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二章 美空ミカエル

君を離したくない

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僕以外のものになって欲しくないって思ってる。
けど、そんな事言えないからずっと言わなかった。
美空には知られたくないと思ってた。
それなら、結ばれる前に僕の傍で死んでしまった方が良い。
おかしい感情なのは理解している。
それでも嫌なんだ。
そう強く思っていたんだ。
けど、正直に言えないから。
そっと心の奥に押し殺していた。
「俺も同じ事考えていましたよ。凪先輩が他の人のものになるのが嫌だって。そんな事になるくらいなら、凪先輩に殺されたい。...、食べられたいって。全部凪先輩のものになりたいなって」
そう言って微笑む。
それはひどく儚げで、綺麗で。
思わず手を伸ばした。
美空がその手を両手で包む。
体のどこかを触れさせていなければ、今すぐ消えてしまいそうだった。
それくらい儚かった。
「凪先輩は他人行儀な気がするから嫌だ。凪って言って。敬語もやめて」
口からそんな言葉が飛び出していた。
そう言うと、耳元でふっと笑って僕の頬を両手で挟む。
急に顔が近づいて、ドキドキする。
青い瞳に吸い込まれてしまうそう。
「ね、凪。俺の全部もらってよ。どうしようもなく狂いそうになるこの気持ちなんて今後一生なぎにしか抱かないよ。ね、責任取ってよ」
そう笑いながら言われる。
まるでプロポーズみたいだ。
胸が壊れてしまいそうな程ドキドキしている。
緊張しすぎて頭がおかしくなりそうだ。
今日死んでしまいそうだなんて、不死身の僕には似合わないことを思ってしまった。
でも、返事をしなくちゃ。
言わなくちゃ。
このまま無言のままでいちゃだめだから。
「僕でいいなら責任だって何だって取るよ。寧ろ取らせてよ」
そう言うと、抱きしめられた。
肺いっぱいに美空を吸い込む。
あぁ、大好きだ。
あぁ、幸せだ。
五年ぶりの再会。
出会い。
何もかも出来すぎているくらい幸せの構図が完成している。
けど、何かが頭の隅に引っかかる気がした。
何だか頭が痛むのだ。
何か、大切な事を忘れているような。
このままエンディングを迎えられなそうな。
そんな嫌な予感。
予感というか確信に近い何かがそこにはあった。
首から下げたネックレスの指輪が光る。
怪しげに光ったそれは何か不気味なものの象徴な気がして。
これは指輪。
指輪だけどなんだか違う気がする。
頭がひび割れるように痛い。
苦しい。
頭が割れて何かが飛び出してしまうような。
中身をぶちまけてしまいそうな。
そんな予感に追われる。
思い出したらこの幸せが消える気がする。
あぁ、嫌だ、嫌だ、嫌だ!!
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