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努力追放編

戦いの幕開け

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         デート!?……。


 え? デートって、あの、恋人同士が一緒に出掛けるっていうアレですか!?


「リュウとなら何処へだってついて行きますし、どんな事したって楽しいのです。リュウは私とデートしたくないのですか?」   

 不安そうにこちらを見つめるアイリ。アイリが目を潤ませながら、そっと手を握ってきた。

 その手を握り返すと、彼女の頬が赤く染まる。

 そして……

「そんなことないさ。俺がアイリと一緒だと凄く癒されるんだ。アイリが側にいてくれるだけで幸せな気持ちになれるから」


 さっきまでのアイリは泣きそうな表情を浮かべていたが、俺の言葉を聞くと次第に笑顔を取り戻していった。

「それではデートに行くのですー」
 
    アイリの弾けるような声と共に俺達は街の外へと繰り出した。 

 アイリと二人で並んで歩く。まずは湖に向かうことにした。


 木々の間からは澄み切った青空が見えている。風が吹く度に木漏れ日が揺れてキラキラと輝いていた。

 本当にいい天気だ。湖のほとりにアイリと一緒に座り、二人してぼんやりと空を眺めていた。

「アイリは幸せです。リュウの事が大好きなのですよ」

 アイリの頭を撫でると嬉しそうにはしゃいでいる。

 ふと視線を落とすと、マルティネが湖にいるのが見える。

  彼は水辺に座って釣りをしているようだ。俺の視線に気づいて、マルティネが顔をあげた。俺と視線が合う。

 しまった、と思ったのもつかの間。マルティネがぐんぐんと近づいてきて、目の前までやってきたのだ。


 俺は慌てて立ち上がり、マルティネの顔を見る。彼は真っ直ぐに俺を見つめてくる。


「マルティネ、お前王都に帰ったんじゃないのよ」    

 マルティネはやれやれと肩をすくめた。

 
「帰れるわけないだろう。勇者たる僕が負けて逃げ帰ったなんて、王都に知れたらいい笑い者だ」

 てことはまた、勝負でもして王都に帰らせようかな。

「どうでもいいけどさ、もう俺にいちゃもんつけないでくれよ」

「今回は別件だよ。『使い捨てタンク』の補充を任されていてね」


   マルティネが何をしようが至極興味がないが、『使い捨てタンク』ってなんだ? 
 
 俺が尋ねるとマルティネは、フフンと得意げに笑った。

「君たちのような冒険者には無縁の話だろうが、王国軍は魔王が放つ刺客と常に戦っている。その際に使われるのが、『使い捨て魔力タンク』なんだ」

 それより、と一呼吸おいてからマルティネが続けた。


「リュウ、お前の隣にいる女性はエルフではないのか?」

  そうだと、俺はめんどくさそうに答えた。マルティネと話しても疲れるだけである。

「まさかその女の個体名は『リーザ』ではないだろうね」


 マルティネに詰問されて、すっかり
 怯えてしまった様子のアイリ。

 アイリは震えながらも、なんとか言葉を紡いだ。

 「違うのです……ほんとに違うのです」

 その様子はとても痛々しい。……だからか、俺は自然と口を開いていた。

 アイリの前に立ち、彼女を守るように両手を広げる。

「おいっ! アイリが困ってるだろ!」

 すると、マルティネの瞳が少しだけ大きくなった気がした。

 けれどすぐに元に戻って、俺に向かって頭を下げてきた。

「すまない。君の言う通りだ。少し配慮が足りなかったかもしれない」

「ところで『リーザ』だったらどうなるんだ?」

「使い捨てタンクとして魔力が枯渇するまで王都で使用する」

「は? 何言ってんだマルティネ、だってタンクって言ったじゃないか」
  

「エルフを魔力タンクとして使うのが効率的なんだよ。

 人間と違って寿命が長いし、若いうちは無限に近い量の魔素を取り込めるからね。


 もっとも、そんなに長くは使えないけど。せいぜい十年くらいだ」

「…………ッ!?」

 マルティネの説明を聞いた瞬間、アイリがビクリと身体を震わせた。 

「アイリ?」

「……なんでもないのです」

 振り返ると、彼女は俺の手を握ってくる。その小さな手は微かに震えていた。

(――あぁ、そういうことなのか)

 彼女の恐怖の意味を理解して、俺の心が怒りに染まっていく。



「おい、一発ぶん殴っていいか?」
 
 ボコッ、バキッ、ボキッ!

 マルティネが返事する前に俺は動き出し、奴を殴り飛ばしていた。  


 殴られた勢いで、マルティネは後ろに倒れ、湖の中にドボンと落ちた。

「ぶわっ!? ゲホッ、ゴホォッ!!」

 水の中で咳き込みながら、必死になって起き上がる。そして俺の姿を見つけると、


 非難するように彼は叫んだ。

「リュウ! いきなり何をする!」 

「エルフのみんなを今すぐ解放しろ。物みたいに言いやがって」

「はぁ? エルフは物だろう。奴隷のように扱われて当然じゃないか」 

 マルティネの言葉を聞いて、アイリが俯く。



「ふざけんなよテメェ。アイツらはモノじゃねぇぞ。生きてる命なんだ。 
 それをお前らの勝手で、勝手に連れ出して、消耗品扱いしてんじゃねーよ」


マルティネは呆れたような顔になった。

「まったく意味がわからない。エルフなんて道具にすぎないだろ。?……まぁいいさ。どちらにせよ、君には関係のないことだ」

 マルティネはよろよろと立ち上がると、明後日の方向へ歩き去っていった。
 
 どうやらマルティネと戦う理由ができてしまったようだ。

 全員なぎ倒して、絶対にエルフのみんなを解放するぞ!

 この青空の下でアイリに笑って欲しいから、俺はそれを誓うのだった。


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