跪かせて、俺のDom

瀬野みなみ

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act.03

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act.03

元々巻き込まれやすい質だった。
幼いころはよく誘拐されていたらしい、この前財布を拾って交番に届けたら警察官が俺の名前を覚えていて、君の小さい頃は~っていう、親戚のおじさんのような話しをしだした。

まあ、こんな体質だったから、恋人と出会うことができたんだろう。それは感謝しているが、まさかこんなことになるとは…

大学から出ていつもの帰り道を歩いていると、突然後ろから男数人掛かりで拘束され黒いハイエースに乗せられた。そのまま手を縛られ、目隠しをされてどこに連れていかれるのか、犯行グループが何人いるかすらもわからない。

まあ、何故こんなに落ち着いていられるかというと、俺の恋人が誰か、という答えを知っていればわかるだろう。
優しそうな甘いマスクをひっさげた彼は、初対面で俺を強姦した男だ。さらに言えば、ヤクザの組長であるのだ。普段、家では仕事の話はしたくないかな、と思って詳しい話なんて聞いたことはないが、彼の背負う物は決して小さい物ではない。

きっと用心深く、千里眼かという程自分の周りに情報網を張り巡らせている彼のことだ。早いところ解決するだろう。

「随分、落ち着いているんだね、入間 俊平君。」

フルネームで呼んだ声は落ち着いて、甘さと色気を含んだ声だった。
声だけの印象であれば、山蛇さんに近しいものを感じる。音や振動からして俺はまだ車の中にいるのだろう。声は真横からした。するり、と耳を撫でられて、腰がうっかり浮かせてしまう。

「はあ…やっとあの黒蛇の元から君を連れ出せた…これからは、僕の元においで、かわいがってあげる。あんな内面腐ってる奴といたら、君まで腐っちゃうよ」

そう言って、俺の浮かせた腰を大きな掌で撫でる男。めちゃくちゃに変態臭い。前言撤回だ。山蛇さんはこんな変態臭くない。もっと、色気があって、彼の声を聞くだけで欲情してしまうような…。俺の耳に直接吹き込むように、小声で丁寧に話す男にむかっ腹が立ってきたが、喋れないので、貧乏ゆすりで訴える。
喋ってやるから、この口に噛ませたタオルをとってくれ。

男は、黒蛇、と言っていたが、それは山蛇さんのことだろうか。やっぱりちゃんと話を聞いておくべきだったか。
そう言えば、今朝出かける時に「最近はちょっとこっちのヤマでいろいろあったから、帰りは僕が迎えに行くね」って言ってた…ような…

これは、確実に怒られる奴だ。お仕置きと称して、この前延期してもらった尿道を開発されてしまう。その瞬間、口の中が乾き、俺の体温が下がっていく。

それを、良いように解釈したのであろう、俺の耳元でずっとなんか言ってる男は「怖がらないでいいからね…」なんて言っていたが、俺はそれどころではなかった。



しばらく経つと、車が止まった。腰に手を回されて女のようにエスコ―トされる。車から降ろされて、歩いていく。床はカーペットが敷いてあるようで、匂いは少し古い建物のようだ。

どこかの部屋に入り、ここに座って、という言葉で腰を降ろす。
ようやく目隠しが外されてやっと視界から情報を得ることができた。内装を見るに古い洋館らしき場所に連れてこられたようだ。
彼らの向かった方向と、頭の中にある地図を照らし合わせると、そこまで遠くに来たわけでもなくM市だろう。噛まされていたタオルもはずされ、やっと喋れるようになった。

「アンタ、俺を誘拐するならもっと遠いとこまで逃げないと。」

黒髪をワックスで撫でつけて、細いフレームの眼鏡をしている目の前の男。コイツが主犯格なのだろうか。深緑のスーツを着る細身の男は神経質そうだに見える。

第一声がそれだったことが面白かったのか、男はクスクス、と笑い始める。

「大丈夫ですよ。黒蛇はきっと来ない。」

「そんなことより、自己紹介をしていなかった。私は緑葉会りょくようかいの若頭、げんと申します。」
「はあ…」

曖昧な返事にすら満足そうに笑う玄。それにしても、緑葉会は隣街に縄張りを持つヤクザだったような気がする。おれはそういったことにあまり詳しくないけれど。

「黒蛇はあなたにこういった話はしないのですね。随分甘やかされているようだ」

甘やかされている…?今日だって、口うるさく弁当持ったか、ちゃんと顔を洗え、最近は物騒だからって母親のようなやかましさだったぞ。

「ならば、教えてあげましょうか…?龍河組組長、山蛇という男について…」

それは大変に甘いお誘いであった。彼は基本的に仕事の話をしたがらない。理由を一度だけ聞いたことがあるが、「精神衛生上良くない」と言われてしまった。やはり俺は彼の恋人ではなく、子供なのだろうか。

そもそも、彼は俺を全く信用していないのではないか。今日みたいに、簡単に他のヤクザに捕まっちゃうし、そんな野郎に大事な情報を渡せない、ということだろうか…。

別に全部を話してほしいということではない。彼は、よく忽然と消える。短ければ二週間、長い時は一か月。

それすら、連絡も無く、なにが恋人だ。

そう思うと、次第に悔しくて目のあたりが熱くなってきた。


俺がボタボタと泣き始めたことにびっくりしたのか、自信たっぷりに笑っていた玄が焦り始める。どもりながら、どうしたんですか、なんて聞きながら背中をさすってくる。

あれ?コイツ意外と良い奴じゃね?



「そうだったのですね…」
ぐすぐすと泣きながら話すと、玄はその繊細そうな瞳を少し潤ませていた。
「僕は、麗しい男を集めるのが趣味なのですが…」
そう言って、話始めた。まて、話をするのは構わないが、初っ端からぶっ飛ばしすぎではないか…?
「交友の証として送られてきた男が問題で…」
それでも、しれっと被害者ヅラして語る彼の顔は儚い。
「確かに、好みど真ん中の若い男だったのですが…

話しはきかないわ、自分の意思が強すぎて全然ペットらしくないわ、挙句の果てにこの僕を組み敷いたんです…!」

それは…ツッコんでいいのか、嘆くべきなのか…
いや、この男が突っ込まれたのはナニだが。

「そこで、僕は彼に復讐をするべくあの男の周りを探っていたら、君に辿り着いたのです…!しかも嬉しいことに、君は僕のタイプど真ん中じゃありませんか!」

ここまで来ると、知らねえー…の一言に尽きる。
なんだこの茶番は。

「ホント…やはり、そんな男は放っておいて、僕にしませんか…?
気持ちよくしてあげますよ?」

そう言って、俺の首から腹にかけて掌を撫でつけられる。その仕草に嫌悪感が起こり、どうにかして腕を縛る手錠を外そうとするが、やはりというかなんというか外れない。

俺の屈強な腹筋をもってしても、押し倒されマウントを取られてしまった。

「いやいやいや、それは話が違うだろって…!」
「なにも違わないですよ…気持ち良いことをするだけですよ…」

ひいぃいぃぃやめてくれ…というより、あの優男助けに来るのが遅すぎやしないか…?早く来いよこンのあんぽんたん!!!



「お待たせ、僕の王子様」



「でたな……!黒蛇……!なぜ、ここが……」
「彼の前でその呼び方はやめてもらえるかな、玄」

黒いシックなスーツを身に纏い、ループタイをした彼は世界一かっこいい。長い足が強調されるような作りで、足首が少し見える丈のスラックスと少しヒールの高い革靴が山蛇さんらしい。玄の後頭部に拳銃を突きつけた山蛇さんの目は据わっている。

「ちょっと、彼を連れてくるのに時間がかかってね、でも助かったよ。さすがに玄の祖母の家なんて知らないからね」

「申し訳ありません、山蛇様。私の恋人の頭に物騒な物を向けないでいただけますか。」
あぁ、悪かったね。なんて彼が顔を向けた先は山蛇さんより少し背の高い目付きの悪い男。

「く、熊、お前、本家から呼び出し食らってたんじゃ……」
山蛇さんに拳銃を突きつけられても怯えることなく平然としていた玄の口元が引き攣っている。
「ですから、山蛇様に連れ出されたのです。さあ親父さんカンカンでしたよ。」
そう言って細い彼の身体をひょい、と軽々担ぎあげ、熊と呼ばれた男は部屋から出ていく。その間玄はやだやだ、と騒いでいたけれど。

「俊平くん」

クリップを使い、手錠の鍵を開けた山蛇さんは、ベッドに転がった俺の身体を抱き締める。
その仕草がまるで迷子の幼子のようで、胸が締めつけられる。

「…僕は、君にそんな思いをさせているだなんて、知らなかった……」
「やまださ…」
まさか、先程の玄に零した愚痴を全て聞いていたというのだろうか。俺がじとり、という猜疑心溢れた目で見つめると、彼は笑って自分の右耳は指さした。

まさか、このピアス…

「防水加工盗聴器搭載」
さらりと言いやがった。そう言えば、最近何かとタイミングが良く、特に自慰をしていると部屋に入ってきたりといったことが多かったのだ。
その事実に、顔が熱を持っていくのがわかる。

「そ、」
「そ?」
「そこまでやるなら、GPSもつけやがれ!!!」
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