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4.偶然
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決して背が低いわけでもないソウが、瞳を持ち上げなければならないほど背が高い男が、そこに立っていた。
日陰でありながら鮮やかに陽を溶かし込んだ金色の髪は少し長めで、目許を隠しがち。肩幅も充分あり、すらりとした伸びた腕に、薄着の日中なので全身の均等のとれた体つきもよくわかる。右手に金色の細工をあしらった杖を持ったその男は、ソウを見ているようで見ていない。虚ろな緑の目をぎこちなく動かした。
「怪我は、なかっただろうか」
しっとりとした低めの声で、目の前に立つソウの様子を、感覚でうかがった。それにソウは違和感を感じずにはいられなかったが、聞かれたことに我にかえり、少し慌てた様子で佇まいを直した。
「はい。どこもぶつけてもいませんし平気です。こちらこそ驚いたりして失礼いたしました」
相手に失礼になってはいけない、また奴隷の頃からの癖で、必要以上に深く頭を下げてソウは侘びる。目の前にいる男は、その様子を、まるで空気の流れで感じているように少し沈黙し、やがてきちんとソウに向かって身体を正面におき丁寧に頭を下げた。
ちょうどふわりとした暑い風が路地を通り抜け、男の髪から柔らかく優しい香りがした。
「こちらこそ本当に申し訳なかった。このとおり俺は目が見えないもので、辺りに気を配ることが下手だ。できるだけ気を付けていたのだが、本当に怪我はしていないのだろうか」
そう言った男の言葉に、ソウは改めて目の前の顔を見つめた。虚ろな瞳は美しい深緑の色をしているが、そこに光は宿っていない。視点もあまり定まらず、片方の水晶体が濁っているのも見てとれた。そこまで認識してやっと、男が持っている杖の意味を理解した。
ソウはありがたいことに身体だけは五体満足でいる。怪我は望まぬ環境のおかげでたくさんしてきたが、亜人という特性上治癒も早く、また人間よりも病気になりにくいのか、今まで罹患したこともない。
目が見えないことを想像すらしたこともないソウは、初めて見る盲目の人間相手にしばらく言葉を失った。濁った水晶体を持っているが、虹彩となる緑は、まるで芽吹く若葉がそこにあるように美しい。光を宿していれば、きっと一層美しいのだろう。そして立っているだけなのに、全身から滲み出る育ちのよさと言うか、余裕のようなものも感じられた。
そんな、何も言葉を継げずにいるソウを、男は研ぎ澄ました感覚で見透かしたかのように首をかしげた。
「どうして黙っている……? 本当は怪我をしたのか?」
心配そうに言われた言葉に、ソウは慌てて首を振った。
「本当に大丈夫ですから。それよりも、そちらこそ大丈夫ですか?この辺りは路地が入り組んでいます」
人が二人並んで歩くことがやっとの広さの路地は、町ができ始めた頃とあまり変わりがない。無秩序に並んだ家々のおかげで、知らない者ならば間違いなく迷ってしまうほどに、大きな通り以外は入り組んでいるのがこの街の特徴らしいと、ソウも外に出るようになって知ることになったのを思い出した。
レンガ造りの家に、粗末な木造の家、建て替えられた新しい家、表通りとは違う、もっと雑多な雰囲気のある路地には、とても似合わない雰囲気を纏った目の前の背の高い男はソウの言葉に少しだけ困ったように眉を寄せた。感情の浮かばない瞳のせいか、ほんの少し表情を変化させるだけでも男の印象が変わったような気がした。やけに柔らかくあどけなさすらあるような無垢な感覚を受ける。
「やはりそうなのか……」
「……やはり?」
何を言っているのか分からないソウが男の言葉を繰り返すと、恥ずかしそうに口許を緩ませた男が、風の流れを知るように顔を少しだけ上向かせた。
「恥ずかしい話だが、どうも道に迷ってしまったらしい」
「……え?」
「最近、一月ほど前にこの近所に越してきたのだが、少しだけ散歩をと思っていたら、どうにも家の場所が分からなくなってしまったようだ」
至極簡単に、少々の恥ずかしさを声音に滲ませて男は言った。
目が見えないのに誰も付き添わせずに散歩だなんて。ソウは初対面ながらあまりにもうかつではないかと半ば呆れてしまうのを止められなかった。しかも越してきたということは、土地勘も何もあったものではないだろうに。長い睫毛を瞬かせてその男の顔を見つめていたソウだったが、この男よりもきっとこちらの方がこの辺りには詳しいだろうし、何よりもここで「そうですか。では」と言えるほど冷たくもなかった。人間がまだ怖い、特に初対面の人間に限っては恐怖心の方が強いくらいだが、出会ったのも何かの縁だと自分に言い聞かせて提案した。
「あの、もしよろしければですけど……家が分かればお送りしましょうか?」
ソウの提案に、男は一瞬キョトンとしたがすぐに意味を理解すると表情を和らげた。体格もよく背も高い男だが、頬が綻ぶと威圧感のない笑顔になるようだ。とても柔らかく、造作のよさもあって、思わずソウは見とれてしまっていた。
「それは助かる。このままではとてもじゃないが家にたどり着きそうにないような気がしていた。申し訳ないが助けてくれないか」
ソウの気配を頼りに男は一歩二歩と近づいてきた。だが、まだ人間に慣れきっていないソウは無意識のうちにその距離を保つように後ずさった。しかし失礼に当たるかも知れないと思い直し、なんとかその場に踏みとどまった。少し足が震えたような気がした。
「あ、あの……家は、どのあたりでしょうか……」
じっと身動きせずにソウは見えない瞳を見つめた。そんなソウの強張りが空気に伝染したのだろうか、男はぴたりと動きを止めて、少し窺うようにソウへと問いかけた。
「もしかして、女性なのか?」
「……はい?」
なにをいきなりと、ソウが言葉を失った。確かに身体も細いし顔つきだって男らしくないソウだが、突然そんなことを言われることもないのでぽかんとしてしまう。端整な顔をしているが、女に間違われるほどの造作はしていないつもりだった。いやそもそも見えはしないのに何を言っているんだと、亜麻色の瞳が怪訝そうに男を見返した。
「いや、今俺が近づいたら離れたのだろう? それで女性なのかと思った。もし違ったのであれば申し訳ない」
男はソウを心配して頭を下げた。
「いえ……。お気遣いありがとうございます。あいにく私は男ですが、かまいませんでしょうか」
「男だったのか、それは本当に申し訳なかった。声も柔らかいので間違えてしまったようだ」
「そうでしたか。確かにそれほど私は低い声ではありませんので、紛らわしかったのかもしれませんね」
ソウは自分の声があまり好きではなかったが、不思議とこの男が言うことは嫌ではなかった。真摯に謝罪しようという気持ちが言葉にきちんと含まれているからだろう。嫌味のない話し方と、本人の持つ雰囲気が和やかなこともあってか、知らずにソウの表情もいくらか柔らかくなっていた。
とりあえず、方向を尋ねたり、家の特徴を聞き出して、ソウは自分の知っている限りの近辺の情報と頭の中で照らし合わせて歩き出した。狭い路地で、しかも所々、店の裏口などにはごみ置き場や箱などもあるために道幅は極端に狭くなっているところもある。ソウが前に立ち、男に右に何があるや左にはこれがあるなどど教えてやりながらゆっくりと歩いた。ソウがあまり話すことが得意ではないためと、男も真剣に建物を触ってみたり何かと知ろうとしているのか手と足の感覚を研ぎ澄ましているために、途切れ途切れに会話があるだけで、ほかは静かなものだった。
そうしているうちに、ふと。男が思い出したかのようにソウに話しかけた。
「占い師がいると聞いた」
「占い師ですか?」
数歩先を歩いていたソウが思わず振り返って足を止めた。それに慌てて男も立ち止まり、ソウの声を頼りに空ろな視線をひたりと止めた。やはりソウの視線と結ばれることはない。
「街では有名な占い師が、家の前にいると聞いた。それで私の家の場所が分からないだろうか?」
「それって……センのことですか?」
「セン? 名は分からないが女性の占い師らしい。古書屋を営みながら占いもしていると」
男の言葉にソウは目を丸くするしかなかった。女性で古書屋を営んでいる占い師なんて、このあたりではセンしかいない。元々占い師が少ないのだから、それだけでセンであることもほぼ間違いはなかった。
なんて近くに住んでいたんだろうと驚くと共に、一月の間、この男の噂を聞いたこともなかったことに驚いた。目立つほどに背が高いのだから、店に来る常連客が噂の一つもしていなかったことが不思議だった。
黙りこんでいると、男が声をかけてくる。
「どうだろう。これでは私の家は分からないだろうか?」
「あ、いえ……充分です。私も近所に住んでいますので、分かりました」
近所も何もその店の敷地内に住んでいるのだが、ソウはあえてそう言った。自分のことを話すのは得意ではないからだ。だがそれだけで、男の顔がぱっと明るくなった。
「おお、そうか。俺は本当に運がよかったのだな。助かった」
端整な顔を子供のように笑みで満たして言った男に、ソウはまた少し見とれてしまった。なんて綺麗な笑顔なんだろう、純粋な、何の穢れもないような。ソウの瞳に映りこんだその笑顔が胸の中に一滴の雫をぱたりと落とした。それはちくりと痛みを持っていたような気がしたが、感覚を認める前にすうと解けていった。
「では、ここからですとすぐそこになりますので、いきましょうか」
ソウは小さく胸を乱しそうになったその感覚を払うように言って、男に向かって背を向けた。
「あ、待ってくれ」
男がソウを呼び止める。なんだろうと振り返ったソウに、男がまた笑って言った。本当に邪気のない笑顔だと、ソウはまた思った。
「俺の名はアマネという。よければ名を教えてくれないか」
見ているだけで心が晴れやかになるほどの笑顔に、ソウが少しだけ微笑んだ。初対面の人間なのに、それはあっさり過ぎるくらいに頬が綻んだのをソウは自分で驚いた。
「私は、ソウと申します」
何のためらいもなく、自分の名前が唇から零れ落ちていた。
日陰でありながら鮮やかに陽を溶かし込んだ金色の髪は少し長めで、目許を隠しがち。肩幅も充分あり、すらりとした伸びた腕に、薄着の日中なので全身の均等のとれた体つきもよくわかる。右手に金色の細工をあしらった杖を持ったその男は、ソウを見ているようで見ていない。虚ろな緑の目をぎこちなく動かした。
「怪我は、なかっただろうか」
しっとりとした低めの声で、目の前に立つソウの様子を、感覚でうかがった。それにソウは違和感を感じずにはいられなかったが、聞かれたことに我にかえり、少し慌てた様子で佇まいを直した。
「はい。どこもぶつけてもいませんし平気です。こちらこそ驚いたりして失礼いたしました」
相手に失礼になってはいけない、また奴隷の頃からの癖で、必要以上に深く頭を下げてソウは侘びる。目の前にいる男は、その様子を、まるで空気の流れで感じているように少し沈黙し、やがてきちんとソウに向かって身体を正面におき丁寧に頭を下げた。
ちょうどふわりとした暑い風が路地を通り抜け、男の髪から柔らかく優しい香りがした。
「こちらこそ本当に申し訳なかった。このとおり俺は目が見えないもので、辺りに気を配ることが下手だ。できるだけ気を付けていたのだが、本当に怪我はしていないのだろうか」
そう言った男の言葉に、ソウは改めて目の前の顔を見つめた。虚ろな瞳は美しい深緑の色をしているが、そこに光は宿っていない。視点もあまり定まらず、片方の水晶体が濁っているのも見てとれた。そこまで認識してやっと、男が持っている杖の意味を理解した。
ソウはありがたいことに身体だけは五体満足でいる。怪我は望まぬ環境のおかげでたくさんしてきたが、亜人という特性上治癒も早く、また人間よりも病気になりにくいのか、今まで罹患したこともない。
目が見えないことを想像すらしたこともないソウは、初めて見る盲目の人間相手にしばらく言葉を失った。濁った水晶体を持っているが、虹彩となる緑は、まるで芽吹く若葉がそこにあるように美しい。光を宿していれば、きっと一層美しいのだろう。そして立っているだけなのに、全身から滲み出る育ちのよさと言うか、余裕のようなものも感じられた。
そんな、何も言葉を継げずにいるソウを、男は研ぎ澄ました感覚で見透かしたかのように首をかしげた。
「どうして黙っている……? 本当は怪我をしたのか?」
心配そうに言われた言葉に、ソウは慌てて首を振った。
「本当に大丈夫ですから。それよりも、そちらこそ大丈夫ですか?この辺りは路地が入り組んでいます」
人が二人並んで歩くことがやっとの広さの路地は、町ができ始めた頃とあまり変わりがない。無秩序に並んだ家々のおかげで、知らない者ならば間違いなく迷ってしまうほどに、大きな通り以外は入り組んでいるのがこの街の特徴らしいと、ソウも外に出るようになって知ることになったのを思い出した。
レンガ造りの家に、粗末な木造の家、建て替えられた新しい家、表通りとは違う、もっと雑多な雰囲気のある路地には、とても似合わない雰囲気を纏った目の前の背の高い男はソウの言葉に少しだけ困ったように眉を寄せた。感情の浮かばない瞳のせいか、ほんの少し表情を変化させるだけでも男の印象が変わったような気がした。やけに柔らかくあどけなさすらあるような無垢な感覚を受ける。
「やはりそうなのか……」
「……やはり?」
何を言っているのか分からないソウが男の言葉を繰り返すと、恥ずかしそうに口許を緩ませた男が、風の流れを知るように顔を少しだけ上向かせた。
「恥ずかしい話だが、どうも道に迷ってしまったらしい」
「……え?」
「最近、一月ほど前にこの近所に越してきたのだが、少しだけ散歩をと思っていたら、どうにも家の場所が分からなくなってしまったようだ」
至極簡単に、少々の恥ずかしさを声音に滲ませて男は言った。
目が見えないのに誰も付き添わせずに散歩だなんて。ソウは初対面ながらあまりにもうかつではないかと半ば呆れてしまうのを止められなかった。しかも越してきたということは、土地勘も何もあったものではないだろうに。長い睫毛を瞬かせてその男の顔を見つめていたソウだったが、この男よりもきっとこちらの方がこの辺りには詳しいだろうし、何よりもここで「そうですか。では」と言えるほど冷たくもなかった。人間がまだ怖い、特に初対面の人間に限っては恐怖心の方が強いくらいだが、出会ったのも何かの縁だと自分に言い聞かせて提案した。
「あの、もしよろしければですけど……家が分かればお送りしましょうか?」
ソウの提案に、男は一瞬キョトンとしたがすぐに意味を理解すると表情を和らげた。体格もよく背も高い男だが、頬が綻ぶと威圧感のない笑顔になるようだ。とても柔らかく、造作のよさもあって、思わずソウは見とれてしまっていた。
「それは助かる。このままではとてもじゃないが家にたどり着きそうにないような気がしていた。申し訳ないが助けてくれないか」
ソウの気配を頼りに男は一歩二歩と近づいてきた。だが、まだ人間に慣れきっていないソウは無意識のうちにその距離を保つように後ずさった。しかし失礼に当たるかも知れないと思い直し、なんとかその場に踏みとどまった。少し足が震えたような気がした。
「あ、あの……家は、どのあたりでしょうか……」
じっと身動きせずにソウは見えない瞳を見つめた。そんなソウの強張りが空気に伝染したのだろうか、男はぴたりと動きを止めて、少し窺うようにソウへと問いかけた。
「もしかして、女性なのか?」
「……はい?」
なにをいきなりと、ソウが言葉を失った。確かに身体も細いし顔つきだって男らしくないソウだが、突然そんなことを言われることもないのでぽかんとしてしまう。端整な顔をしているが、女に間違われるほどの造作はしていないつもりだった。いやそもそも見えはしないのに何を言っているんだと、亜麻色の瞳が怪訝そうに男を見返した。
「いや、今俺が近づいたら離れたのだろう? それで女性なのかと思った。もし違ったのであれば申し訳ない」
男はソウを心配して頭を下げた。
「いえ……。お気遣いありがとうございます。あいにく私は男ですが、かまいませんでしょうか」
「男だったのか、それは本当に申し訳なかった。声も柔らかいので間違えてしまったようだ」
「そうでしたか。確かにそれほど私は低い声ではありませんので、紛らわしかったのかもしれませんね」
ソウは自分の声があまり好きではなかったが、不思議とこの男が言うことは嫌ではなかった。真摯に謝罪しようという気持ちが言葉にきちんと含まれているからだろう。嫌味のない話し方と、本人の持つ雰囲気が和やかなこともあってか、知らずにソウの表情もいくらか柔らかくなっていた。
とりあえず、方向を尋ねたり、家の特徴を聞き出して、ソウは自分の知っている限りの近辺の情報と頭の中で照らし合わせて歩き出した。狭い路地で、しかも所々、店の裏口などにはごみ置き場や箱などもあるために道幅は極端に狭くなっているところもある。ソウが前に立ち、男に右に何があるや左にはこれがあるなどど教えてやりながらゆっくりと歩いた。ソウがあまり話すことが得意ではないためと、男も真剣に建物を触ってみたり何かと知ろうとしているのか手と足の感覚を研ぎ澄ましているために、途切れ途切れに会話があるだけで、ほかは静かなものだった。
そうしているうちに、ふと。男が思い出したかのようにソウに話しかけた。
「占い師がいると聞いた」
「占い師ですか?」
数歩先を歩いていたソウが思わず振り返って足を止めた。それに慌てて男も立ち止まり、ソウの声を頼りに空ろな視線をひたりと止めた。やはりソウの視線と結ばれることはない。
「街では有名な占い師が、家の前にいると聞いた。それで私の家の場所が分からないだろうか?」
「それって……センのことですか?」
「セン? 名は分からないが女性の占い師らしい。古書屋を営みながら占いもしていると」
男の言葉にソウは目を丸くするしかなかった。女性で古書屋を営んでいる占い師なんて、このあたりではセンしかいない。元々占い師が少ないのだから、それだけでセンであることもほぼ間違いはなかった。
なんて近くに住んでいたんだろうと驚くと共に、一月の間、この男の噂を聞いたこともなかったことに驚いた。目立つほどに背が高いのだから、店に来る常連客が噂の一つもしていなかったことが不思議だった。
黙りこんでいると、男が声をかけてくる。
「どうだろう。これでは私の家は分からないだろうか?」
「あ、いえ……充分です。私も近所に住んでいますので、分かりました」
近所も何もその店の敷地内に住んでいるのだが、ソウはあえてそう言った。自分のことを話すのは得意ではないからだ。だがそれだけで、男の顔がぱっと明るくなった。
「おお、そうか。俺は本当に運がよかったのだな。助かった」
端整な顔を子供のように笑みで満たして言った男に、ソウはまた少し見とれてしまった。なんて綺麗な笑顔なんだろう、純粋な、何の穢れもないような。ソウの瞳に映りこんだその笑顔が胸の中に一滴の雫をぱたりと落とした。それはちくりと痛みを持っていたような気がしたが、感覚を認める前にすうと解けていった。
「では、ここからですとすぐそこになりますので、いきましょうか」
ソウは小さく胸を乱しそうになったその感覚を払うように言って、男に向かって背を向けた。
「あ、待ってくれ」
男がソウを呼び止める。なんだろうと振り返ったソウに、男がまた笑って言った。本当に邪気のない笑顔だと、ソウはまた思った。
「俺の名はアマネという。よければ名を教えてくれないか」
見ているだけで心が晴れやかになるほどの笑顔に、ソウが少しだけ微笑んだ。初対面の人間なのに、それはあっさり過ぎるくらいに頬が綻んだのをソウは自分で驚いた。
「私は、ソウと申します」
何のためらいもなく、自分の名前が唇から零れ落ちていた。
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