19 / 19
努力追放編
戦いはこれからも
しおりを挟む
それにしても、マルティネは本当に悪いやつなのか。
こんな大勢の前だから、
悪役を演じているだけじゃないのか。
そんなことを考えてしまう程、彼は悪者のようには見えなかった。
マルティネは一体、何を考えているだろう。
今のところ、彼から悪人のような気配は感じられないのだが……。
そんなことを思いながら、俺達は、今日もまた剣を持って対峙していた。
相変わらず俺は勝ち続けている。
それでも、マルティネの心は折れていなかった。
いや、むしろ、負ければ負けるほど彼の心は燃え上がっていた。
もっと強くなりたい。
強くなって、俺に勝ちたい。
マルティネの熱い想いは日増しに強くなっていくように感じられる。
そして、その度に、俺は手加減せずに剣を交えていく。
この世界の剣術は実践的で荒削りながら、 マルティネの剣術はとても綺麗だった。
それこそ、見ていて惚れ惚れするような。
そんな彼の成長を見届けるのができないのが少し寂しくもあり、楽しみでもあった。
マルティネはもう終わりである。
「さぁ、来いっ! 次は僕が勝つぞっ!」
マルティネは両手を広げて待ち構えている。
その目はキラキラと輝いている。
マルティネは本当にいい奴だ。
なんで、こんなにも真っ直ぐなんだ? 俺は不思議でしょうがなかった。
だが、
「……いくぞ?」
俺はそう言って剣を構えた。
マルティネもそれに合わせて剣を構える。
俺は剣を振り上げると一気に下ろした。
マルティネはそれを受け止めようと、剣を上げる。
しかし、次の瞬間、俺は剣を手放す。
そして、そのまま、剣を持っていた右手で、 マルティネを思いっきり殴りつけたのだ。
「ぐふぅっ!?」
マルティネは吹っ飛ばされて倒れ込む。
周りにいた兵士達も何が起きたのか分からず呆然としている。
俺だけが冷静にその様子を見ていた。
「……勝負あり、かな。」
俺はそう言うと、マルティネの元へ歩いて行く。
そして、彼を仰向けにして起こすと、
「大丈夫か?」
「くそっ……また負けた……」
悔しそうな表情を浮かべながらも、どこか満足気な顔をしていた。
「君は強いね。」
マルティネは笑顔で言う。
ちょうどその時、索敵スキルにアイリ達が合流地点へ向かっている反応があった。
作戦は成功したようだ、後はマルティネを連れて帰るだけだ。
俺はマルティネに手を差し伸べる。
そして、マルティネはその手を掴んで立ち上がった。
そして、お互いの手を握ったまま握手をする。
マルティネは照れ臭そうにはにかんで笑った。
うん、やっぱりいい奴だ。マルティネに責任を押し付けるのは、やはり気が引ける。
このままだと彼があまりにも可哀想すぎるから。もしかしたら、フラハイが黒幕かも知れない。
だから、ちゃんと話し合ってみようと思ったんだ。
でも、いざとなると言葉が出てこなくて……。
なんて言おうか考えていたら、先にマルティネが話し始めた。
「今日こそ君には勝てると思っていたんだけどな」
「いや、マルティネってすごいと思うよ」
「嘘をつくんじゃない。手加減をして勝ったのだろう?」
マルティネは真剣な眼差しで俺を見ている。
その瞳は力強くて吸い込まれてしまいそうだ。
「そんなことない。本気でやった。」
俺は嘘をついた。
「いや、君は手を抜いていた」
「違う。」
「じゃあ、どうして最後の攻撃は
威力が弱まったんだ?」
「……それは」
「まぁ、いい。君が本気を出していなかったのは事実だしな。でも次は負けんぞ!」
マルティネは悔しそうな表情を浮かべながらも、俺に笑みを向けた。
「よし。また勝負しよう」
マルティネの言う通り、確かに俺は手を抜いた。
彼は魔力も体力も俺以下だ。
だから俺に勝つことは不可能だ。
でも、マルティネは凄い。俺に力及ばずとも、常に全力でぶつかってくる。
貴族なのに、本当に尊敬に値する。
「マルティネ様何してるのですか!?」
二人で楽しく話していたのに、突如として現れた乱入者に邪魔されてしまった。
「あれ?フラハイ、どうしたの?」
マルティネが尋ねると、フラハイと呼ばれた男は、
「マルティネ様が、急に走り出したから、追いかけて来たんですよ。全く、何を考えているんですか。」
「いや、それは、その……」
マルティネはしどろもどろになりながら、なんとか言い訳をしようと試みるが、思い浮かぶ言葉がないのか、ただ口をパクパクさせるだけ。
「とにかく! 早く帰りますよ!!」
フラハイは強引にマルティネの肩を掴み、引きずるように歩き出す。
「ちょっ、痛いっ!! 分かった、自分で歩くから。」
マルティネは諦めたように言うと、 フラハイに連れられ歩いて行った。
その背中を見て、俺は思った。
マルティネが幸せになれる未来があるといいなって。
――マルティネ達と別れてから数時間後。
俺たちはようやくアイリのいる場所まで戻ってきた。
エルフのみんなを助ける事に成功し、アイリは心底幸せそうだ。
かくして、俺は一人の女の子を笑顔にする事ができたのである。
それからというもの、マルティネとの戦いは相変わらず続いているし、マイナや、カナデ、アイリを一人前の冒険者にする為に日々奮闘中だ。
そうそう、結局のところ俺は『最強の男』として頑張るより、こうしてカイナでスローライフを送ってるのが一番なようだ。
かくして、俺は今日もギルドへ向かうのでありました。
こんな大勢の前だから、
悪役を演じているだけじゃないのか。
そんなことを考えてしまう程、彼は悪者のようには見えなかった。
マルティネは一体、何を考えているだろう。
今のところ、彼から悪人のような気配は感じられないのだが……。
そんなことを思いながら、俺達は、今日もまた剣を持って対峙していた。
相変わらず俺は勝ち続けている。
それでも、マルティネの心は折れていなかった。
いや、むしろ、負ければ負けるほど彼の心は燃え上がっていた。
もっと強くなりたい。
強くなって、俺に勝ちたい。
マルティネの熱い想いは日増しに強くなっていくように感じられる。
そして、その度に、俺は手加減せずに剣を交えていく。
この世界の剣術は実践的で荒削りながら、 マルティネの剣術はとても綺麗だった。
それこそ、見ていて惚れ惚れするような。
そんな彼の成長を見届けるのができないのが少し寂しくもあり、楽しみでもあった。
マルティネはもう終わりである。
「さぁ、来いっ! 次は僕が勝つぞっ!」
マルティネは両手を広げて待ち構えている。
その目はキラキラと輝いている。
マルティネは本当にいい奴だ。
なんで、こんなにも真っ直ぐなんだ? 俺は不思議でしょうがなかった。
だが、
「……いくぞ?」
俺はそう言って剣を構えた。
マルティネもそれに合わせて剣を構える。
俺は剣を振り上げると一気に下ろした。
マルティネはそれを受け止めようと、剣を上げる。
しかし、次の瞬間、俺は剣を手放す。
そして、そのまま、剣を持っていた右手で、 マルティネを思いっきり殴りつけたのだ。
「ぐふぅっ!?」
マルティネは吹っ飛ばされて倒れ込む。
周りにいた兵士達も何が起きたのか分からず呆然としている。
俺だけが冷静にその様子を見ていた。
「……勝負あり、かな。」
俺はそう言うと、マルティネの元へ歩いて行く。
そして、彼を仰向けにして起こすと、
「大丈夫か?」
「くそっ……また負けた……」
悔しそうな表情を浮かべながらも、どこか満足気な顔をしていた。
「君は強いね。」
マルティネは笑顔で言う。
ちょうどその時、索敵スキルにアイリ達が合流地点へ向かっている反応があった。
作戦は成功したようだ、後はマルティネを連れて帰るだけだ。
俺はマルティネに手を差し伸べる。
そして、マルティネはその手を掴んで立ち上がった。
そして、お互いの手を握ったまま握手をする。
マルティネは照れ臭そうにはにかんで笑った。
うん、やっぱりいい奴だ。マルティネに責任を押し付けるのは、やはり気が引ける。
このままだと彼があまりにも可哀想すぎるから。もしかしたら、フラハイが黒幕かも知れない。
だから、ちゃんと話し合ってみようと思ったんだ。
でも、いざとなると言葉が出てこなくて……。
なんて言おうか考えていたら、先にマルティネが話し始めた。
「今日こそ君には勝てると思っていたんだけどな」
「いや、マルティネってすごいと思うよ」
「嘘をつくんじゃない。手加減をして勝ったのだろう?」
マルティネは真剣な眼差しで俺を見ている。
その瞳は力強くて吸い込まれてしまいそうだ。
「そんなことない。本気でやった。」
俺は嘘をついた。
「いや、君は手を抜いていた」
「違う。」
「じゃあ、どうして最後の攻撃は
威力が弱まったんだ?」
「……それは」
「まぁ、いい。君が本気を出していなかったのは事実だしな。でも次は負けんぞ!」
マルティネは悔しそうな表情を浮かべながらも、俺に笑みを向けた。
「よし。また勝負しよう」
マルティネの言う通り、確かに俺は手を抜いた。
彼は魔力も体力も俺以下だ。
だから俺に勝つことは不可能だ。
でも、マルティネは凄い。俺に力及ばずとも、常に全力でぶつかってくる。
貴族なのに、本当に尊敬に値する。
「マルティネ様何してるのですか!?」
二人で楽しく話していたのに、突如として現れた乱入者に邪魔されてしまった。
「あれ?フラハイ、どうしたの?」
マルティネが尋ねると、フラハイと呼ばれた男は、
「マルティネ様が、急に走り出したから、追いかけて来たんですよ。全く、何を考えているんですか。」
「いや、それは、その……」
マルティネはしどろもどろになりながら、なんとか言い訳をしようと試みるが、思い浮かぶ言葉がないのか、ただ口をパクパクさせるだけ。
「とにかく! 早く帰りますよ!!」
フラハイは強引にマルティネの肩を掴み、引きずるように歩き出す。
「ちょっ、痛いっ!! 分かった、自分で歩くから。」
マルティネは諦めたように言うと、 フラハイに連れられ歩いて行った。
その背中を見て、俺は思った。
マルティネが幸せになれる未来があるといいなって。
――マルティネ達と別れてから数時間後。
俺たちはようやくアイリのいる場所まで戻ってきた。
エルフのみんなを助ける事に成功し、アイリは心底幸せそうだ。
かくして、俺は一人の女の子を笑顔にする事ができたのである。
それからというもの、マルティネとの戦いは相変わらず続いているし、マイナや、カナデ、アイリを一人前の冒険者にする為に日々奮闘中だ。
そうそう、結局のところ俺は『最強の男』として頑張るより、こうしてカイナでスローライフを送ってるのが一番なようだ。
かくして、俺は今日もギルドへ向かうのでありました。
0
お気に入りに追加
406
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。
独身貴族の異世界転生~ゲームの能力を引き継いで俺TUEEEチート生活
髙龍
ファンタジー
MMORPGで念願のアイテムを入手した次の瞬間大量の水に押し流され無念の中生涯を終えてしまう。
しかし神は彼を見捨てていなかった。
そんなにゲームが好きならと手にしたステータスとアイテムを持ったままゲームに似た世界に転生させてやろうと。
これは俺TUEEEしながら異世界に新しい風を巻き起こす一人の男の物語。
俺は善人にはなれない
気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。
無限に進化を続けて最強に至る
お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。
※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。
改稿したので、しばらくしたら消します
妖精王オベロンの異世界生活
悠十
ファンタジー
ある日、サラリーマンの佐々木良太は車に轢かれそうになっていたお婆さんを庇って死んでしまった。
それは、良太が勤める会社が世界初の仮想空間による体感型ゲームを世界に発表し、良太がGMキャラの一人に、所謂『中の人』選ばれた、そんな希望に満ち溢れた、ある日の事だった。
お婆さんを助けた事に後悔はないが、未練があった良太の魂を拾い上げたのは、良太が助けたお婆さんだった。
彼女は、異世界の女神様だったのだ。
女神様は良太に提案する。
「私の管理する世界に転生しませんか?」
そして、良太は女神様の管理する世界に『妖精王オベロン』として転生する事になった。
そこから始まる、妖精王オベロンの異世界生活。
ざまぁから始まるモブの成り上がり!〜現実とゲームは違うのだよ!〜
KeyBow
ファンタジー
カクヨムで異世界もの週間ランク70位!
VRMMORゲームの大会のネタ副賞の異世界転生は本物だった!しかもモブスタート!?
副賞は異世界転移権。ネタ特典だと思ったが、何故かリアル異世界に転移した。これは無双の予感?いえ一般人のモブとしてスタートでした!!
ある女神の妨害工作により本来出会える仲間は冒頭で死亡・・・
ゲームとリアルの違いに戸惑いつつも、メインヒロインとの出会いがあるのか?あるよね?と主人公は思うのだが・・・
しかし主人公はそんな妨害をゲーム知識で切り抜け、無双していく!
異世界で穴掘ってます!
KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる