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一章 颯太アテネ

魔女は、笑う

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別に、殺すつもりなんて全くなかった。
僕の魔法を受けたってさ、君はどうせ死なないんだから。
「理久は永遠の時を生きるんでしょ?魔王だからたくさんの命を殺さなくちゃいけなくて、理久の魔法は、殺した人の寿命を自分のものに強制的にするものだから」
君は言う。
まだ幼い体で、僕に一所懸命ついて来ながら。
いや、幼い体なのは僕も一緒か。
少し君より歩くのが上達するのが早かっただけで。
「僕もね、死ねない体だから、理久と一緒にいてあげるね。ひとりぼっちは寂しいもの。僕がずっとそばにいてあげる。一緒に生きよう?」
幼い頃の約束。
きっと、凪としてはごく普通のことを言っただけなんだろう。
凪にとっちゃみんなに優しくするのは至極当然のことなんだから。
でも、僕は嬉しかったんだよ。
僕に、そんなことを言ってくれる君が。
僕の周りにそんなこと言ってくれる存在なんて、いなかったから。
全くいなかったから嬉しくて。
それから、僕の中の特別になったの。
一番になったの。
「だから....凪は誰にも渡さないから..凪はずっと僕だけのものなんだよ...」
だから、邪魔しないでよ、アテネ。

「はぁっ、はぁっ...凪、もう、本当に...」
颯太の体の半分が、青い光で包まれていて、光輪が浮かんでいる。
アテネだ。
アテネが僕を守ってくれた。
颯太の体を使って。
アテネの魔法は颯太の体には負荷が強すぎたようで、バタン、と倒れてしまった。
光輪が静かに消滅していく。
「最後の攻撃ってわけか...」
理久はそう言った。
「さぁ凪、早く僕らのとこに...」
辺りが、黒いモヤでどんどん包まれていく。
「アテネに関わっちゃったわねぇ、理久、そして奏多」
クスクスと、女の声が聞こえる。
僕は、この声を知っている。
「おさらいしましょう?アテネが凪にかけた呪いはなんだったっけ?」
アテネが僕にかけた呪い、それは.....
「僕が死んだら、アテネとの思い出が消えてしまう」
「そう、正解....私はね、その呪いに一工夫加えることにしたの」
一工夫?
「アテネに関わった人物に関する記憶を失くす。ただし、颯太は例外だけどね」
「なんで颯太は例外で僕はダメなんだよ!!月!僕も加えろ!!」
「嫌よ。だって颯太は凪のことを好きすぎる。理久とは別の狂い方をしている...それにこのまま放置した方が面白そうじゃない!」
魔女は、高らかに笑う。
「だからね、私が凪を殺してあげる。凪は......」
続く言葉は、モヤが針に変形し、その針に貫かれた僕の悲鳴によって、かき消された。
身体中を貫く痛み。
走る激痛。
そのまま意識はゆっくりと落ちていく。
「ア....テ...ネ....」
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