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愛を知らないアレと呼ばれる私ですが……

10(レオン視点)

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 昨日は、エミリア嬢に突然婚約を申し込んでしまったからか、驚かせてしまったのかもしれない。
 答えを聞く前に、ワット伯爵に担がれて帰られてしまった。

 でも、今日は違う。
 お父様が、正式な回答をもらえるよう約束しておいたと教えてくれた。

 僕は、喋るのが苦手だ。
 話したいことはたくさんあるのに、いざとなると言葉が詰まってしまう。
 エミリア嬢に、僕の気持ちをちゃんと伝えられるといいのだけれど。

 ……ふぅ。
 緊張する。
 すでにワット伯爵とエミリア嬢は客室で待っているらしい。

「待たせたな」

 お父様の後ろについて、中に入る。
 さすがエミリア嬢、貴族らしく美しい挨拶だ。

「レオン様にお聞きしたいことがありまして。なぜ、うちのエミリアなのですか?」

 ワット伯爵の問いに、僕はムッとする。
 なぜかって、そんなの決まってる!
 ……けど、本人の目の前で言えるようなことじゃない。
 僕だって、胸を張って伝えたいよ。でも、ここでは恥ずかしくて無理だ。

「い、言わないとダメ……でしょうか?」

 まただ。言葉がつっかえて、上手くでてこない。
 こんな情けない僕を見て、エミリア嬢は失望していないだろうか。
 気になってチラッとお顔を伺うと、興味津々といった瞳で僕を見つめている。
 早く言えと急かされているような気分だ。

 その後は、お父様が助け船を出してくれて、なんとか婚約が成立した。
 飛び上がって喜びたくなったけど、幼い頃から叩き込まれた貴族としての教育が、僕を押さえ込んでくれた。
 エミリア嬢は僕より二つ歳上だから、子供っぽいとか思われたくないからね。

「エ、エミリア嬢……お花は好きですか? あのっ、こ、この花は……えっと、花言葉があって、強さって意味なんですけど」
「なるほど?」

 お父様とワット伯爵が気を遣ってくれて、僕とエミリア嬢は、二人で庭を散歩することになった。
 けれども、また失敗してしまう。
 花言葉は強さ。まるでエミリア嬢のように、周りから何を言われようと、気高く孤高の存在……そんな花の紹介がしたかったのに。
 カッコよく喋りたかった。
 未来の旦那として、妻を褒める甘い言葉をプレゼントしたかったんだ。
 なぜ、大事なときに言葉が詰まってしまうのか。
 僕のバカ!

「ど、どうぞ!」

 恥ずかしさを隠すために、僕はヴィーヴルの花を摘んで手渡した。この行動を起こした自分を褒めてあげたい。
 だって……じっと花を見つめるエミリア嬢が、とても美しかったから。
 その視線もバレて、咄嗟に目を逸らしてしまったけれど。

 もっと話したい。もっと仲良くなりたい。
 でも、どうすればいいだろうか。
 ……そうだ、僕の宝物を見せよう。
 好きなものなら、つっかえずに自信を持って紹介できるはずだ!

「エミリア嬢、次は僕の部屋に……あっ! す、すみません」

 僕はなんてことを!
 結婚前の女性を部屋に誘うなんて最低じゃないか!

 どうしようどうしよう……エミリア嬢に、最低の男だと思われてしまったかもしれない。

「お腹なんて……空いてませんよね?」

 何を言い出したんだ僕は!
 もう、バカバカバカ!

「ペコペコです!」

 ……え?
 今日一番の花が咲いたような笑顔。
 目の前に、天使が現れた。

 そこから先のことは、何も覚えていない。
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