月夜

文字の大きさ
上 下
8 / 9

葬式

しおりを挟む
まるで葬式だった。
元の姿に戻った凪は笑ってみせたけど、雰囲気だとか、周りの人間の反応だとか、そう言ったもの含めて全てが葬式じみていた。
それに対して恐ろしいと思う自分がいた。
葬式。
死のイメージが色濃くついた儀式。
その儀式によって生み出される永遠の命。
あぁ、なんて怖ろしくて美しいのだろうか。
不思議な魅力があった。
相反する二つのキーワード。
でもそんなものよりも。
その力の中心にいる少女しか僕は興味がなかった。
だってあの子は綺麗なのだ。
燃えていく様も、何もかも。
この美しさがわからない人間はきっと、彼女を化け物と詰るのだろうけれど、僕には化け物に見えなかった。
むしろ、神様のようだと思った。
それでも好きと言う気持ちは絶えない。
愛する気持ちは変わらない。
この感情はどこか汚いから、美しい彼女に似合わないと分かっていても向けられずにはいられない。
あぁ、綺麗だ、本当に。
心の底からそう思うんだよ。
凪は此方に向かって来て、僕に抱きついた。
「怖いって思ったりした?気持ち悪いって思ったりした?」
年相応の反応を見せる彼女を見て、僕と同じなんだなと思った。
普通に、他人からの認識を怯える子。
そんな彼女を余計に愛おしいと感じた。
それも仕方のないことだと思う。
「そんなこと、思うわけない。僕が凪のことを怖いとか気持ち悪いって思うわけないよ。むしろ綺麗だったよ」
そういうと、凪は恐る恐ると言った様子で、
「本当...?」
と聞いて来た。
あぁ、本当だよ。
僕はずっと凪のことが好きなんだから。
これぐらいのことで怯えたりなんてしない。
そりゃあ、いくら僕でも渚が人を食しているところとか、そう言ったところを突然見せられてしまったら、流石の僕でも少し引くかもしれないけれど。
「むしろ火花がパチパチしたとしていて、とても綺麗だと思ったよ」
そういうと少し嬉しそうにはにかんだ。
凪はやっぱり普通の女の子と変わらない。
えへへ、なんて言って笑っている。
「凪様、蒼龍家の方が面会に訪れています」
「...今、理久といるから後にして」
「しかし」
凪はふん、としてもう話は聞かないとでも言いたげだった。
「蒼龍家ってなんなの?」
「...分家みたいなところ。あそこは少し嫌なの。一応私の婚約者ではあるけど、私は理久の方が好きだし断るつもり」
婚約者。
まさか実在するなんて。
あんなの古い恋愛ドラマにしか出てこないと思っていたけど、現実にも存在するんだな、と思った。
「それに、私の婚約者だけど、彼は私の弟にしか興味ないの。私と結婚できれば私の弟と家族になれるからなりたいってだけなのよ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪魔の少年と半端な少女

月夜
ファンタジー
主人公である月影月は塔に生まれたときから閉じ込められていた。15歳になったら強制的に外の世界に出られる……。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~

甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」 「全力でお断りします」 主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。 だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。 …それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で… 一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。 令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

処理中です...