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ここは、ライゼンバルド法王国にあるエオドーアという街。温泉が有名で、療養に訪れる旅行客が多い。
そのエオドーアを統治するのが、ラクシュミ子爵家。その長女が私――アンネ・ラクシュミである。
掘れば湧き出る温泉のおかげで街はいつも賑わっていて、土産物や宿泊費のおかげで他の子爵家と比べると税収が多く、裕福だった。
人が多い割には治安がよく、豊かな自然に囲まれた街のおかげか、私はのほほんと暮らしていた。
私が14歳になったときのことである。
いつもとは様子が違う……真剣な顔をした父――ヘインツ・ラクシュミに呼ばれた。こんなことは初めて。だって、父はいつもにこやかに笑っているから。
「アンネ、お前の婚約者が決まった。実は、レンブリッツ伯爵様が、腰の治療でよくうちの領の温泉を利用していてな。ほら、ご家族とご一緒にうちの屋敷にいらってしゃっていただろう? お前も話したことがあるはずだ。伯爵様の一人息子――ヒイロ様が、えらくアンネのことを気に入ったらしく……まあ、そういうことだ」
ヒイロ・レンブリッツ伯爵令息のことはよく覚えている。
父親譲りの太陽を糸にしたような美しい金髪に、子供らしい生意気さを残しながらも心を射抜かれそうになる青い瞳。整った顔立ちは、見ているだけで顔が赤くなってしまうほど。
そう、私は彼のことがずっと気になっていた。身分差があるからと心の奥底にしまっていたけれど。
「ヒイロ様と私が? ……嬉しいです。実は、私も彼をお慕いしておりました。お父様ありがとうございます! こんな幸せな気持ち、12歳の誕生日にお母様からドレスをいただいたとき以来です!」
私が思いを告げると、お父様はそうかそうかといつもの笑顔で喜んでくれた。
お母様は、すでにこの話を知っていたらしく、花嫁修行を頑張らないといけませんよと言っていた。
そうか、そうだよね。彼に相応しい女性になるためには、今のままではいけない。
ヒイロ様は、街をあるけば女性の瞳を釘付けにしてしまうほどの容姿をお持ちだ。
隣に並び立つためには、自分磨きを頑張らなくては。お母様の言う通り、ヒイロ様が恥ずかしくないように花嫁修行だって必要だよね。
14歳の私は、まだ若かった。
彼との婚約に、本気で浮かれていたのだから。
そのエオドーアを統治するのが、ラクシュミ子爵家。その長女が私――アンネ・ラクシュミである。
掘れば湧き出る温泉のおかげで街はいつも賑わっていて、土産物や宿泊費のおかげで他の子爵家と比べると税収が多く、裕福だった。
人が多い割には治安がよく、豊かな自然に囲まれた街のおかげか、私はのほほんと暮らしていた。
私が14歳になったときのことである。
いつもとは様子が違う……真剣な顔をした父――ヘインツ・ラクシュミに呼ばれた。こんなことは初めて。だって、父はいつもにこやかに笑っているから。
「アンネ、お前の婚約者が決まった。実は、レンブリッツ伯爵様が、腰の治療でよくうちの領の温泉を利用していてな。ほら、ご家族とご一緒にうちの屋敷にいらってしゃっていただろう? お前も話したことがあるはずだ。伯爵様の一人息子――ヒイロ様が、えらくアンネのことを気に入ったらしく……まあ、そういうことだ」
ヒイロ・レンブリッツ伯爵令息のことはよく覚えている。
父親譲りの太陽を糸にしたような美しい金髪に、子供らしい生意気さを残しながらも心を射抜かれそうになる青い瞳。整った顔立ちは、見ているだけで顔が赤くなってしまうほど。
そう、私は彼のことがずっと気になっていた。身分差があるからと心の奥底にしまっていたけれど。
「ヒイロ様と私が? ……嬉しいです。実は、私も彼をお慕いしておりました。お父様ありがとうございます! こんな幸せな気持ち、12歳の誕生日にお母様からドレスをいただいたとき以来です!」
私が思いを告げると、お父様はそうかそうかといつもの笑顔で喜んでくれた。
お母様は、すでにこの話を知っていたらしく、花嫁修行を頑張らないといけませんよと言っていた。
そうか、そうだよね。彼に相応しい女性になるためには、今のままではいけない。
ヒイロ様は、街をあるけば女性の瞳を釘付けにしてしまうほどの容姿をお持ちだ。
隣に並び立つためには、自分磨きを頑張らなくては。お母様の言う通り、ヒイロ様が恥ずかしくないように花嫁修行だって必要だよね。
14歳の私は、まだ若かった。
彼との婚約に、本気で浮かれていたのだから。
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