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勇者追放編

強すぎて困ったのです

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 レナは、結局、その理髪店だった店を借りる事となった。





「収入が無ければ、支払いは無くていいよ。んーまぁ手始めに、髪を切り揃えるだけでいいんじゃないか?」

 そうアイビーに言われ、出来るかが不安だと言うと、

「じゃあ私が第一号の客になるからやってみてくれ。」

 と言い、アイビーは縛っていた髪をほどいてさっさとイスに腰掛けた。

「あ、ずるいよアイビー!私が第一号になりたかったのに!」

 そうエイダが反論したが、アイビーは、

「だってエイダさんよ、もしこれで本当に酷い出来だったらどうするんだい?エイダさんは接客として仕事をするんだから酷い髪型になったら客が来なくなっても困るだろう?俺は別にいいんだよ、事業者達と会う位だからね。」

 と尤もらしく答えた。

「そうかい?まぁそうだけども…」

 エイダはブツブツと不服そうに言葉を呟いている。
 対して、レナは、どうしようかと考える。確かに、やってみてどうにも勝手が違うかもしれないから一度試してみるのもいいのかもしれないと思った。

「ほら、やってくれ!ここに座ればいいかい?失敗しても俺は気にしないからいいよ、すぐに生えてくるからさ。さっぱりとしたいから、適当に短くしてくれ。」

 アイビーは、確かに男性にしては長い髪型だった。無造作に肩下まで伸びた髪が、長さもバラバラで鬱蒼としている。見た目モサッとしていてとても暑そうに見えた。理髪師のゾーイが辞めてから本当に切っていないのだと窺えた。
 アイビーは早く早く!という感じで、待っている。

(もしかしたら自分が切ってもらいたいから、私にここを貸してくれた!?なんてね。失敗してもいいと言ってくれるならやっちゃうとするか!)

「レナ、やっておやりよ。それで、やってみて出来なかったら当分は私の事を手伝ってくれればいいから。アイビーもいいって言ってんだし、練習台としてやっちゃいなよ。」

 エイダにもそう背中を押され、レナは初めて人間の髪をカットしてみる事にした。


 ハサミを引き出しから取り出し、このまま切ろうとハサミを二回ほど空を切ってからアイビーの頭へとハサミを持っていくと、エイダとアイビーから声を掛けられた。

「これで切るのかい?」
「ちょっと、なんかエプロンないか?」

 レナは、言われて、ハッとして気づく。そういえば、美容院ではケープみたいなのを付け、服に切った髪が付かないようにしていたと。

(カットしていた動物相手にはそんな事していなかったから忘れていたわ!)

「そうですね、ごめんなさい!」

 レナは、室内をぐるりと見渡し、イスの後ろの収納部に畳まれたケープが仕舞ってあるのを気づいた。

 そのケープをアイビーにかける。
 頭からすっぽりと被る形のもので、真ん中の首元が大きく開けられていた。それを付けてそのまま髪を切ると、そこから首元や服に切った髪が入っていってしまう。だから、またもレナは、室内を見渡し、引き出しを何度も開けて、洗濯ばさみを見つけると首元に合わせてはめ、そこから首元へと入っていかないようにした。

「よし!では切りますね!」

「おうよ!」

 レナがそう言って気合いを入れると、アイビーも、力を込めて返事をした。気持ち、お互いに緊張しているようだ。

 レナは、ハサミを右手に持ち左手でアイビーの髪を少し持った。そして、少しだけザクっと切ると、

(あぁ、この感じ!)

 と、レナは、懐かしく感じて笑顔になった。

「おお!いいねぇ!」

 エイダは手を叩いて喜んだ。が、まだザクリと一度切っただけだった。
 レナは苦笑したが、またアイビーの髪を一房持ちハサミを入れる。

(うん、動物相手とは違うけど、なんとなくならいける感じかも?)

 動物相手では、個体に合わせてカットする。あまり真っ直ぐにザクザクと切る事は無く、体型に合わせてカットしていくのだが、人間はそんな事を無くて良いのがレナにとったら難しく思った。



 ややもして、肩下まで無造作に伸びていた髪を首元まで切り、サイドは耳が見える位まで切ったアイビーは、ずいぶんとスッキリとして見えた。

「いいじゃないか!」

 エイダが、またも手を叩いて喜んだ。アイビーも、地面に切られた髪を見てから正面の鏡を見てとても喜んだ。

「凄い!レナさん、ありがとうございます!とてもスッキリしたよ。今までかたなり鬱陶しかったんだ!」

 そう言ったアイビーは、左右に顔を動かして何度も見ていた。

「アイビーさんが適当にって言って下さったからです。でも、やっぱり左右対称は難しくて、少しズレているような…。」

「あぁ、いいよそんなの!さっぱりとしてくれたんだからありがたいね!貴族みたいな公の場に出る事もないからね。どうだい?この位なら、充分金を取ってやっていけるよ。平民の我らには、左右非対称でも全く問題ないからね。」

「そうだね、アイビーもずいぶんとさっぱりとしたじゃないか!でも次は私ね!アイビー、どいてちょうだい!私も、さっぱりしたいんだよ!」

 そうエイダは言うと、次は自分だとアイビーからケープを奪い取りイスに腰掛けた。



 レナは、緊張したし毎回ちゃんと人の髪を切れるかは不安だけれど思ったよりも切る事が出来た。
それにどうやら、レナの腕でも多少なりとも需要があるらしいと知り、とりあえずやれるだけやってみようと思った。

(私のしょぼい腕でもこんなに喜んでくれるなんて。なんだか申し訳ないけれどかなり嬉しいかも。ここにあるものは全部使っていいって言ってくれたし。いつか野良の動物達も綺麗にしてあげたいなぁ。)

 と、顔を綻ばせながらレナは思った。
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