白い結婚のはずなのに、なぜ私を殺そうとしたのですか？ など、恋愛小説短編集

捨てられて視力を失いました。でも安心してください、幸せになりますから！

３

　結婚式の日、私は夢のような気持ちで馬車に乗り込んでいた。父と母と一緒に、レンブリッツ侯爵領へと向かう道中、心は期待でいっぱいだった。

「お母様、ヒイロ様のこと、どんなドレスを着ていると思いますか？」

　私は目を輝かせて尋ねた。

「きっと、素敵な装飾が施されたドレスを身にまとっているでしょうね。ヒイロ様も、あなたのために特別な準備をしているはずよ。」
「私、ヒイロ様にふさわしい花嫁になりたい！」

　その言葉に、父も笑顔で頷く。

「アンネ、お前はもう十分に美しい。花嫁修行だって、先生からお墨付きをいただいているじゃないか。ヒイロ様もきっとお前を見て驚くはずだ」

　父は優しく声をかけてくれた。

「お父様、ありがとう！　それに、皆さんに祝ってもらえるのが楽しみです。どんな祝福の言葉をいただけるのか、今からワクワクしているわ！」

　馬車が揺れる中、私は両親と一緒に未来への希望に胸を膨らませていた。
　父の温かい笑顔と母の優しい声に包まれ、まるで夢の中にいるような気分だった。

「結婚式が終わったら、たくさんの人に囲まれて踊ったり、お祝いを受けるのよ。その後は、ヒイロ様と一緒に新しい生活が始まるのだから、楽しみがいっぱいね」
「そうだね、家族が増えて、私も新しい生活を始めるんだ。ヒイロ様と一緒に、素敵な家庭を築きたいな」
　
　私は心から願った。

「そのためには、まずは今日の結婚式を成功させることだな。お前の幸せが何よりも大事なのだから」

　父の言葉に、私は心が温かくなるのを感じた。
　馬車が進むにつれて、私の心はヒイロ様との未来に思いを馳せ、ますます期待が高まっていった。

　やがて、馬車はレンブリッツ侯爵領に到着した。
　会場が華やかに飾られ、祝福の声が響いているのが聞こえる。
　私は興奮と緊張で胸が高鳴る。

「さあ、アンネ。行こう」

　お父様が馬車の扉を開けてくれた。
　私は一歩踏み出し、心を決める。

　しかし、運命は私を大きな試練へと導いていた。
　会場の中で、ヒイロ様の姿を探し、彼の元へ急いだ。
　すると、彼の周りには、見知らぬ女性が立っていた。
　彼女は美しく、まるで絵画から抜け出してきたかのような存在感を放っていた。
　その瞬間、私の心に冷たい恐怖が走る。

「アンネ、少し話がしたい」

　ヒイロ様の声が耳に入る。彼の表情はいつもの優しさとは違い、真剣そのものだった。
　私は何か悪い予感がしたが、彼に呼び寄せられるまま、彼の前に立った。

「実は、僕はこの結婚に反対なんだ。というより、心が変わってしまった。この２年で、真実の愛を見つけてしまってね……。君の心を惑わせてしまったのは申し訳ない」

　その言葉が、私の世界を一瞬で崩壊させた。
　耳を疑うような衝撃的な言葉。目の前のヒイロ様は、優しい笑顔を浮かべているが、その横には、彼が心を寄せる女性がいた。

「彼女となら幸せになれると思う。……だから、婚約を解消してほしい」

　ヒイロ様の言葉が、私の心に深い傷を刻む。信じられない思いが渦巻き、頭が真っ白になっていく。
　目の前の彼女がどれほど美しいか、私には何も関係なかった。ただ、ヒイロ様の言葉が理解できない。

「お願い、そんな……」

　言葉が続かない。心の中で叫びたいのに、声が出ない。
　ショックで立ち尽くす私。目の前が揺らぎ、意識が遠のいていく。

　気がつくと、私は地面に倒れていた。
　周囲の人々のざわめきが耳に入る。
　何が起こったのか理解できず、ただ恐怖だけが心を支配していた。

　そして、視界が暗くなり、目の前が完全に真っ暗になった。私は失明してしまったのだ。

「アンネ、大丈夫か？」

　誰かの声が聞こえたが、その声さえも遠くに感じる。
　混乱と絶望が心を覆い、私は自分が何者であるのか、どこにいるのかすら分からなくなっていた。
　婚約破棄、失明、そして私の人生は、今、すべてが崩れ去った。

　私はただ、無力感に苛まれ、暗闇の中で消えていく自分を感じていた。