聖夜戦記サンタロボ

平良野アロウ

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第17話

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 真琴機と葉山機は空中で揉み合いとなっていた。当然空中機動力はブラックサンタの方が遥かに上。しかし真琴は、決してそれに引けを取らぬ動きで付いてゆく。
「何だよこいつ! どうしてサンタロボ如きで覇天に……」
 真琴機は葉山機の右腕を取り、関節を極めてもぎ取る。バトルロボ同士が徒手空拳での戦闘となった場合のことは軍学校でしっかりと習っていたが、それを初の実戦で、それも空中で冷静に使ってみせたのである。
 片腕を無くしてバランスが悪くなった葉山機は、飛行の挙動がおかしくなる。真琴はそれを見逃さず、葉山機の上に乗っかる形で力を加えて共に落下した。落下地点はしっかりと計算し、他の機体やサンタ狩りのいない場所に落とす。葉山機は表面装甲が多少割れるものの、流石にベースがベースだけあって頑丈。さしてダメージは無いように見えた。
 一番危険なビームガンを封じることができたのはよかったが、俄然こちらにとって不利なことに変わりはない。中でも辛いのは美咲と和樹である。この二人は十分高い実力のあるパイロットだが、修二や真琴のような飛び抜けた天才ではない。ブラックサンタとのマシンスペックの差を最も大きく感じる立場である。
 僅かでも油断を見せれば、真っ二つにされ一貫の終わり。修二や真琴のようにビームソードを奪うこともできておらず、緊張は解けない。二人がかりでなんとかやり合えているという状況である。
 対して、右腕と武器を失った葉山機は真琴機に劣勢であった。徒手空拳での戦闘を強いられたこの状況、本来であればマシンスペックで勝るブラックサンタの方が有利。しかし真琴機は柔よく剛を制す格闘術で、相手のパワーを逆に利用して追い詰めて行く。
 このままでは不味いと思った葉山は、一旦距離を取る。そこであることに気付いた。車道に落ちているビームガンの残骸。その中に一つ、原形を留めているものがあったのだ。もしかしたらまだ撃てるかもしれない。
 葉山機は早速車道に飛び出してそれを手に取り、真琴機に銃口を向ける。
「こいつで終わりだ!」
 だがその時だった。轟音を立てて、大型トラックがこちらに近づいてきていたのである。トラックの運転手には、ブラックサンタの姿は見えない。サンタロボは全て歩道にいるため、運転手は安全だと思ってスピードを落とさず突っ込んできたのである。葉山機は射撃姿勢のまま動かない。
「危ない!」
 真琴は思わず車道に飛び出した。スラスターを全力で吹かせ、葉山機に飛びついて向こう側の歩道へと共に吹っ飛ぶ。
 真琴機の真後ろを、トラックは通り過ぎた。急ブレーキがかかり、少し離れた位置で停止する。
「こら! そこのメカジジイ! 危ねえだろ!!」
 運転手は窓から顔を出して怒鳴りつけた。真琴は慌てて機体を起き上がらせ、何度も頭を下げさせる。
「無事か!? 天宮!」
「はい、今回は二人とも助かりました!」
 元気の良い返事。だがその直後、コックピット部に銃口が突きつけられた。
 修二は咄嗟の判断でビームソードを投げ、葉山機の左手首を切り落とす。
 まさかの事態に、美咲は思わず葉山に通信を入れた。
「葉山! 真琴ちゃんはあんたを助けたのよ!」
「だ、だって隊長がやれって……」
 美咲の問い詰めに答えた葉山の声に、動揺が見える。
 解放された真琴機はビームソードを拾い、それでビームガンを突き刺して破壊した。
「隊長、お返しします!」
 ビームを仕舞った後、真琴機は柄を修二機に投げる。久瀬はそれの奪取を試みるが、修二機が一手早く掴んだ。
 一度ビームソードを失ったことで躱すのに徹していた修二だったが、再び手にしたビームソードで打ち合いに戻る。
「フン……最早サンタ狩りと変わらんな」
「俺がサンタ狩りと一緒だと!?」
 久瀬の冷徹な命令にある種の納得を覚えた修二は、それを煽る。久瀬は激昂した声で凄みを出し、怒りの連打を畳み掛ける。修二はその軌道を見極め、振りの速度そのものが相手より遅くとも一つ一つ的確に防いでゆく。
 しかしこうして戦いが長引くと、とうとう恐れていた時が来てしまう。北から四人、南から二人。遂にサンタ狩りの軍勢が到着。
「サンタだ! 殺せ!」
 野太い怒号が響く。鉄パイプや金属バット、改造エアガンを手に、サンタ狩り達は殺気立っていた。
「こいつらの前でこれは使えないな……」
 修二はビームソードの刃を仕舞い、またブラックサンタに奪い返されるくらいならと拳で柄を握り潰した。再びハンマーを抜き、ハンマーヘッドを展開する。

「こいつはいいぜ。今回狩られるのはお前達の方だ!」
 背後に現れたサンタ狩りを狩るため、福田機は振り返る。
「させるか!」
 和樹機はその後ろに回り込む。
「無駄だ! そんな機体で何ができる!」
 ビームソードの一撃を受け、和樹機の右手が吹っ飛んだ。
「ぐっ……!」
「坂本!」
 美咲機が援護に入るも、背後からはサンタ狩りが迫っていた。

「天宮! 久瀬はお前に任せる!」
「了解!」
 一方修二は、久瀬の相手を真琴にバトンタッチ。久瀬機の振り下ろしたビームソードを一旦躱すと、久瀬機の横を抜けてサンタ狩り四人のいる方へと走った。
 まず最初に狙いを定めたのは、金属バットを手にしたロングコートの男。振り下ろされたバットを横に跳んで避けて、そのまま横に振ったハンマーで一発。
 二人目は軍人のコスプレをして銃を手にした男。至近距離から放たれる弾丸をハンマーの回転で防ぎ、迷彩ヘルメットを叩く。コスプレ相手に本物の軍人の実力を見せ付けて勝利。
 三人目は大きくアニメの美少女キャラがプリントされた服を着て鉄パイプを手にした男。先の尖った鉄パイプを槍のようにして修二機の顔面を狙って突き刺そうとしてくるが、その動きは当然読んでおり避けると同時にハンマーで逆に顔面を叩く。
 最後は信じられないほど太った男。あまりに鈍重すぎて何もしない内からハンマーで大きな腹を叩かれて眠りこける。
 一人一秒、合わせて四秒にて殲滅完了。動いていられるよりも眠っていてくれた方が守りやすいのである。

「貴方の相手は私です!」
 葉山機を戦闘不能にした真琴は、修二の指示に従って久瀬と対峙する。
 久瀬機がビームソードなのに対し、真琴機は素手。リーチの不利は、細やかに動いて補う。ビームソードが一発も当たらず、久瀬は苛立ちを覚えた。
 その時、サンタ狩りを片付けた修二が後ろからハンマーの柄で突いた。久瀬機は振り返らずにそれを掴む。
「たとえ二人がかりだろうが、俺のブラックサンタには通用せん!」

 一方、和樹と美咲。敵のサンタ狩りは釘バットが一人とエアガンが一人。前衛の釘バット男が突撃し、後衛のエアガン男が援護する形だ。美咲機は釘バットの一撃を避けるも、一発の銃弾が機体の腹部を撃ち抜く。
 福田はサンタロボよりもサンタ狩りを倒すことを優先し、あちらからは見えないのをいいことに釘バットのサンタ狩りへと近づいた。サンタ狩りの狙いは美咲。福田の狙いはサンタ狩り。ならば。
 サンタ狩りが大きく振りかぶったところで、美咲機は福田機の後ろに隠れるように回り込む。
 福田の意識がサンタ狩りに集中しているのをいいことに、美咲機は福田機のビームソードを持つ手を両腕で抱え込むように掴んで固定。美咲機を狙って振り下ろされた釘バットは、福田機の頭部を粉砕した。
「ぐおおおっ!」
 福田は悲鳴を上げる。揺れと衝撃は勿論のこと、メインカメラを破壊されモニターが砂嵐になったのだ。
 殴ったサンタ狩りの方は、何とも不思議そうな表情をしていた。それもそのはず。何も無い場所を殴って何故か手応えがあったのだ。それでいてそこにいるサンタは無事である。この奇妙な現象に頭の処理が追いつかず、ただぽかんとしている。
 あまりに隙だらけなので、美咲はさっとハンマーで叩いて眠らせた。
 後衛のエアガン男は、美咲が福田機の動きを封じている間に和樹の接近を許していた。乱射する銃弾が和樹機のボディに穴を開けてゆくが、和樹機は怯まず進む。
 いざハンマーを振り下ろしこれで撃破……かと思いきやハンマーはサンタ狩りの左側に外れた。右手を失ったために慣れない左手でハンマーを扱ったせいである。気を取り直して、もう一回ハンマーを振り上げる。
 だがその時、頭部の潰れた福田機がビームソードを突き立ててこちらに突進してきた。カメラは効かなくなったが、銃声を頼りにサンタ狩りの位置を予測したのである。しかも運悪く、和樹機から逃げようとしたサンタ狩りは踏み固められた雪に足を滑らせてすっ転ぶ。尻餅の音に気付いた福田は、そこ目掛けてビームソードを突き刺した。
 確かな手応え。ビームソードは何かに刺さった。
「坂本!」
 美咲が叫ぶ。貫かれたのは和樹のサンタロボ。かろうじてコックピットは外れているが、ビームソードの熱量を受ければ機体そのものが長くは持たない。
「く……本当はサンタ狩りなんか庇いたくはないんだけどさ……」
 三人の仲間の前で、和樹機は爆発炎上。夜の町を赤く照らした。
「坂本ーーーっ!!!」
 修二の絶叫が、コックピットに響く。
「大丈夫っス、脱出成功しました!」
 直後、仲間を安心させるため和樹は通信を入れた。コックピット部が変形した脱出用飛行機が、宙に浮かんでいる。
「よかったです、坂本先輩!」
「でも僕のサンタロボが……くそっ、あいつめ!」
 この状態ではもう戦えず、見ていることしかできない。和樹は悔しさを噛み締めた。
 庇われた当のサンタ狩りは、やはり意味不明な状況に呆然だった。あちらからしてみれば、サンタが勝手に爆発したのである。
「天宮、梶村の援護に回れ!」
「了解!」
 戦場を行ったり来たり、真琴は便利に使われている。
 真琴機が派手に足音を立てて福田機を誘いつつ、美咲は呆然としているサンタ狩りをハンマーで眠らせる。
 続けて、二機が左右から福田機を抱え込み、関節技を同時にかけて両腕をもぎ取った。倒れたところで同じ要領で脚も折る。
「よし、ビームソードをこちらに! サンタ狩りを退けるのも頼む!」
 真琴機は福田機のビームソードを拾い、修二機に投げた。久瀬機は妨害しようとビームソードで突く。だが抜群のコントロールで投げたビームソードの軌道が曲がり、修二の手に収まった。瞬時にビームの刃が展開され、久瀬機のビームソードとぶつかり合う。
 真琴と美咲は、早速戦闘の邪魔にならないようサンタ狩りを退かす作業を開始。和樹は空中から久瀬の動向を見張る。
「お前の部下、サンタ狩りを庇って撃墜されるとは……本末転倒とはまさにこのことだな」
「我々は軍人だ。上からの命令には、どんな理不尽なものでも従わなければならない。お前が今やっていることも、そうだと信じたいのだがな」
「あんなバカの自滅と一緒にするな! 俺は俺の意思でこの任に就いている!」
 力強く振り下ろされたビームソードを、こちらのビームソードの面で受け流す。滑らかに動き、一切の有効打を与えない。
 だが久瀬とて、東東京最強の名は伊達じゃない。ブラックサンタの圧倒的な運動性能に物を言わせて、反撃の隙を一切許さない猛攻をかける。
 俄然、修二が防戦一方であることに変わりは無い。しかしあまりこの戦いを長引かせるわけにはいかない。せっかくサンタ狩りを片付けたのに、また別のサンタ狩りが集まりでもしたら状況はリセット。勿論プレゼント配達の時間は押していくし、時の流れと共に積もる雪が配達難度を上げてゆく。
(仕方が無い……あれを使うか)
 相手の攻撃を受け流しつつ後ろに跳び、両手で持っていたビームソードを左手一本、かつ逆手に持ち替える。かつハンマーを引き抜き、ハンマーヘッドを展開せず柄だけの状態で持つ。
 その構えは、さながら二刀流。かつての軍学校時代、自分の技術を他の訓練生に見せつけるため、言い方を変えればマウント取りのためにやっていたもの。実戦に使うのはこれが初めてである。
「随分と久しぶりだな、お前のそれを見るのも。あの頃は自慢げに見せつけてくることに苛立っていたが……所詮はただの曲芸。今となっては全く脅威に感じない」
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