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7章 大高城主

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 成利の危惧が、露になる動きが起こった。
「なにーっ、竹原のか!」
「はい、そうでございます」
 成利の問いに、家老の羽島は固い表情で頷く。横には、筆頭家老の柴田も控えている。
「そなた、何を言っておるのじゃ! なにゆえ、わしが竹原の女子を娶らねばならぬ!」
「先方の、竹原家からのたっての願いでございます。我が高階家と、縁を結びたいと」
 それを、竹原が望むのは容易に分かる。そのようにして、松川と同じように、我が高階家も支配下に起きたいのだろうと。
 だが、それに何故家老が賛同するのか理解できない。
「それを受ければ、我が高階家は竹原の風下へ立つことになる。いや、そもそも我が高階家は、津田様にお味方しておる。そのようなこと出来ることじゃない」
「津田様にお味方した時とは、今の事情が変わっております。義定公討死の後は、松川様も危ういものでしたが、竹原様の力添えで力を付けてきております。我が高階家も、竹原様の力添えいただかねば、この城の守りも危ういものとなりましょう」
 成利は、羽島の言葉にめまいがしそうになる。力添えを得る、それは属国になると同意じゃ。松川の下についていた時代、どれ程の苦難を忍んだか忘れたのか。己の人質もその一つ。父上もそれを、死に際まで悔いておられた。
「津田様にお味方したのは、あの時の重臣の総意でもあった。それを今更、そのような信義にもとること出来ぬぞ! よいか、その話はっきり断るのじゃ! よいな!」
 怒りを滲ませ立ち去る成利を、家老二人は平伏して見送った。

 筆頭家老の柴田は、成利の気持ちが理解できた。ああ、やはりそうだろうとの思いだった。
 柴田自身、松川から受けた煮え湯を忘れてはいなかった。常に危険な先鋒ばかりを命じられた。竹原の話を受ければ、結局は同じ轍を踏むことになるとの思いもあった。
 確かに、強敵に挟まれた土地柄、気は抜けないがそれは致し方ない。気概を持って守るだけじゃと思っている。
 しかし、柴田は城の大勢が羽島に傾いていることも感じていた。

 怒りを露わにした成利に、羽島は苦々しい思いを抱く。
 成利が元服した折に羽島は、自分の妹を成利の正室にと思い、随分と運動したが、ついに叶わなかった。
 待たせた末、行き遅れになってしまった妹は、自分の配下の者へ嫁がせた。年頃を過ぎたため格下へ嫁がせざるを得なかったのだ。
 それ以来、羽島は恨みがましい思いを、成利へは持っていた。
 さすがに成定に対しては、叛意を向けることはなかったが、成利の代になった。遠慮はいらぬと思っている。
 城の大勢を徐々に自分に傾け、このまま己の力を増して、いずれは成利にとって替わる。己が大高城の城主になるとの野心があった。
 そもそもが羽島は、妹を成利の正室にと考えたのも、野心からだった。野心の塊のような男が、羽島という男だった。
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