9 / 44
昭和19年編
すすと砂だらけの味
しおりを挟む
六甲山を超え有馬の田舎へ
国鉄の貨物汽車が走っている。私達はなりふり構わず夜になるのを待ちこっそり乗り込んだ。憔悴しきった私は汽車の揺れと、移動できる安心感からかいつの間にか眠りに落ちていた。
「八千代ちゃん 八千代ちゃん」
正一さんに起こされる。そろそろ降りる場所だと。
速度が落ちてきたら飛び降りよう。私達は手をつなぎ、せーので合わせ飛び降り、勢いよく草むらに転がった。
「いててててて.....」起き上がり歩み寄った私たち。乾燥した草が頭に乗っかり顔はススで真っ黒。安堵の表情を浮かべ見つめあい少しクスっと笑う。
「ここからなら、歩いて帰れるはずだ」
正一さんの声に力が宿ったように聞こえた。
私達はまだ暗い道を手をつないで歩く。
少し寝て気が休まったのか、正一さんの横顔をみる余裕ができた私は時々ちらりと見ていた。
束ねた髪を結んだ紐がずれ落ち、なんともワイルドな容姿。この時代の人にしては長身で小顔.....そういえば、私も川端の家族の誰よりも背が高い。けれど、みんな全くそれを不思議には思わない。
もしかしたら、他の人には私がばあちゃんにみえているんだろうか。四角いエラの貼ったばあちゃんに...正一さんにも?え!私の顔、今、四角いの?急に乙女チックな不安が生じ、気になったので気晴らしになればと、話をふってみた。
「正一さんに、私はどう見えてますか?」
「どうって?」
「その、見た目です。背が高いか、目鼻立ちはどうか」
「とてもべっぴんさんですよ。」
いやいやお世辞の返しではなく...
「そうではなく、具体的にです。」
首を傾げ不思議そうにしながらも素直な彼はまじめな顔でちらっと私を見た後前を向き答えてくれる。
「背は高い。小さい顔で、眉は濃いめ 目は大きめ 鼻は小さくお上品、口は」
ちらっともう一度こちらを見てから
「可愛らしい」
合っている。口が可愛いかは別として.....眉濃いめは笑えるが、少なくともばあちゃんの若い頃とは違う。
「ありがとうございます。」
聞いておいて恥ずかしくなった。
「少し休もう」
正一さんは木の影に座り込んだ。私も横に座る。
「ぼくはどうですか?」
私も照れくさいので前を向いたまま正一さんの顔を思い出しながら言う。
「背が高く、小さい顔、眉は自然に流れていて、目は小さくなく大きくなく強い目、鼻筋も通ってかっこいいです。」
「口は?」
「あっ口は...」
私は正一さんの顔を見ようと横を向くと
正一さんの唇が鼻に触れた。ビックリして下がろうとしたら、顔を斜めにして口づけを。
昭和の男子もやるときゃやるのか?!
ぎゅっと強く抱きしめ
「すすと砂だらけの味だな」と言った。
こんなに汚い姿でキスをした事はない。でも私の人生で一番キレイで美しい口づけだった。
私達はまた少し気力を取り戻し歩いた。
「ほら」私の前へ出ては、かがむ正一さん。しばらく歩く度に私をおぶろうとする。
「大丈夫です。歩きます。」
私はずっと断り続ける。
きっと今にも倒れそうなくらい疲れているはずだから。
国鉄の貨物汽車が走っている。私達はなりふり構わず夜になるのを待ちこっそり乗り込んだ。憔悴しきった私は汽車の揺れと、移動できる安心感からかいつの間にか眠りに落ちていた。
「八千代ちゃん 八千代ちゃん」
正一さんに起こされる。そろそろ降りる場所だと。
速度が落ちてきたら飛び降りよう。私達は手をつなぎ、せーので合わせ飛び降り、勢いよく草むらに転がった。
「いててててて.....」起き上がり歩み寄った私たち。乾燥した草が頭に乗っかり顔はススで真っ黒。安堵の表情を浮かべ見つめあい少しクスっと笑う。
「ここからなら、歩いて帰れるはずだ」
正一さんの声に力が宿ったように聞こえた。
私達はまだ暗い道を手をつないで歩く。
少し寝て気が休まったのか、正一さんの横顔をみる余裕ができた私は時々ちらりと見ていた。
束ねた髪を結んだ紐がずれ落ち、なんともワイルドな容姿。この時代の人にしては長身で小顔.....そういえば、私も川端の家族の誰よりも背が高い。けれど、みんな全くそれを不思議には思わない。
もしかしたら、他の人には私がばあちゃんにみえているんだろうか。四角いエラの貼ったばあちゃんに...正一さんにも?え!私の顔、今、四角いの?急に乙女チックな不安が生じ、気になったので気晴らしになればと、話をふってみた。
「正一さんに、私はどう見えてますか?」
「どうって?」
「その、見た目です。背が高いか、目鼻立ちはどうか」
「とてもべっぴんさんですよ。」
いやいやお世辞の返しではなく...
「そうではなく、具体的にです。」
首を傾げ不思議そうにしながらも素直な彼はまじめな顔でちらっと私を見た後前を向き答えてくれる。
「背は高い。小さい顔で、眉は濃いめ 目は大きめ 鼻は小さくお上品、口は」
ちらっともう一度こちらを見てから
「可愛らしい」
合っている。口が可愛いかは別として.....眉濃いめは笑えるが、少なくともばあちゃんの若い頃とは違う。
「ありがとうございます。」
聞いておいて恥ずかしくなった。
「少し休もう」
正一さんは木の影に座り込んだ。私も横に座る。
「ぼくはどうですか?」
私も照れくさいので前を向いたまま正一さんの顔を思い出しながら言う。
「背が高く、小さい顔、眉は自然に流れていて、目は小さくなく大きくなく強い目、鼻筋も通ってかっこいいです。」
「口は?」
「あっ口は...」
私は正一さんの顔を見ようと横を向くと
正一さんの唇が鼻に触れた。ビックリして下がろうとしたら、顔を斜めにして口づけを。
昭和の男子もやるときゃやるのか?!
ぎゅっと強く抱きしめ
「すすと砂だらけの味だな」と言った。
こんなに汚い姿でキスをした事はない。でも私の人生で一番キレイで美しい口づけだった。
私達はまた少し気力を取り戻し歩いた。
「ほら」私の前へ出ては、かがむ正一さん。しばらく歩く度に私をおぶろうとする。
「大丈夫です。歩きます。」
私はずっと断り続ける。
きっと今にも倒れそうなくらい疲れているはずだから。
0
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
スケートリンクでバイトしてたら大惨事を目撃した件
フルーツパフェ
大衆娯楽
比較的気温の高い今年もようやく冬らしい気候になりました。
寒くなって本格的になるのがスケートリンク場。
プロもアマチュアも関係なしに氷上を滑る女の子達ですが、なぜかスカートを履いた女の子が多い?
そんな格好していたら転んだ時に大変・・・・・・ほら、言わんこっちゃない!
スケートリンクでアルバイトをする男性の些細な日常コメディです。
就職面接の感ドコロ!?
フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。
学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。
その業務ストレスのせいだろうか。
ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
13歳女子は男友達のためヌードモデルになる
矢木羽研
青春
写真が趣味の男の子への「プレゼント」として、自らを被写体にする女の子の決意。「脱ぐ」までの過程の描写に力を入れました。裸体描写を含むのでR15にしましたが、性的な接触はありません。
女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。
矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。
女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。
取って付けたようなバレンタインネタあり。
カクヨムでも同内容で公開しています。
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる