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愛を知らないアレと呼ばれる私ですが……

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「おはようございます、エミリアお嬢様! いやぁ、昨日はお楽しみでしたねぇ?」

 大音量の声に起こされて、眠い目を擦る。
 私よりも遅く寝たはずなのに、アンナは今日も元気一杯だ。私と話すときは不真面目だけど、メイドの仕事は完璧にこなしているからすごい。

「おはようアンナ。お楽しみって、その言い方だと意味が違うからやめて? 私の大好きなクッキーを山ほど持ち込んで、そのお楽しみを始めたのはあなたでしょうに。……はぁ、おかげさまで眠いわ」
「それはそれは、グッドタイミング! ワット様とルフェ様がお呼びです! ささ、準備しましょうねぇ?」

 朝早くから呼び出しなんて、カロリーが高すぎる。
 私は魔法使い。ベッドから立ち上がると、勝手に身支度が完成していくの。
 顔を拭かれて、服を着替えさせてもらって……全部アンナがやってるんだけどね。

「旦那様、お嬢様をお連れしました」

 お父様の書斎の前で、アンナが扉をノックする。

「おぉ、早いな! 入りなさい」

 いつもと違い、柔らかい声。
 こんな風に呼びつけられたときは、怒鳴られるのが普通だから新鮮だ。

 中に入ると、ほっこりとした笑みを浮かべる父と母が待っていた。
 私を目の前にして、こんな顔もできるんだね。

「三日後に、お前の婚約を周知するためのパーティを開くことにした。……で、だ。ザーリ侯爵と相談した結果、向こうの家にも慣れてもらうために、パーティまでの期間はアグナバル家で過ごして欲しい」
「……え、嫌ですけど」
「なにぃ! 何の取り柄もないお前が、口答えなどするな! 黙って従っておけばいいのだ! この婚約は、ミーティア伯爵家にとって有利になる。生まれて初めて役に立てるチャンスなんだぞ? まあ、エミリアが嫌ならば仕方ない。穀潰しを置いておくわけにもいかないのでな。この家から出て行くがいい!」

 思い返して欲しい。私はまだ、自分の口から婚約を受け入れるなんて一言も発していないことを。
 ずーっと私に無関心で、目の前で私が嫌味を言われようとも放置していた両親が、いまさら私の運命を操ろうなんて許せない。
 自分のことは自分で決める。
 ……でも、この家に居たって息が詰まるし、どこに行っても同じは同じなんだけどね。
 追い出されるのは困っちゃうし、アンナが付いてきてくれるなら、別にどこだっていいのか。
 あとで相談してみよう。

「あのぉ……奥様、旦那様、ご提案がありまして。発言よろしいでしょうか?」

 小さく手を挙げて、オドオドとした様子のアンナが口を開く。

「言ってみろ」
「は、はいっ。あたしと一緒なら、エミリアお嬢様も納得するんじゃないかなぁ……と」
「ふむ……しかし、メイドまで世話になるなど、ザーリ侯爵様が納得してくれるだろうか」

 これはありがたい。
 アンナの方から提案してくれるなんて。

「大丈夫ですよあなた。女は準備が大変ですからね。嫁ぐときはなおさら。メイドを連れていくことも少なくはないのですよ」

 お母様がお父様を説得した結果、アンナと一緒にアグナバル伯爵家に向かうことになった。
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