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勇者追放編

マルティネとの対決(前編)

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 俺達は森へと向かった。

  ギルドを出る前に受付嬢のお姉さんに色々聞き出してみたが、ナーバの森近辺で目撃情報があったようだ。

 しかしいくら歩いてもニーナは現れない。

 よくよく考えれば、採集に来ていたと思われる他の冒険者達の姿も消えている。

 サァァァ

 森は夕闇と混ざって徐々にその光を失っていく。

 底無し沼に引きずられるような感覚を感じて、はっとしてカナデ達が近くにいるのを確認した。

 ところで、冒険者の常識では強いモンスターほど賞金が高いと思われている。

 しかし、実情は強いモンスターほど野放しにされて、それでいて賞金も少なめにされている。

 何故なら、討伐できないので素材の価値がないのである。


 つまるところ、適当に選んだこのニーナというモンスターはとてつもない化け物の可能性が高い。


 理由は分からない……けどそれが事実なのだ。



「いやあああ!! 来ないでえ!!」

「おい! こっちに来るぞ!?」

「無理無理無理無理!!」

「嫌ああぁぁあああ!!!」

 カナデが、必死に逃げ惑っている。
 そう、俺達はとっくにニーナに遭遇してしまっていたのだ。


 いくら俺が最強といっても、
 こんな化け物相手じゃあどうしようもない……はずなんだが?



「何だよ、全然弱いじゃないか?」

 何だこれと思うくらい余裕がある。

 ニーナは確かに巨大だが、動きは鈍重だし攻撃手段は爪による引っ掻きのみ。

 まぁそれでも、その防御力は驚異的ではあるが……。

 さっきから何度も斬撃を放っているのだが、ダメージが通っている様子はない。

「よし、次は魔法を使ってみるか……」

 ニーナは攻撃の手を止めて、こちらの様子を伺っている。

 どうやら警戒しているようだ。

「喰らえ!《風刃》」

 風の刃を放つシンプルな魔法だが、これは結構効くはずだ。

 ゴウッッ!! 轟音とともに巨大な竜巻が発生してニーナを飲み込む。

 これで倒せただろうと思ったが、ニーナは無傷のままそこに佇んでいた。
   
 
            「マジかよ……」

 ニーナは怒り狂ったように、猛然と突進してくる。
               「ぐぅっ!?」

 咄嵯にガードしたが、あまりの衝撃に吹き飛ばされてしまう。 

 何とか受け身をとったものの、腕が折れてしまったかもしれない。

         「マイナ! 無事か!?」
「大丈夫だけど、カナデが……」

 マイナの視線の先には、木にもたれかかって座り込んでいるカナデがいた。

 恐らく足を挫いているのだろう。

「すぐに助けに行く! 待ってろ!」
「でも、あいつが……」

 マイナの心配そうな声を聞いている暇はなかった。

 既に奴の攻撃範囲に入っている。

                 「はぁっ!」

                             一閃。
           まずは右前足を狙う。

 やはり硬い。剣の方が折れてしまいそうだ。

 初級スキルではさすがに勝てないか。
 少しなめすぎたな、次は中級魔法で試すかね。
                   「《火球》」

 ボゥン!! ボォウウン!! 連続で撃ち込んでみたが。かなり弱っているようだ。

 さて、そろそろ決めないとな。

                   「《爆裂》」

 ドガアアン!! 凄まじい爆風と熱波が襲いかかる。

 そして、目の前には真っ黒焦げになった肉塊だけが残っていた。

「ふぅ~終わった~」
 

 とりあえずカナデを助けよう。

 ニーナの死体は放置しておけば、他のモンスターが食ってくれる。

 一瞬光った気がして、ギルドカードを確認する。

「ん? ランクアップ?」

 どうやら討伐したモンスターによって、自動的に昇格される仕組みらしい。 

 それにしてもこんなに簡単に上がっていいものなのかね? 

「カナデ!!」

 駆け寄ってきたカナデは、涙を浮かべていた。

「もう……だめかと……思ってた」

「ああ、悪かったな。俺もまさかあんなに強いとは思わなかったんだ」 

「ほんとだよぉ……」

 カナデは泣きながら抱きついてきた。 
 カナデの体温を感じる。温かい。
「カナデ、もう泣くなって」

「うん……ありがとう……」

 カナデは俺の胸の中で泣いていた。
 しばらくすると落ち着いてきたようで、カナデは恥ずかしそうに離れていった。

「それじゃ、帰ろうか」

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