上 下
52 / 125
第一部

52,生誕祭の準備〔1〕

しおりを挟む
 3年目の4月、ここにやってきて2年経ったことになる。
 
 小学校の運営は順調に行っていて、優秀な子はもう次の段階に進めてもいいのではないか、という声が学校の講師たちから漏れ聞こえてきた。
 講師は午前、午後のいずれか、あるいは両方の時間帯に働いてもらっている。
 もう学習することのない子には、個人指導をしている実態があるという。
 また、成人を迎えた大人の中にも、文字の読み書きや計算について相談されてきて、夜間学校を開いているところもあった。少しは講師数に余裕を持たせているが、整理が必要だった。
 なお、学校数は5校から20校になっている。

 中学校は2カ所作ったが、教育内容は講師たちに任せていた。教科書は1冊では収まらず、数冊用意することになった。中学校にまで進める子はそんなに多くはない。これは家の仕事とも関係があるのだろう。今はまだ強くは望むまい。
 もちろん、中学校にも給食はある。小学校に通っていた子どもの中にはそれを聞いて喜んだ子もいるようだった。

 高校はあと1、2年後くらいに作る予定にしている。この高校に教員養成コースを作って、たとえば小学校で子どもたちに教えるというのも一つの手かもしれない。今の講師ほどの仕事を求めるのは難しいが、支援することは期待できそうだ。
 
 実はすでにボランティアとして各学校の近くに住んでいる人で読み書きをかつて教えたことがあったり、教えたことはないが教えられる人たちが志願してやってきている。
 それぞれの学校の代表者に面接をしてもらって、必ず他の講師とセットで支援をしてもらっている。もちろん、有償である。こういう場で無償のボランティアなど、話にならない。
 学校から遠くに住んでいる子は通えない。学生寮を作るかとも思ったが、それも何か違うなと思い、やめた。へき地への支援はやはり悩ましいことだ。いずれは何名かをその場所に派遣していく、そういう支援の方がいいのかもしれない。


 学校といえば、カトリーナ王女があの学園に通うことになった。
 カトリーナは風の精霊と契約しているので魔法使いコースである。ちなみにアベル王子も風の精霊と契約している。
 このコースは人数が少なく、カーティスが最高学年にいるので、いろいろと手助けをしているという話である。

 じゃじゃ馬カトリーナのことでマリア王妃からも相談が持ちかけられたので、急遽王都に向かうことになった。

「ごめんなさいね、出不精なのにここまで来させてしまって」
「いえ、それは構わないのですが、やはりあの件でしょうか?」
「ええ、そうなの……。迷っていて……」

 忘れもしない2年前の王子の生誕祭だったが、今年はカトリーナ王女の生誕祭がある。
 時期は5月で、あと1か月である。
 その催しの総責任者は生母であるマリア王妃ということになっている。いったいバラード国王は何様のつもりかと思う。

 どうやら内々で相談に行ったマリア王妃に「バカラ・ソーランドがいるのであろう?」と確認したらしいというのだが、要は全てを私に丸投げをしているようなものだ。
 前の教会とのやりとりについては感謝しており、無難な政治をしているらしいが、第一王子派にも第二王子派にも中立であろうとし続ける。単に動かないだけかもしれない。

 邪知じゃち暴虐ぼうぎゃくでないだけまだマシなのかもしれないが、親としての仕事はきちんと果たしてほしい。とても3人の子の親とは思えない。
 どこか主体性のない国王、つまり傀儡くぐつのように誰かの言いなりになっている印象を、特に一年目は感じたが、そうかと思うと教会との一件のように妙に積極的になることもあって、よくわからない王である。

 この第一王子の場合は、他の公爵家、つまりバーミヤン公爵家が主体となって準備をしたようだった。場所もバーミヤン公爵家であるが、実務部隊はあのバハラ商会である。

 つまり、今回は我が公爵家が世話人として尽力することになる。
 ただ、王妃としてはこのまま辞退して開かないという選択もあるのではないかと弱気になっていたのだった。王妃は言わなかったけれど、第一王子派が圧力をかけてきているようだ。全く愚かさの底が見えない。
 この生誕祭の話は前の茶会にも出ていたが、なんとなくそういう気配があった。

「もう準備はしてあります、弱気なことをおっしゃいますな」

 それだけを伝えたが、まだ振り切れていないようなところがある。今さらキャンセルなどできようはずがないと、なんとか説得をして、開くことに決めたようだった。

 このままあの王子たちに我が物顔をされても困る。それにじゃじゃ馬カトリーナの晴れ舞台だ。せっかくなら思い出に残るものにしてやりたい。
 その熱意が伝わったのか、王妃も前向きになっていった。

「そう、そうね。ここで私が諦めたらあの子たちにも不憫な思いをさせるものね。わかりました。それではお願いします」

 王妃なのに私に礼をするというのは気が引けたが、他の人間に気づかれないようにした。
しおりを挟む
感想 178

あなたにおすすめの小説

前世軍医だった傷物令嬢は、幸せな花嫁を夢見る

花雨宮琵
恋愛
侯爵令嬢のローズは、10歳のある日、背中に刀傷を負い生死の境をさまよう。 その時に見た夢で、軍医として生き、結婚式の直前に婚約者を亡くした前世が蘇る。 何とか一命を取り留めたものの、ローズの背中には大きな傷が残った。 “傷物令嬢”として揶揄される中、ローズは早々に貴族女性として生きることを諦め、隣国の帝国医学校へ入学する。 背中の傷を理由に六回も婚約を破棄されるも、18歳で隣国の医師資格を取得。自立しようとした矢先に王命による7回目の婚約が結ばれ、帰国を余儀なくされる。 7人目となる婚約者は、弱冠25歳で東の将軍となった、ヴァンドゥール公爵家次男のフェルディナンだった。 長年行方不明の想い人がいるフェルディナンと、義務ではなく愛ある結婚を夢見るローズ。そんな二人は、期間限定の条件付き婚約関係を結ぶことに同意する。 守られるだけの存在でいたくない! と思うローズは、一人の医師として自立し、同時に、今世こそは愛する人と結ばれて幸せな家庭を築きたいと願うのであったが――。 この小説は、人生の理不尽さ・不条理さに傷つき悩みながらも、幸せを求めて奮闘する女性の物語です。 ※この作品は2年前に掲載していたものを大幅に改稿したものです。 (C)Elegance 2025 All Rights Reserved.無断転載・無断翻訳を固く禁じます。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

婚約破棄ですね。これでざまぁが出来るのね

いくみ
ファンタジー
パトリシアは卒業パーティーで婚約者の王子から婚約破棄を言い渡される。 しかし、これは、本人が待ちに待った結果である。さぁこれからどうやって私の13年を返して貰いましょうか。 覚悟して下さいませ王子様! 転生者嘗めないで下さいね。 追記 すみません短編予定でしたが、長くなりそうなので長編に変更させて頂きます。 モフモフも、追加させて頂きます。 よろしくお願いいたします。 カクヨム様でも連載を始めました。

断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!

ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」 ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。 「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」 そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。 (やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。 ※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。

婚約破棄されたので、論破して旅に出させて頂きます!

桜アリス
ファンタジー
婚約破棄された公爵令嬢。 令嬢の名はローザリン・ダリア・フォールトア。 婚約破棄をした男は、この国の第一王子である、アレクサンドル・ピアニー・サラティア。 なんでも好きな人ができ、その人を私がいじめたのだという。 はぁ?何をふざけたことをおっしゃられますの? たたき潰してさしあげますわ! そして、その後は冒険者になっていろんな国へ旅に出させて頂きます! ※恋愛要素、ざまぁ?、冒険要素あります。 ーーーーーーーーーーーーーーーーー 文章力が、無いのでくどくて、おかしいところが多いかもしれません( ̄▽ ̄;) ご注意ください。m(_ _)m

白蓮の魔女 ~記憶喪失からはじまる契約婚? 時を逆行し記憶を失った令嬢ですが、バッドエンドを回避したら何故か溺愛がはじまりました!!

友坂 悠
ファンタジー
「——だから、これは契約による婚姻だ。私が君を愛する事はない」 気がついた時。目の前の男性がそう宣った。 婚姻? 契約? 言葉の意味はわかる。わかるけど。でも—— ♢♢♢ ある夜いきなり見知らぬ場所で男性からそう宣言された主人公セラフィーナ。 しかし彼女はそれまでの記憶を失っていて。 自分が誰かもどうしてここにいるかもわからない状態だった。 記憶がないままでもなんとか前向きに今いる状態を受け入れていくセラフィーナ。 その明るい性格に、『ろくに口もきけないおとなしい控えめな女性』と聞かされていた彼女の契約上の夫、ルークヴァルト・ウイルフォード公爵も次第に心を開いていく。 そして、彼女のその身に秘めた魔法の力によって危機から救われたことで、彼の彼女を見る目は劇的に変わったのだった。 これは、内気で暗い陰鬱令嬢と渾名されていたお飾り妻のセラフィーナが、自分と兄、そして最愛の夫の危機に直面した際、大魔法使い「白蓮の魔女」であった前世を思い出し、その権能を解放して時間を逆行したことで一時的に記憶が混乱、喪失するも、記憶がないままでもその持ち前のバイタリティと魔法の力によって活躍し、幸せを掴むまでの物語。

婚約破棄ですか? ありがとうございます

安奈
ファンタジー
サイラス・トートン公爵と婚約していた侯爵令嬢のアリッサ・メールバークは、突然、婚約破棄を言われてしまった。 「お前は天才なので、一緒に居ると私が霞んでしまう。お前とは今日限りで婚約破棄だ!」 「左様でございますか。残念ですが、仕方ありません……」 アリッサは彼の婚約破棄を受け入れるのだった。強制的ではあったが……。 その後、フリーになった彼女は何人もの貴族から求愛されることになる。元々、アリッサは非常にモテていたのだが、サイラスとの婚約が決まっていた為に周囲が遠慮していただけだった。 また、サイラス自体も彼女への愛を再認識して迫ってくるが……。

【完結】妃が毒を盛っている。

ファンタジー
2年前から病床に臥しているハイディルベルクの王には、息子が2人いる。 王妃フリーデの息子で第一王子のジークムント。 側妃ガブリエレの息子で第二王子のハルトヴィヒ。 いま王が崩御するようなことがあれば、第一王子が玉座につくことになるのは間違いないだろう。 貴族が集まって出る一番の話題は、王の後継者を推測することだった―― 見舞いに来たエルメンヒルデ・シュティルナー侯爵令嬢。 「エルメンヒルデか……。」 「はい。お側に寄っても?」 「ああ、おいで。」 彼女の行動が、出会いが、全てを解決に導く――。 この優しい王の、原因不明の病気とはいったい……? ※オリジナルファンタジー第1作目カムバックイェイ!! ※妖精王チートですので細かいことは気にしない。 ※隣国の王子はテンプレですよね。 ※イチオシは護衛たちとの気安いやり取り ※最後のほうにざまぁがあるようなないような ※敬語尊敬語滅茶苦茶御免!(なさい) ※他サイトでは佳(ケイ)+苗字で掲載中 ※完結保証……保障と保証がわからない! 2022.11.26 18:30 完結しました。 お付き合いいただきありがとうございました!

処理中です...