかない。
「だけど、今日は何で誘ってくれたの?」
「いいでしょ、同期が長い海外生活から解放されて、やっと日本に帰ってきたんだもん。お祝いくらいさせてよ」
「ええ?本当にそれだけ」
昔の優子からは考えられない言葉に、伊波はつい疑り深くなってしまう。
何しろこの十年というもの、優子からはなしのつぶてだったのだから。
「なによ、そういう理由で誘っちゃだめなの?」
「いや、俺はめちゃくちゃ嬉しいけど」
そうストレートに言われると、今度は優子のほうが答えに困る。
「ねえ、あのさ・・・、もし今フリーだったらさ・・・、私たちもう一回つき合わない?」
「え、それマジで言ってんの」
ずっと密かに優子のことを思い続けていた伊波にとって、そんな降って湧いたような幸せ過ぎる申し出が嬉しくないはずがない。
しかし、優子からそんなことを言われること自体、にわかに信じがたい。
「もう、私もいい歳だしさ、そろそろ身を固めないとって思ってるんだけど・・・。重いんだったら断って」
「おいおい、まだ俺は何も言ってないぞ」
優子の意図が分からない・・・。
何だか訳アリの匂いがしないわけじゃない。
しかし、それが自分の有利な方向に転ばないとも限らない。
これは恐らく普通の恋愛ではなく、何かの取引なのだと伊波は理解した。
しかし、それでも余りあるほど、伊波の心はまだ優子に傾きっぱなしだ。
「よし、つきあおう。もう一回!空白の十年間を取り戻すぞ!!」
「でも、私は相変わらずだから、その辺は余り期待しないでね」
さっそく牽制されるが、望むところだ。
「いや、スタートが優子からってだけでも、俺の人生には新しい歴史が刻まれた」
「大げさね」
「じゃあこの後はさっそくホテルに」
「やだ、ガツガツしすぎ」
「ええっ~、付き合い始めたばっかなのに、いきなり冷たすぎない?」
「何言ってんの、十年の空白があっただけで、昔の続きだと思いなさい」
「マジか~」
しかし贅沢は言わない。
もうこんな機会は一生訪れないと思って生きてきたのだ。
たとえ1%の可能性だって賭けてみよう。
伊波は急に若返ったような気持ちになった。
何だか世界が輝いて見えるのは気のせいだろうか。
しかし、浮かれる伊波を尻目に、優子は少しだけ良心の呵責を感じていた。
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